【6】女の闘い
お前たちは勝手に出歩いてなに問題を起こしているのだ
……いや、問題起こしたくて起こしてるわけじゃないって
応接間に残っていたキリオと
合流した俺たちは
指示のあったホールへと
向かっている。
キモオタとは言え
人ひとりいなくなった事実は重く
それが沈んだ雰囲気を倍増させるのか、
誰も喋ろうとしない。
そんな中で
別行動をしていたキリオだけが元気だ。
あの諸々を目の当たりに
していないからかもしれない。
虎次郎の遺体は誰も見ていないのだろう?
それでは彼が亡くなっているとは限らないではないか
あまりに重苦しかったのだろうか。
キリオは冷ややかに俺らを一瞥すると
そう言い放った。
お前たちは手を怪我したぐらいで死ぬのか?
そ、そうよね。
きっと無事よ虎次郎くんは
キリオ……頼もしい
美登里とうさぎが顔を上げた。
「死んでいるかもしれない」が
「あれくらいで死んでいるはずがない」
に変わったのだ。
圧し掛かっていた重圧は
かなり違う。
そうでなければな。
我々が残念な結果ばかり考えているから、虎次郎も出るに出られなくなっているのかもしれないぞ
キリオはふっ、と涼やかに笑った。
もともとルックスのいい奴だから
そんなさまも嫌味ではなく
妙に決まっている。
うさぎなんか芸能界にいるんだから
出会う男の数も
尋常じゃないだろうに
はたから見てもわかるくらい
ポーっとなっていて
虎次郎がいなくてよかった
と、マジで思う。
奴が今のうさぎを見たら
半狂乱になること間違いないし
もしかしたら
血を見ることになるかもしれない。
とは言え相手は軍人だから
返り討ちにあうのは
火を見るより明らかだけれども。
軍人なんてものはいつだって死と隣り合わせだからな。
お前たちのような市民より耐性はある
自分で一般人扱いしてくれと
言っていた割に、
キリオの言動は
一般人からはかけ離れている。
生死を身近で感じる人生を
送ってきたような
……なんていうか
心配事と言えば購買部のパンが
売り切れるかどうか、みたいな俺らとは
一線を画している。
きっと根っからの軍人なんだろう。
だがこんな異常な状況では
それが頼もしい。
この状況下なら俺でも惚れる。
……かもしれない、だからな!!
しかし虎次郎が怪我をしているであろうことと、誰かに襲われたかもしれないということは考えておくべきかもしれない。
……そして後者の場合、その誰かは我々にも害を為してくるおそれがある
なるべくひとりにはならないほうがいいわね
頷く美登里。
そんな彼女とキリオの間に
割り込むようにして
キリオ! あたし、キリオのそばを離れなぁい!
うさぎが
キリオの腕に自分の腕を絡ませた。
話に割り込まれたからか
物理的に割り込まれたからか、
美登里が明らかにむっとした。
が、
そんな美登里に
気づいているのかいないのか
うさぎはキリオから離れようとしない。
それは光栄。
私も軍人の端くれ、救いを求める子羊を守るのは責務だ。安心するがいい
はい……!
まんざらでもないのか
女には甘いのか、
キリオもそんなうさぎを
振り払うことなく好きにさせている。
しかし、
そんなふうに腕を組んで歩く様子は
なんとなく場違いだと思うし、
不謹慎だとも思うし、
虎次郎が見たら
今までの自分を悔い改めて
出家してしまいそうな変わりっぷりで。
オッサンまでもが
俺もあと10歳若かったらなぁ
なんて言い出すほどのイチャつきっぷりは
目に悪い。
だが、
は? ばっかじゃねぇの?
オッサンなんか若くたって無理だってーの
と、小さく悪態をついたところから見るに
うさぎにしてみれば、
惚れたというより
この中で一番冷静な判断をして
冷静に戦ってくれそうな誰かを
キープしている。
というあたりが本音だろう。
女って魔物だな
なに言ってんの?
そう言えば杏子は
キリオに対してうさぎや美登里のような
態度を取っていない。
それが、ちょっとだけほっとする。
いや!
俺は、杏子がイケメンを
どうとも思ってないみたいから
ほっとしてる、
ってわけじゃないからな!!