この人、私の名字知らないんだった。
エーデルシュタイン家の人間だと知ったら、この人はどういう反応をするのだろう。
お待ちしておりましたわ、クリエ様!
…………こんにちは
大きいでしょう?我がプルートシュタイン家の屋敷は
…………うん
お父さんの屋敷とそんなに変わらない……
この人、私の名字知らないんだった。
エーデルシュタイン家の人間だと知ったら、この人はどういう反応をするのだろう。
クリエ様のお家は、どのくらいの広さなのかしら?
……同じくらい?
まぁ、ご冗談を♪
…………
立ち話も何ですし、早く中に入りません?
話を振ったの、アナタでしょう……
あら、ごめんなさい。お客様がいらっしゃったみたい
お客様……?
うっうっうっ…………
……うそでしょ
思わず心臓が止まりそうになった。
一昨日、クリエが盗みに入った家の主で没落貴族・シュランム家の当主
ビルツ・シュランムが深酒をしていたのだ。
ううむ……もう一杯…………
ピルツ様、もうおやめになった方が……
何を言う!!私は名門・シュランム家の当主であるぞ!控えおろうー!!
とんでもない勢いで酔ってらっしゃる。
……醜いですわね
え?
クリエ様、少しお待ちいただいても?
……構わないけど
では、失礼しますね
あら?ピルツ様ではありませんか?
おお、この麗しいお嬢様は……ダリア様でしたかな?
「様」なんておやめください。私なんてピルツ様の高潔さに比べたら……
高潔なんてとんでもない。私はもう負け組の没落貴族だ
一昨日の怪盗シャムロックの件、お聞きしました……。お察しいたしますわ
怪盗シャムロック……奴のせいで私の屋敷の屋根と壁に大穴が空き、純性のダイヤモンドが盗まれてしまった!!
あの宝石加工宝石だったし、6万Sしか価値がないって言ったら、この貴族は何というだろうか。
ピルツ様、大丈夫ですか?
絶対に許さぬ!!奴は必ずや捕まえ、処刑してくれる!!
…………
ピルツ様、あまり気を病まれないように。ピルツ様の悲しいお顔、私は見たくありませんわ
おっしゃる通り、怪盗シャムロックは許しがたい大罪人。この私が必ず捕まえて見せますわ
ダリア様……
ご安心くださいピルツ様。私がピルツ様の無念を晴らして見せますわ!
ぉぉ……おおお!!
老貴族の嗚咽が客間に響く。
ピルツの手をじっと握っているダリアの顔は、まるで聖天使のようだった。
ピルツが落ち着くと、ダリアは執事に後始末を頼み、クリエの元に戻ってきた。
お待たせしました。行きましょうか
……うん
あの人はいいの?
ああ、放っておいて構いませんわ
怪盗風情に負けるような、ただの「没落貴族」ですから