鈴石茜

いや、これはどう考えてもわざとでしょ

佐島亮

いえいえ、単純なミスですよ、ミス

鈴石茜

こんな高度な細工をしておいてミスがあると……?

佐島亮

どんな高度な技術を持ってしてもミスはつきものですから

佐島亮

弘法も木から落ちるってやつです

鈴石茜

それ、混じってるから

鈴石茜

弘法が木登りしてどうするの

佐島亮

わ、わざとです

佐島亮

弘法のような偉い人でも木登りはするし、それによって怪我をすることもある……

佐島亮

どれだけ素晴らしい技術があろうと、関係ない時は関係ないんですよ!

鈴石茜

なるほど、よく分からん!

鈴石茜

でも、絶対この『白』はわざとだ

佐島亮

いやいや、認めません

佐島亮

本来そこは『黒』で塗られるはずの場所……

鈴石茜

それは幻想に過ぎない!

佐島亮

幻想こそ正義でしょう!

伊納アスナ

…………

伊納アスナ

何の話をしているのですかー?

鈴石茜

ああ、アスナちゃん……

佐島亮

ちょっと、この芸術作品に関しての議論を

鈴石茜

そうそう。なかなか決着がつかなくて……

伊納アスナ

どれどれ……

伊納アスナ

ってこれ、フィギュアじゃないですか

佐島亮

そうです! 狐草子の狐ちゃんのフィギュアです!!

鈴石茜

一番くじのB賞の限定品だよ!!

伊納アスナ

芸術作品……とは……

佐島亮

何言ってるんですか

佐島亮

二次元の可愛らしさをここまで精巧に再現したこのフィギュアはもう芸術作品そのものといっても過言ではないじゃないですか

伊納アスナ

…………

鈴石茜

しかもね、これのすごいところはね、パンツまでしっかり再現されていることでね

伊納アスナ

…………は?

鈴石茜

ほら、このスカートの隙間からわずかに見えるこの『白』

佐島亮

いや、それは絶対塗り忘れです

鈴石茜

だって、完璧な芸術作品なわけでしょ?

佐島亮

しかし、狐ちゃんのパンツは『黒』だと相場が決まっているのです!

鈴石茜

初めて聞いたわ!!

伊納アスナ

…………す

鈴石茜

す?

伊納アスナ

すごーーーーーく、どうでもいいです

鈴石茜

酷い!

佐島亮

酷いです!

伊納アスナ

うわー、見事にぴったりなタイミングですね

鈴石茜

普段は見られないパンツの色が忠実に再現されているか否かは結構大きな問題だよ

佐島亮

二次元じゃ再現不可能ですからね

鈴石茜

つまり、2.5次元最高!

佐島亮

最高!!

佐島亮

そんなことも分からないんですか? アスナさん

伊納アスナ

分かりません!

伊納アスナ

大体、体育祭当日の朝っぱらからなんて話してるんですか

鈴石茜

いやあ、昨日帰りにメイトで一番くじ引いたら当たっちゃったから、つい

伊納アスナ

はぁ

佐島亮

で、これはいくらで僕に譲ってくださるのでしょうか

鈴石茜

あ、あげないよ!

佐島亮

えっ

鈴石茜

な、なんで佐島くんにあげる前提の話になっているの……?

佐島亮

冗談です

鈴石茜

まったく…………

伊納アスナ

あの、体育祭真只中なんですが……

鈴石茜

まあ、開会式は無事に済ませたし

佐島亮

記録係とかアナウンスとかは体育委員や放送部が行うんで

鈴石茜

まあ……暫しの休憩を

伊納アスナ

まあ、無事に終わらすことができてよかったですね……まだ開会式だけですけどー

鈴石茜

うん、昨日はどうなることかと思ったけど

鈴石茜

案外何とかなるものだね

佐島亮

緊張で倒れそうになっていたのはどこの誰ですかー?

鈴石茜

うっ

伊納アスナ

え……大丈夫ですか? 生徒会長殿

鈴石茜

うん、佐島くんが生徒会室まで付き添ってくれたから、今は大丈夫

佐島亮

ほんと、僕に感謝してください

鈴石茜

も、勿論……

佐島亮

あ、じゃあ僕そろそろ種目あるんで

鈴石茜

え? 佐島くん種目出るの?

佐島亮

どうしても立候補者がいなくて……いつの間にか200m走の選手ですよ……

伊納アスナ

あの効率が超絶いいと言われる佐島殿が珍しいですね

佐島亮

褒めたって何も出ませんからねー

佐島亮

では、行ってきます

伊納アスナ

…………

鈴石茜

な、何?

伊納アスナ

つかぬことをお聞きしますが……

伊納アスナ

お二人はもう付き合っていらっしゃる感じですか?

鈴石茜

な……っ

鈴石茜

つ、付き合えてたら苦労はしないよ

伊納アスナ

では、倒れそうになっていた生徒会長殿をたまたま見かけた佐島殿が親切に涼しい生徒会室まで連れてきてくれた……と

伊納アスナ

救護班のテントや保健室もあるのに?

伊納アスナ

一体何故、人気のない生徒会室なのでしょう

鈴石茜

それは……

鈴石茜

私の、我儘で

伊納アスナ

鈴石茜

だって、生徒会長がたかが緊張で倒れそうになっているところなんて見られたくなかったし

伊納アスナ

ふむ……そう言って佐島殿を誘ったと

鈴石茜

変な言いがかりはやめてよ!

伊納アスナ

えー

伊納アスナ

こういう時ってやっぱり甘い展開が一番お似合いだと

鈴石茜

た、例えば?

伊納アスナ

そうですねえ……

ねえ、どうしてこんな人気のないところに……?

勿論、君と二人っきりになるためさ

え!?

君の時間を僕にくれ

二人だけでしか話せない話がしたいんだ

そ、そんな……

それに、君の笑顔が独り占めできるしね

伊納アスナ

君の笑顔はそう、僕の太陽……

鈴石茜

ねえ、何今の回想シーン

伊納アスナ

え……精一杯乙女チックにしてみたんですけどー

鈴石茜

ねえ……現実を見よう

鈴石茜

大体、あれ誰だよ……

鈴石茜

佐島くんはもっと飾りっ気がなくて、言うことはストレートで、あとペースがぶれないんだよね

伊納アスナ

詳しいですね

鈴石茜

一応、好きな人のことだからね!

鈴石茜

二人っきりでしかできない話なんて結局フィギュアのパンツ議論だし

伊納アスナ

なーんか、おしいとこまで来ているような気がするのですがねー

鈴石茜

全然そんな感じはしないんだけど

鈴石茜

わっ

東海竜弥

…………

鈴石茜

竜弥……?

東海竜弥

……緊急事態

鈴石茜

え……

伊納アスナ

なんでしょう……

東海竜弥

いいから、来て

鈴石茜

え……ちょ、ちょっと……っ

突如現れた竜弥。
緊急事態とは一体……?

続く!

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