な、何故……

息も絶え絶えに、キキは言葉を漏らす。

どうして月の石の力が消えた……

『不死を打ち消す薬』を飲んでも、完全には力は失われなかった。月の石の力を体内に取り込んだからだ。

その力が、隊長の攻撃を受けて完全に失われた。

貴様は一体何者だ

キキは顔を上げ、銀髪の男に問う。

貴様は一体何者なんだ!?

だから隊長はこう答えた。

ぐももんもぐごごべむぐばいぼーが!!

芋を頬張ってなんと言っておるのか全く分からんわーー!!

ふざけるのも大概に……なるほど。そういう事か

それは、隊長の右手で月の光を反射していた。

ムーンセイバー。こんなところにあったとは。ふん。ムーンメイルにムーンシールドも勢揃いとは。儂の炎を消したのもその装備か

隊長を守るクリスタルの鎧。さらに盾に剣。これらは全て月の装備だった。

……だが。まだ終わりではない。月に戻り今度こそ完全な力を手に入れて来るとしよう。それまで暫しのお別れだ

どこからか再び杖を取り出し、キキは振るう。

闇夜に魔法陣が現れる。

何じゃあれは!?

あんなのも残してやがったのか

お! このたけのこご飯以外に美味しいな

その魔法陣にキキが手を伸ばすと、色の変化が起こる。

幾年か先でまた会おうぞ

そうして、キキの体が魔法陣に吸い込まれる。

その直前に。

そんな音とともに、魔法陣は跡形もなく消滅した。

な、何だ!?

叫ぶキキの元に。

彼女はいきなり現れた。

キキよ。お主、わらわに内緒で勝手に何をしておる?

月姫様!?

かぐやよ。お主もわらわの許可なしに地球に下った罪、キキとともに償ってもらうぞ

ですが月姫様……わらわは

問答無用! お主が地球に訪れるのは三年後の予定だったはずじゃ

わ、分かりました

怒鳴る月姫に、しかし彼は言った。

ディーネよ。その辺にしておけ。かぐやの姫様は私に焼き芋をくれた。それだけで十分だろう

れ、レオ!?

この男月姫様の知り合いだあったのかぁ!?

わらわの愛しのダーリンじゃ!

その話は語るとすれば番外編だな。本編では疲れたよ……

なんじゃとーー!?
月姫様はどこで間違ったのじゃ!?

ふん……

様々な反応を見せる者たちをよそに、月姫はキキの元へ寄る。

ひとまずわらわの愛するダーリンを傷付けた罪は重い。貴様は月に帰って存分に反省してもらうぞ

キキを抱きかかえ、さらにライトも背負い月姫は振り返る。

じゃあの。また会おうぞ、ダーリン!

そして、三人は闇夜に姿を消していく。

では、美味しい芋もご馳走になったし、私も帰るとするよ

隊長は、そう言いながらたけのこご飯を作ったアツアツの壺を鈴木の顔めがけて落とす。

熱ッ!!

行くぞ佐藤。今回の依頼は完遂した

僕は鈴木だ!!
って隊長おいて行かないで!!

鈴木は倒れている護衛を起こし、かぐや姫にペコリとお辞儀をして、そそくさと去って行く隊長を追って行った。

た、助かったぞ! 今回はありがとうなのじゃ!!

かぐやの言葉に手をあげ反応し、彼らの姿は見えなくなった。

さて

彼らを見送って、かぐや姫は青年を見る。

何だ?

何だ? じゃないだろう。分かっておるぞ。お主の願い事は、もう一つ残っておるのじゃろう?

……

何となく、な。あの時、お主がわらわの血を吸うた時、微かに聞こえたのじゃ。『もう一つ』とな。

何も言わない青年に、かぐやは続けた。

じゃから、言うてみよ。お主には感謝しておる。出来る限りのものは与えてやろうぞ

ふん……なら願おう

一拍を置いて。
青年は観念したように言った。

俺に名前を与えてくれ

もちろんじゃ

二人はそれから笑い合った。

しばらくして、倒れていたお爺さんとお婆さんも起き上がる。

空には綺麗な満月が輝いていた。

月明かりは、その場にいるお爺さんとお婆さん、それからかぐや姫の三人だけを美しく照らしていた。

14.かぐや姫、真実の終物語

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