む、太陽がまぶしいのう……

いつかと同じように、わらわは太陽の日差しに当てられ目を覚ました。

おはようじゃ

わらわが挨拶を交わしても、そちらからの反応はなかった。ただ不躾にちょこんと座って、何も言わずにこっちを見とるだけじゃった。

まあ当たり前じゃのう。

なんせ、わらわが話しかけたのは狸の置物じゃからな。

ふっ。こんなまぶしい太陽が出とるとは、あやつはきっと今日は一日引きこもりになっておるのじゃろうの

あやつ。

銀髪の、わらわの血を吸うた吸血鬼のあやつじゃ。

あの夜から三日が経ったが、相も変わらずわらわがこの地球で過ごせとるのは、間違いなくあやつのおかげじゃ。

ありがとうの

本当に感謝しておるのじゃ。一時はわらわを殺そうとしておったが、今ではそのこともいい思い出じゃ。

いや、よくはないのう。訂正しておこう。

悪いけれども大切な思い出じゃ。

結局。なぜわらわを助けたのかは教えてくれんかったのう

あの夜その訳を問うたが、あやつは教えてくれんかった。

ふん、とか言ってそっぽを向いて、そういえばその後で何かもごもごと呟いておった。

あれは確か……

いつか訪れるかもしれない番外編で、じゃったわ。一体どういう意味かのう?

そうそう。あの夜と言えばもう一つ。

あの吸血鬼はわらわに向かって名前をくれなんて言い出しての。

まあ正直初めて出会った時からあやつのことを勝手に考えた名前で呼んでおったから、それを言ってやればよかったんじゃがな。

やっぱりほら、恥ずかしいじゃろう?

じゃからつい『次会うときまでに考えておく』なんて言ってしまったんじゃ。

ん? なら次はいつ会うのかじゃと?

ははっ。そんなのはもちろん決まっておるではないか。

それこそ、いつの日か訪れるかもしれない番外編で、じゃ!

それまでは今しばらく、お爺さんとお婆さんとのこの幸せな毎日を、ありがたく過ごさせてもらうとしようぞ。

そういえばじゃ。あやつが住処にしておるらしい少し離れた山があるんじゃが、あの夜を境に『富士山』と呼ばれ始めたらしいの。

その理由か? 確か、えーっと……その話も今度じゃ

それよりもやはりわらわの考えたあやつの名前がいいものかどうか不安になってきてしまった。

どうだろう。あやつに相応しい名前の案はないだろうか? 話し合ってはみらんか。

そうじゃな……まずはボツとなったドラキュラ伯爵という名前じゃが……

かぐや姫や。ちょっとこっちを手伝っておくれ!

かぐや。今夜のお月見用のお団子、一つ味見してみないかい?

おっと呼ばれてしもうたようじゃな。では、話し合いの代わりに、素敵な名前を考えておいてはくれないか。

割と急いでおるのじゃよ。今夜にでも必要になるやもしれぬからな。……その訳は秘密じゃぞ!!

では、失礼する。

大好きな二人の元へ急ぐとしようか。

外に出て二人の元へ向かう途中に、ふと目を横にやった。

おお~~!!

あやつの住む富士山とやらが、太陽の光に照らされて輝いておった。

今頃あやつは太陽の光にうなされているのじゃろうな

その山を見て、あやつのことを思い、わらわはお爺さんとお婆さんの元へ向かったのじゃ。

15.エピローグ~とある姫の視点より~

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