…………

朝、洗面台で顔を洗う。
それだけの有り触れた光景なのに。
どうして、こんなにホッとしているのだろう。

生きてる……私、生きてる……

顔を洗いながら、洗面台を見下ろす。
私は、まだ生きている。死なずに済んだ。
誰かのおかげで。

……だけど。
代わりに誰かが死んじゃった。
死んじゃったんだ。

分かってるよ。
こうして生きているだけで、私は誰か殺してる。
生き続けるたびに、屍が増えていくんだって。

だけど。わかってるけど。
どうすればいいのかな……?

私は、出来ることをできるだけやってるよ。
必死に、足掻いて、死物狂いで。

でもさ、結局……。
私のやってることって悪いことだよね。

不意に。
手に、温かい水が落ちた。

私は。
気がつかないうちに、涙を流していた。

っ……

わかってるんだけど。
理解しているんだけど。
やっぱり、つらいよ。苦しいよ。
どうして、こんなことしないといけないの。
どうして、こんなことになっちゃったの。

私は高望みしていない。
ただ死にたくないだけだよ。
生きたいだけだよ!!

うっ……

何で私たちなんだ。
何で私達がこんなことしないといけないの。
何で私達だけが、連れてこられたの。
そんなの不条理だよ……。

酷すぎる。私達が何をしたんだ。
ただ生きていただけで、日常にいただけで、こんな仕打ちをされないといけない罪を犯したつもりなんてない。

誰か、教えて。
私は何か悪いことをしたの?
人を殺して生き残らないといけないこの状況で、私は何をすればいいの?

あ……あぁ……

私は、声を出して泣き出した。
もう嫌だ。こんな生活、嫌だ。
早く家に帰りたい。
父さんと母さんに会いたい。
全部投げ出して逃げ出したい。

助けて。
たすけて。
タスケテ。

ここにいることを強要されて。
ここで殺し合うことを強いられて。
ここで疑い合うことを押し付けられて。

私達に、何をさせたいの?
ただの高校生である、私達に。
ただの子供で、普通の学生だよ。

考えても、答えなんて見つかるわけもなく。
ふとした瞬間、自分が何をしているのか我に帰る。
そして、こんな風に涙して、後悔する。

ッ!?

一瞬の出来事だった。
自分の手に落ちている涙。
それが……血に見えた。

私の眼が、血の涙を流している。
真紅にに染まった、綺麗な単色。
真っ白な洗面台を……染め……。

染めて……
そめて……
ソめ……て……

やめてェッ!!

違う、私は誰も殺してない!!
私じゃない!!
私は悪くないッ!!
あの人たちが死んだのは、私のせいじゃない!!
殺したのは私じゃない!!

思わず頭を抱えてしゃがみこむ。
違う、私……何も……。
悪いことなんか……私は……。

陽菜

逆井さんッ!?

陽菜

今何か悲鳴聞こえ……!?

あぁあああああぁああああっ!!!!!

陽菜

さ、逆井さん落ち着いて!?
なにこれ、血っ……!?

あ、ああああぁああぁああっ!!!!

信一郎

一体何事だい!?
誰の悲鳴だ!?

陽菜

車屋さんッ!?

陽菜

やばいんだよ!!
逆井さんがっ!!

信一郎

これは……血涙……か?
逆井、君は……

あ゛ァ゛あぁアあ゛ァッ!!!!

信一郎

マズイな……!
過度のストレスが原因か……
神田、救急箱を持ってきてくれ!!
早くッ!!

陽菜

取り敢えず分かったよッ!!

…………

信一郎

漸く収まったか……
疲れてるんだろう、よく眠っている

血の涙……
聞いたことがあったが……
そもそもストレスで流れるものか?

信一郎

血涙って言っても、比喩じゃなくて実際に起こりえる症状なんだよ
色々原因が考えられるけど、この状況からしてまずストレスだろうね
彼女は強がってはいたが、実際はこれだ

信一郎

今は彼女を刺激しないであげてくれ
こうなった以上、何かしら身体に悪影響が出始めている
治療ができない分、誤魔化しておくしかないんだ

日和

あれだけヒステリックに叫んでれば、予想できてたわよ
ストレス過多でおかしくなったのは気の毒だけど

陽菜

逆井さん……

恵介

で、だ
こんな状況じゃ、進められねえな……

恵介

ちょっと休んだほうがいいだろ

桃子

でも……

日和

再開したいところだけど、肝心の占い師が死にかけじゃ、どうしようもないわね

陽菜

…………

信一郎

ゲームのことは、一度忘れよう
昨晩の霊能の結果だけ教えておくよ
……高橋は黒
彼女は間違いなく狼だったよ

成程……あいつは本当のことを言ったのか

信一郎

そうだね、だから二人は違うってことさ
今日死人が出ていないってことは、襲撃は失敗したということになる

信一郎

つまりこの中の狼は、逆井を狙ったということになるね
狩人が守ったから、死んでいない

陽菜

優先順位のことだよね?
きっと狼にとって、逆井さんは最も邪魔な存在になってる

恵介

ああ、納得したぜ……
村人の連中は占い師ナシじゃ進めねえ
だからか

本物確定のあの子を狙うのが理屈的だろうな

桃子

でも……それなら、どうして同じ役職持ちの車屋君を狙わなかったんだろう?

日和

脅威度の問題よ
昨日の時点で一番面倒だったのは、確定している逆井さんだったってこと
車屋さんはまだ微妙だし、狼からすれば死人を暴く奴よりも見通すほうがおっかないのよ

信一郎

ご明答
優先順位は常に占い師が一番だ
僕はおそらく二の次だろうね

信一郎

……問題は、彼女の占い先だ
どこを占ったのか、聞いてないんだよ

陽菜

確か……板垣さんをするとかしないとか……
そんなこと言ってたと思う
あたし、昨日帰り道で聞いたんだ

桃子

わたし?

陽菜

あの様子じゃ……やったと思う
でも、結果まではわからない
聞く前に、あの状況だったし

桃子

わ、わたしは狼じゃないよ!?

陽菜

そんなこと言われても困るよ
時間内に起きてくれるといいけど……
最悪、あたし達だけで決めよう

信一郎

そうなるね
下手に叩き起して、錯乱でもされたらこちらが不利益になる

いいのか……それで?
占い師無しで投票を実行するなんて

恵介

だからって根暗が寝てっとこ起こせってか?
それこそ無理強いじゃねえか

恵介

いい加減、感覚が麻痺ってきたぜ……
どうせ今日も死ぬんだ
だったらこいつが居なくても何とかなるだろ
少なくてもこいつは疑わなくていい

桃子

そういう言い方は……

陽菜

言い方なんてどうでもいい
やるしかないんだから
残り人数が偶数でも決選投票すればいい
そうだよね? 確か

信一郎

…………

信一郎

そうだね、決選投票すればいいんだ

なら仕方ない、か……

日和

しょうがないわね……

信一郎

違反する前に起こさないといけないのは同じだ
そこで、割れた最後を入れてもらおう

信一郎

だが……妙だな
神田は何故決選投票という言葉を知っている?
彼女は素人じゃなかったのか?

信一郎

逆井にルールを聞いたのか?
それにしては……優先順位のことも理解している……
そんな細かい事を、僕の部屋でした覚えはない
帰りの道中、聞いたとすればまだ納得はできるが……
そもそも、本当に板垣を占ったのか、逆井は?

信一郎

まさかとは思うけど……彼女は……

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