しばらく黙ったまま要くんと、見つめあったけど、いまだに動けない。


本当に本物なのか

しつこい程マジマジと見つめていたら、鋭い目で睨まれてしまった。

雨宮 要

なんなんですか?間抜け顔で見ないで欲しいんだけど。

間宮 朱里

あ、は、はい。すみません。

雨宮 要

とにかく、お前と翔平先輩じゃ月とスッポン。俺の憧れの師匠にあんまり近付くな。ブス



ビシッと指を指されて凄まじい迫力に思わず後ずさる。


近付くなと言われても…弟子なのに。

間宮 朱里

か、要くんは何か勘違いしてるよ。私は別に石川くんとどうこうなりたいんじゃなくて、弟子としてお側にいるというか、、

雨宮 要

…はぁ?

間宮 朱里

き、気持ち的に言えば要くんと同じだよ!師匠の素晴らしい生き方を学んでるという



どうしてだろう。
私が喋れば喋るほど要くんの冷たいオーラが増していった。この空気を和らげたいのに、言葉を選んでも張り詰めていくばかり。


雨宮 要

……こっちだって翔平先輩がお前に見向きもしなかったら、わざわざ本性晒してまで面倒くさい忠告しないんだよ。



小さな声で彼は何か呟く。私には聞こえないようにしたのか、聞き取れなかった。


間宮 朱里

…あ、あの私ね、実は


このままじゃ嫌われていく一方かもと、いままであった経緯を曝け出そうと覚悟を決める。

しかし要くんはパッと私の前に手を出して、話を止めた。


雨宮 要

お前の話なんかこれっぽっちも興味ないから。聞いてもないことペラペラ話さないでくれますか。



そして正に”一刀両断”。
文字通りだと感心するほどの勢いで、口を封じられた。

間宮 朱里

いやでも

雨宮 要

あーもううるさい!!黙れ!口ん中に何か突っ込むぞ!!



…か、要くんって…ものすごく恐い。
いままでの天使イメージがパリンと音を立てて割れていく。


雨宮 要

大体下品にキスマークつけて歩いてる女は信用しませんから。翔平先輩が休みだからって、最低な人ですよね。頭悪い

間宮 朱里

!?いや、あれはむ、虫刺されって

雨宮 要

そんなわけないだろ。先輩騙すとかどれだけ悪女なんだ。早く正体現せ。



虫刺されだと要くんが言ったのは、もしかしてわざと私を困らせようとしたから?

なら元々キスマークだってバレてたの!?


かぁああああと顔に熱が帯びる。
し、しかも石川くんがつけたのに!!

雨宮 要

…な、まだ演技する気なんですか?

間宮 朱里

い、いや、そんなつもりは

雨宮 要

…やっぱり恐ろしい女ですね。俺は絶対騙されない。翔平先輩の目も覚まさせてやる!!

間宮 朱里

あ、ま、まって



とんでもない誤解が生まれてしまっていると弁解しようにも、要くんは全く私の話を聞いてくれなかった。

雨宮 要

ブスはブスらしく、自分のレベルにあった男の相手してろ!!連絡先聞いてきたとかいうのがいただろ!



つーちゃんが言ったことをはっきり覚えているんだろうか。彼はそう叫び、こちらが凍りつくんじゃないかと思うほどの視線を向けてくる。


雨宮 要

あと、このこと翔平先輩にバラしたら、覚悟しとけよ。




そしてそんな脅しを添えて、ふんっ!と勢いよく背中をみせ歩いて行った。


私はいまだに彼の本性を受け入れられておらず、放たれた暴言の数々に唖然として立ち尽くしている。


雨宮 要

朱里先輩


これも

雨宮 要

明るくてとっても素敵ですもんね


これも

雨宮 要

朱里先輩ってすごく優しいんですね。お話できて嬉しいです。


これも


全部嘘だったってことなのか。
本当は私のことずっと疑ってたのかな。


間宮 朱里

はぁぁ。



大きく出たため息。
これは中々のダメージだ。
懐いてくれていると思っていた後輩、そして石川くんの素晴らしさを唯一語り合える相手が、私のことが本当は嫌いだったなんて。


嫌い…とは言われてないけど、いやでもあれは絶対嫌ってる。



しかし要くんの言うことはもっともだと思った。


私と石川くんは月とスッポン。
びっくりするほど差がある。


それなのにやっぱり、近づきすぎなんだろうか…



自分が可愛くないことは知っていたけれど、それでも石川くんに自信をもらっていた私は

自惚れていたかもしれないと反省した。



本当に師匠とどうこうなりたいという不純なことは思ってない。それをどうしたら要くんに伝えられるのだろうか。


この場で考えたって答えが見つかるわけがない。


もう一度ため息を漏らして、足取り重く歩いてこの場を去った。



……なんだか悪いことが続きそうな予感。

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