山吹真琴

う……うう、どうすれば……

山吹真琴

やっぱり……私には……

鈴石茜

ねえ、緊急事態って一体……

東海竜弥

あれ

鈴石茜

あ……放送部の……

伊納アスナ

真琴さん……

鈴石茜

あれ? 『殿』はつけないの?

伊納アスナ

なーんか、そんな感じはしないので

鈴石茜

ふうん?

山吹真琴

あ……

伊納アスナ

み、見つかった!

山吹真琴

王子様……

山吹真琴

う……うう……

伊納アスナ

え?

山吹真琴

王子様……助けてください……っ

伊納アスナ

一応話だけ聞いてあげましょう。何があったんですか?

山吹真琴

私、その、放送部なのですが

伊納アスナ

知ってます

山吹真琴

実は、結構あがり症でして……

鈴石茜

ほう……

山吹真琴

あの、体育祭のアナウンスとか……はっきり言って無理なのですわ

伊納アスナ

いやいや、じゃあなんで放送部に入ったんですか?

山吹真琴

ひ、人前にでなければ大丈夫なので……

山吹真琴

お昼の放送とか、あとコンクール用のラジオドラマの収録とかは得意なのです

鈴石茜

ラジオドラマ?

山吹真琴

ラジオドラマというのは、その……音声のみのドラマです……

山吹真琴

高校生のコンクールでは脚本、声、編集を全て学生が作って、その出来を評価するのですわ

山吹真琴

演劇と違って人前に出ないから……それなら、私にもできるのですけど……

鈴石茜

体育祭のお仕事は向いていないのね

山吹真琴

はい。でも、人手不足で……私もアナウンスをやることになってしまいまして……

山吹真琴

部長には無理だって言ったのですが……

山吹真琴

部員の皆が競技の関係で丁度いられない時間帯がありまして……

伊納アスナ

それは……アスナたちがどうにかできる問題ではありませんね

鈴石茜

確かに

東海竜弥

………茜が代われば?

鈴石茜

えっ

東海竜弥

茜なら、できるでしょ?

鈴石茜

いやいや、私放送部じゃないし!

伊納アスナ

そうですよ。機関外です

山吹真琴

うう……

伊納アスナ

そんな狼に食べられそうな子羊のような目でアスナを見てくるのはやめてください

鈴石茜

どうしたものか…………

伊納アスナ

んー

山吹真琴

つ、次の200m走の選手紹介から私が担当しなければならないのですが……

伊納アスナ

も、もうすぐ始まってしまいます

鈴石茜

と、とりあえずテントの中へ

山吹真琴

うう、人がいっぱい……

伊納アスナ

まったく……下手に意識するからいけないんですよ

鈴石茜

そうそう、よくギャラリーはじゃがいもだと思えっていうしさ

伊納アスナ

生徒会長殿、それはじゃがいもに失礼です

鈴石茜

その台詞すごくギャラリーに失礼だね!

伊納アスナ

まあ生徒会長殿も終わった後緊張で倒れそうになりながらも生徒会長挨拶をやってのけていましたし

伊納アスナ

ぶっ倒れるくらいの気持ちでやればなんとかなりますよ

山吹真琴

そ、そうだったのですか……?

山吹真琴

生徒会長さんの挨拶はとても堂々としていらっしゃって……

鈴石茜

そう見えていたなら嬉しいな

伊納アスナ

虚勢を張っていたってことですよね

鈴石茜

ま……まあね

鈴石茜

でも、誰だってそうでしょ

鈴石茜

誰だって日々虚勢で生きているんだよ

山吹真琴

た、例えば……?

鈴石茜

す、好きな人の前でわざと話題を逸らしたり!

鈴石茜

好きな人に対して本心じゃない軽口叩いてみたり!

伊納アスナ

必死ですね……

山吹真琴

そう言われましても……私は好きな人に対して自分をさらけ出しているので……

山吹真琴

王子様

伊納アスナ

ああ、はい。そうですね

東海竜弥

茜の好きな人って……?

鈴石茜

い、今はそこに食いつかなくていい!

東海竜弥

ふっ

東海竜弥

ミステリアス

鈴石茜

うん、そういうことでいいよ!

鈴石茜

真琴ちゃんは演技が得意なんだよね?

山吹真琴

まあ、人目がなければ演技は好きな方ですわ

鈴石茜

なら、これも演技の一環と思っちゃえばいいんだよ

山吹真琴

演技…………

山吹真琴

でも……

鈴石茜

頑張りすぎて倒れちゃったら

鈴石茜

アスナちゃんが介抱してくれるって

鈴石茜

二人っきりで

山吹真琴

王子様……

伊納アスナ

え……

伊納アスナ

生徒会長殿、今、アスナを売りましたね?

鈴石茜

何のこと?

山吹真琴

王子様と二人っきり……

あの、どうしてこんな人気のないところに……?

勿論、君と二人っきりになるためさ

え!?

君の時間を私にくれ

二人だけでしか話せない話がしたいんだ

そ、そんな……

それに、君の笑顔が独り占めできるしね

山吹真琴

君の笑顔はそう……私の心に咲く一輪の百合の花……

伊納アスナ

こ、怖いです

鈴石茜

いや、誰かと全く同じようなことを考えているからね

伊納アスナ

い、一体誰がそんな変態じみた妄想を……

鈴石茜

まったく……

山吹真琴

王子様、私はやる気が出てきましたわ

山吹真琴

必ずやり遂げて王子様と二人っきりの……

山吹真琴

ふふふ

伊納アスナ

さ、寒気がします!

鈴石茜

頑張れ~

伊納アスナ

他人事だと思って……

鈴石茜

それを言ったらアスナちゃんだって私のこと他人事だと思って勝手な妄想までしてさ……

伊納アスナ

それは、生徒会長殿と佐島殿がなかなかくっつかないんで、もどかしくて……

鈴石茜

そんなこと言ったって、佐島くんの気持ちも分からないし……?

東海竜弥

……亮?

鈴石茜

あ……

伊納アスナ

ぬ……

やばい!!!

鈴石茜

ちょっとアスナちゃん、何言っちゃってるの!?

伊納アスナ

ひ、疲労でついうっかり……

鈴石茜

そういえば、竜弥はなんで真琴ちゃんのことを私たちに伝えに来たの?

東海竜弥

……生徒会は、何でも屋だと思って

鈴石茜

竜弥も生徒会役員だよね!

東海竜弥

俺は、補欠

伊納アスナ

生徒会役員の補欠、とは……?

東海竜弥

てか……そろそろ、倒れそう……

鈴石茜

あー、竜弥身体弱かったっけ

東海竜弥

保健室行ってくる

鈴石茜

あ……

伊納アスナ

颯爽と去って行きましたね

鈴石茜

うーん

竜弥なりに、生徒の力になろうとしていたのかもしれない

鈴石茜

あ……佐島くんとのこと……

鈴石茜

まあ竜弥のことだし全く気にしていないよね

鈴石茜

じゃあ、アスナちゃん、あとは任せたよ

伊納アスナ

えっ

鈴石茜

頑張ってね、王子様

伊納アスナ

ええ~

ここはアスナちゃんに任せればなんとかしてくれそうだよね

鈴石茜

だから……

佐島くんの200m走を見に行くのだぜ!!!

鈴石茜

ひひひっ

皆、脳内はお花畑であった。

……続く。

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