12.創造

とまぁ、こんな感じ

う、うわぁ・・・

たった今、
目の前で繰り広げられた光景は、
それはもう凄惨なものだった。

芹ちゃんは怒らせないようにしよう

ついっさきまで
蟻の形をしていたものの残骸から目を逸らし、
私は強くそう思った。

でも本当に凄い

あんなの完全に魔法だよ

芹ちゃんが行ったのは、
それはもう普通じゃない攻撃だった。

剣みたいな刃物が宙を舞って
蟻を串刺しにしていたし、
かと思ったら急に爆発して
跡形も残らないぐらいに
木っ端微塵になってしまうし・・・。

流石にいきなり
ここまでやれとは言わないわ

でも、
いつかはやれるようになって欲しいかな

う、うん・・・

本当に私にあんなことができるのだろうか。

ちなみにあなたが
想像し創造することが
上手くできなかったら、
その都度今みたいに
実演していくから

そうぞうし・・・そうぞうする・・・?

頭で思い浮かべて、
造り出すっていうこと

あ、そういう想像と創造!

字面を見たら
分かり易いかもしれないね

言われてみれば納得できる。

想像して創造する。

うん、分かり易い。

ただ、
あなたの場合はちょっと大変かも

大変?

ここは私の世界だから、
私は比較的楽に
好きなことができるの

でもあなたにとって
ここは他人の夢の中

だからたぶん、
無茶苦茶やり辛いと思うわ

・・・なるほどね

でも、大丈夫だよ

芹ちゃんの心配は理解できた。

でもその心配はあんまり意味がない。

・・・・・・

だって元々ゼロからの
スタートなんだから、
どっちにしたって
苦労すると思う

・・・それもそうね

それに芹ちゃんが
教えてくれるだから、
心配することなんて何にもないよ!

私はただ、
一生懸命頑張るだけだしね!

・・・うん、任せて
ちゃんと・・・教えるから

ああっ、この芹ちゃん超可愛い・・・!

そういうわけで、
私の夢に慣れる特訓が始まった。

まずは小さいものから始めましょう

小さいもの?

なんでもいいんだけど、
何か想像し易いものってある?

う、うーん・・・

急に言われても何も思いつかない。

想像し易いもの・・・むむむむっ。

思いつかない?

パッ、とは出てこないかな

じゃあさっき私が出した、
蟻とか紙コップとかは?

実際に見ていたわけだから、
想像し易いんじゃない?

あ、なるほど

蟻にする?

か、紙コップで・・・

虫が嫌いと言っていたけど、
実は好きなんじゃないだろうか・・・。

それじゃあ紙コップを想像してみて

う、うん・・・

必死に脳裏に紙コップの形を思い浮かべる。

鮮明には思い出せない・・・

ふわっとした
イメージならあるんだけど

ちなみに柄とかに拘りがないなら、
想像する時のイメージは
鮮明じゃなくても大丈夫

そうなの?

柄はない普通の白いやつだけど、
無茶苦茶しっかりしたのを
思い浮かべちゃってたよ

それでもいいんだけど、
細部までしっかりと
思い浮かべられないなら
むしろ上手くいかなくなるわ

ほほう・・・

半端なのがダメってこと

しっかりとイメージできないなら、
なんとなくなイメージをした方がいいの

どういうものかさえ分かっていれば、
あとは記憶の方で
勝手に補間してくれるから

何それ便利

もちろん記憶にないものを
想像するならしっかりと
イメージしないとダメよ

じゃあさ、
ふわっとしたイメージのままで
大丈夫なの・・・?

大丈夫

なら言われた通り、
ふわっとしたイメージに留めておこう。

想像して、その次は?

それがそこにあると思い込んで、
強く信じ込むの

ここには紙コップがある、
ない方がおかしいんだって、
強く信じ込んでみて

紙コップ・・・むむむぅ!

念じてみた。

自分なりに強く、念じてみた。

手先に意識を集中させてみて、
次第にじんわりしてきたりしない?

う、うん・・・する!

両手の掌に意識を集中させればさせるほど、
掌が熱を持ったみたいに感じられた。

普段ってそんなこと
気にしたこともないでしょ?

でも手先に意識を向けると、
普段感じられいものを感じて、
普段感じられない感覚を覚えるわ

確かに意識して身体の一部に意識を
集中させることなんて中々しない。

目を凝らしたり耳を澄ませたり、
感覚に意識を向けることはあっても、
身体の部位にはなかなか
意識を向けたりはしない。

だって普段は何も意識することなく、
当たり前のように動かしているから。

普段と違うっていう
その感覚を切欠にするの

普段感じていない
そのじんわりとした感覚がある時、
手の中には
想像したものがあるって、
そう思い込むの

手の中に紙コップ・・・!
手の中に紙コップ・・・!

目を瞑り、
何度も何度も必死に考えた。

頭の中で紙コップのことを想像し続けた。

だがそれ以上に、
掌の方に意識が向いた。

そこにあって紙コップが存在して欲しい、
そう思い、広げた掌が自然と閉じていく。

――すると

何かに触れた。

・・・!

反射的に目を見開き、
掌を確認した。

・・・あ!

うん、上出来

笑顔で褒めてくれる芹ちゃん。

自然と掌に力がこもった。

そしてそんな私の掌の中には、

小さな紙コップが握られていた。

やった!
できた!

初めてで成功させるだなんて凄いわ

私が初めて創造した時は、
もっと苦戦したもの

芹ちゃんが教えてくれたからだよ!

アドバイスがなければ
絶対に出来なかったと思う。

普通にセンスがあると思うわ

最後、目を瞑ったでしょ?

うん、必死だったから自然と

あれって実はかなり効果的よ

そうなの?

私は何も考えず、
自然とそうしていただけなのだが・・・。

創造する時ってね、
それがどう現れるかをイメージし辛いの

確かにたった今、
紙コップを造ってみせたけど、
どうやって現れたかは分からない

だって気付いたら
手の中にあったんだもの

それがとっても大事なの

目を閉じてしまえば
見えていないから、
そこを考えてよくなるの

つまりこういうこと?

紙コップがあると思い込んで造り出した

でもどう造ったかは
見ていないから分からない

だけど造ったから手の中にある

ちょっとややこしいけど、
そんな感じ

どれだけ自分を誤魔化しながら、
それがあると
思い込めるかがコツだね

正直一回できただけで、
同じことを何度もできる気はしない。

この調子なら案外すぐに
夢に慣れて私と同じ事を
できるようになりそうね

まだ自信はないけど、頑張るね

自信がなくたって、
私にはもうやる以外の選択はない。

やるしかない、それだけなんだ。

それじゃあこの調子で
色々創造してみよっか

できれば茜さんの夢に行く前に、
自分の夢を知覚できるようには
なっておいて欲しいからね

夢を知覚・・・

字面でなら意味は分かるけれど、
それが実際にどういうことになるのかは
まるで想像がつかない。

少しぐらい休憩する?

ううん、
感覚を忘れない内にもっと練習したい!

そう・・・じゃあ、頑張ろっか

そうして私は、
急速に夢に慣れていくのだった。

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