【34】消えた時計






















剣持 朱梨

……

小鳥遊 杏子

どう……したの?

剣持 朱梨

……なんでもねぇよ

小鳥遊 杏子

……



黙って扉を閉めた俺に
察したのだろうか。

杏子はそれ以上
彼らふたりのことについて
聞いては来なかった。























剣持 朱梨

そんなことより、俺らもこれからどうするか考えないとな

小鳥遊 杏子

……そう、だね



そうだ。
俺たちはずっとここに
いるわけにはいかない。








この部屋に扉は2つ。

俺たちが入ってきた扉と
虎次郎たちが出て行った扉。

あっちが駄目なら
こっちしかない、ということで


俺は

剣持 朱梨

入ってきた扉は~

入ってきた扉のノブに手をかけた。





剣持 朱梨

やっぱ、やめとこう。な

小鳥遊 杏子

……



杏子はそんな俺の様子を
じっと見ているだけだったが

小鳥遊 杏子

朱梨、無理しないで

と、ぽつりと呟いた。







剣持 朱梨

無理なんてしてねーし

小鳥遊 杏子

してるよ。あれで笑っていられるはずないもん

小鳥遊 杏子

ここから出る扉が……ないんでしょ?

剣持 朱梨

……




妙なところで察しがいい奴は嫌いだ。


俺が言わないことまで
杏子はわかっている。





俺が言わない気持ちも
きっと、

剣持 朱梨

ほら、あれだ。
また鐘が鳴ったら違うところに行けるかもしれないってやつだよ



配膳室に行けなくなってしまったように。
螺旋階段が現れたように。



時を告げる鐘が鳴ったら
この2つの扉の先も違うものになる。

それまで待てばいい。





もしかしたら
また化け物が出てくるかもしれないけれど
でも、
違う道だってきっと現れる。




そう言いながらも
ふと、違和感を感じた。
















これは
美登里さんの時と同じだ。





美登里さんを置いていく
選択をしたあの時、
鐘が鳴るまで待とうと言ったのは
オッサンだけだった。



俺たちは鳴るまで待たなかった。
待てなかった。


それなのに今、
同じことをしている。

偽善者


あのノイズ交じりの声は
俺たちのことをそう呼んだ。




俺たちのしていることは
本当に正しいことなのか?

これが正しい答えなのか?


小鳥遊 杏子

正しい答えを示さなきゃ道は現れないんじゃなかったの?

剣持 朱梨

……




この状態で
鐘が鳴るのを待ったところで
正しい道が現れることなど
ないんじゃないだろうか。












ずっと現れなかったら



















正しい道より前に
あの化け物が現れるかもしれない。












……それに









小鳥遊 杏子

鐘……全然鳴らないね




違和感はこれだ。




この部屋に来て
もう1時間は軽く経っただろう。

それなのに鳴った覚えがない。


剣持 朱梨

あ、そうだ。
オッサンが時計持ってた



俺はオッサンが腕にはめていた
オメガを思い出した。

それを確認すればいい。
さすがに外して持っていくのは
外道のような気がするけれど

見るだけなら……
















剣持 朱梨

いない!

小鳥遊 杏子

えっ




そこに
オッサンの姿はなかった。



彼の上にかけたテーブルクロスと
手向けた橘だけが

床の上に残っていた。














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