11.適応

茜ちゃんを助けるっていうの、
私にも手伝わせて欲しい!

そうお願いすると、
芹ちゃんは少しだけ驚いた様子だった。

え?
手伝うって・・・私を?

うん!
助けて貰った芹ちゃんを
助けたいっていうのもそうなんだけど、
何より何もしないで
待っているのは嫌なの!

本音は一人で居るのが嫌なだけだ。

けど、それを素直に言うのは躊躇われた。

だからそれっぽい理由をでっち上げた。

・・・普通に危ないよ?

でも芹ちゃんだって
やってることだよ

私が危険だと言うのなら、
芹ちゃんだって十分に危険だ。

まぁ、そうなんだけど・・・
でも私はあなたにできないことができる

だから安全ってわけじゃないけど、
自衛できるかどうかは大事だよ

そ、それは・・・

それはぐうの音も出ない正論で、
確かに私には芹ちゃんのようなことはできない。

だけどまぁ、
何もしないで居るのが嫌だ
っていう気持ちは分かる

私もそういう気持ちがあるから、
こうして色々やっているわけだし

た、確かに私は何もできないけど、
さっき芹ちゃん言ったよね?

練習すればできるようになるって!

言った・・・ね

私何でもするから、
練習でも何でも!

だからっ・・・!

そこまで言うと、
芹ちゃんは苦笑し私の手を取った。

本音を言うとね、
あんまりあなたに
無茶をして欲しくないの

私ね、
もうずっと独りでここに居るから、
誰かとゆっくり話をするなんて
もうずっとしてないわ

だからあなたとこうして話せて、
すっごく嬉しいの

独りは慣れっこだけど、
やっぱり誰かが居るのって落ち着くから

芹ちゃん・・・

だから私はあなたを
危険な目に遭わせたくない

あなたに関しては
分からないことだらけだけど、
だからこそ
安全な場所に居て欲しいって、
そう強く思うわ

でも・・・

うん・・・
それでもあなたは
何かしたいんだよね?

・・・うん

なら、
そういうあなたの意思を
私は尊重したいと思う

それって・・・!

うん・・・私の手伝い、
して貰いたいと思う

もちろん最低限のことは
先に覚えて貰うわ

だけど私が大丈夫だと思える
レベルになるまでお手伝いはダメ

これだけは譲れない

つまり私が頑張れって成果を出せば、
それで全て思い通りになるというわけだ。

もちろん上手くいく保証はないけれど、
活路は開けた・・・!

わ、分かった

無茶を言っているのも
自覚してるから、
芹ちゃんの言うとおりにする

うん、なら・・・いいよ

そう言って
芹ちゃんは私の手を離し、
小さく吐息をこぼした。

それじゃあ早速始めよっか

茜さんのことを思うと、
あんまりのんびりできないから

うん!
私、頑張るね!

まぁ、ほどほどにね

こういうのは気合が
大事だと思うんだよね!

とりあえず、
あなたには夢に適応して貰うわ

夢に適応?

ここが夢であると自覚して、
普通じゃないことが
起こり得る場所なんだって、
信じ切って貰うわ

ふむふむ

その為に今から私は
あなたにここが現実じゃないって、
理解して貰おうと思う

現実じゃないって
理解するって・・・
どうやって?

すると芹ちゃんは
椅子から立ち上がり、
同時に私にも立つよう促した。

えっとね、
こうするの

そして悪戯な笑みを浮かべた芹ちゃんは、
両手を広げて、
パンと音が立つよう打ち鳴らした。

へ・・・?

すると急激に視界がぐにゃりと歪み、
気付けば見慣れぬ体育館に立っていた。

あ、あれ、図書室は!?

場所を変えたの

ここは私の夢だから、
私の思うがままになんでもできるわ

そ、それはまた・・・

なんて便利なのだろうか。

というか現実なんかよりも
よっぽど居心地が良さそうな気さえする。

これからすることを思うと、
広い方が都合がいいからね

つまり場所を移したのは下準備で、
本番はこれから・・・と

ええ、もちろん

これからあなたには、
非現実的なことを身に沁みて
味わって貰うわ

やだ、何か芹ちゃんが怖い・・・。

あ、あの・・・それって危なくは・・・

危なくはないわ

ちゃんと加減するから

それって加減されなきゃ
危ないということなのでは!?

それに最初から
危険なことはさせないから安心して

それはつまり、
いつかは危険なことを
させるってことだよね!?

多少の危険は承知の上だけれど、
やっぱりいざそうなるとドキドキしてしまう。

とりあえず的を・・・

芹ちゃんがそう言うと、
体育館の隅に何かが現れた。

何あれ・・・蟻?

蟻よ

え、嘘・・・大きすぎじゃない?

そうなのだ、
現れた蟻は私の身長の何倍もの大きさがあった。
はっきり言って気持ち悪い。

虫は嫌い?

す、好きではないかな・・・

気が合うわね

私は大嫌いよ

だから的として使うの

ストレス発散にもなるし

な、なるほど・・・

しかし的とはどういうことなのだろうか。

それで、
これからどうするの?

蟻に何かするというのは
想像ができるのだが・・・。

何って、
普通じゃない方法で
八つ裂きにするわ

やっぱり芹ちゃんが怖い・・!?

まぁ見てて
これから非現実のフルコースを
あなたに見せてあげるわ

自信満々にそう言う芹ちゃんは、
何かこう・・・むちゃくちゃ怖かった。

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