薄墨潤から私たちは殺人鬼を追う理由と、昨日見たことについて洗いざらい根掘り葉掘り質問されて脳が疲れてしまうくらい会話をした。
しばらくは誰とも話をしたくないくらいだ。

殺人鬼からのメッセージに気付いたのが途中からなのか。やはり最初からではないのだな

防衛隊も殺人鬼について調べ始めたのだが、殺人鬼からのメッセージを気付いたのは6件目の事件からである。私たちも6件目の事件から気付いた。
私たちと防衛隊の捜査の進行状況が同じ程度であることがわかった。

ええ。抽象的で小説のような表現ですが、見つかってほしいのでしょうか

野川 詩音

もしくは、自分を止めてほしいというメッセージなのか。ということで考えているのですけどね。よくわかりません

時は過ぎていって、6時間目の授業に入る。その次は7時間目。タブレットに授業の録画を予約した。
今日は勉強で面倒くさいことになるだろう。晩御飯は、お弁当や総菜で適当に済ませよう。
今日は疲れた。話したくないことまで話しそうになって疲れた。

少し、外で話をしてくるから待っててくれないかい?

と防衛隊のみんな、4人が外に出ていった。
私と詩音は緊張の糸が切れて、椅子にもたれる。
自分たちの秘密というか、隠しておきたい心が暴かれそうな危うい感じがずっと体中を縛っていて疲れてしまった。

薄墨潤がメンバーを連れて外に出た先は、倉庫。
これまでの街の事件に関する資料が保管されている。
秀俊と颯太と悠月は潤がこれから言うことを予想していた。

二人を仲間に入れようか

防衛隊と詩音と瞳子の利害は一致している。
殺人鬼を捕まえて真実を明らかにすることだ。それに至る経緯は異なるが大元は同じである。

仲間ってことは一緒に行動することか

賛成!異議なし!

颯太と秀俊は反対の意はなく、問題ない。悠月も賛成であるが、しかし…と続ける。

木原 悠月

仲間にするとしても、難しいじゃないかな?警戒していたじゃん

詩音と悠月は強く警戒していると悠月は思った。
紅茶のおかげで少しは和らいだのかもしれないが、まだまだ油断はできない。

それは、なんとかするしかないね。しつこいぐらいに接触すればいい話だ。
それに…

木原 悠月

それに?

私は個人的に仲良くしたいのよね。辛い物が大好きな仲間として、せっかくにいい機会だからね

木原 悠月

やはり、辛かったんだね。あのハンバーグ

薄墨潤は辛い物が好きである。麻婆豆腐はやはり本場の辛い味しか受け付けられないし、カレーライスも甘口は無理、辛口は最高、そして妥協して中辛ならいいという癖の強い人だ。
辛い物が好きだが、そんなに好きではないという3人にとって潤の嗜好は理解できない。

潤が自ら仲良くしたいっていうの、珍しいじゃん。女の子相手に

まあね、私はいろいろと特殊な身だからね。この機会を逃したくないのさ

潤の家は経済を動かすある企業の創業者の息子、そう、御曹司である。
何やら付き合いがいろいろあるので、誰かと仲良くしたいというのが面倒くさくなっている。
女と言えば、家柄と金に目が輝く人ばかり。

大体、辛いのが苦手で付き合うのを断るってひどい話ではないか?舌がなんて貧弱な人が多いことだ

と潤は不満を口にしていたが、悠月と秀俊と颯太は、潤の舌が強すぎて話にならないのでは?と口にしないでいた。
潤の付き合いというのは難しい。デートに激辛料理店に連れていく方が厳しいのではと思っていた。

一方、詩音と桐子はここで待ってなさいと言われていたのだが、さっそく脱走しようと思っていた。
扉には鍵がかけられていないが、廊下には見張りの生徒が二人いる。

どうしました?

扉を少し開けて廊下を見ていたら、見張りの人が声をかけてきた。
脱走したいとは言わずに、暇なのでというともう少しお待ちくださいと言われた。

テレビがあるでしょう、使ってもいいですよ

と、言われてテレビをつけたら、ちょうど何やら大きな事件があったらしくそれを見ることにした。
ワイドショーで、大きな事件というのは殺人事件。
犯人と被害者とは接点が全くない、犯人は少年、未成年の男。
少年犯罪だから名前と顔が法律によって優しく守られていた。

野川 詩音

ねえ。どうする?

詩音が突然質問をする。
桐子は何のことかと思った。

どうするって?

野川 詩音

この後の展開だと、防衛隊の人と一緒に行動するってことになるかもしれない

一緒に事件を解決しようっていうの?

殺人鬼を負う理由は、友達のため。
防衛隊の負う理由は、正義のため。
大切な、個人的な思い出あるこの活動を、正義という大層な目的を持った人たちと行動なんて、したいとは思わない。これは、自分にとって大切なものだ。
生きるための、なにか大切なもの。

野川 詩音

私は、一緒に行動してもいいと思うのよね

桐子は詩音の意見に驚いた。
詩音は人の助けなんていらないという突っぱねることがある。
桐子は防衛隊を快く思わないだろうなって思っていた。

どうして?

野川 詩音

なんとなく…かな。早く犯人を捕まえたいし、それに、瑞希との決別というのかなんというか前に進むためなのかな

前に…進むか…

詩音は前に進むためと言う。
私は、なんだろうかと考えていたが、瑞希との約束があるからと答えを見つけた。
瑞希がやるはずだった約束を果たすためだ。瑞希が抱えている秘密を守るため。
瑞希がいた証を守るためだ。果たせない約束を、果たしたいと不可能な事をしたいと思っている。
瑞希の死体を思い出す。血まみれの、動かなくなった人形。
私は生きている瑞希も死んだ瑞希も好きである。
だから、私は瑞希の死体を忘れずに生きていく。

私は、頼らないよ

桐子はそう言った。
生きている人間が怖いからだ。
死体は動かないという完結した、完了したものだから安心する。
でも、生きている人間は何をしでかすかわからない。
もちろん、詩音と瑞希は安心できる人だった。
しかし、防衛隊はどうだろう?
そして、クラスメートもどうだろう?
私の想像の外にいる人たちなのだ。対処できないだろう。私は彼らが怖い。

ごめんね。なんか怖いんだ。詩音は大丈夫だけど、防衛隊の人だけじゃない、人間全体が怖いんだ

詩音は桐子が小さいころの嫌な事で人間嫌いになっていることを忘れていた。自分ばかり良いことを考えていて、桐子のことを気にかけているのを怠っていた。
詩音は桐子に謝ろうとしたのだが、ドアが開いて潤ら4人が戻って来た。

おまたせ、話するけどいいかな

そして話は予想通りの展開。
詩音は賛成して、桐子は潤の話を聞いた途端、外に出て去っていった。

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