新たな空間に出た瞬間、カレンは佳穂の体をやや乱暴に引っ張った。

カレン

危ない!!▼

佳穂

きゃっ

まるで、自分たちが出てくるのを待ち構えていたかのように、真横を衝撃波が走った。
大きく穴の開いた空間はバチバチと音を立てながら、少しずつ修復されていく。

カレンは、佳穂を庇うように前に立って剣を構えた。

おや、かわされてしまいましたか。

残念。

学ランの少年と金髪の鬼が佳穂たちの前に立ちふさがる。
その奥には、友人たちの姿が見えた。

櫂斗

佳穂!?大丈夫か!!

待ってね、佳穂ちゃん。今、私がそいつぶっ飛ばすから!

なっつ、負けちゃう。絶対ダメ。

佳穂

みんな…!!

みんなのもとへ向かいたいが、先程の二人が敵意をむき出しにしてこちらを睨んでいる。

一度出直しましょう、蓮。
この人数では不利です。

わかった。まだゲームは始まったばかりだしね。

金髪の鬼はにこりと笑うと、学ランの少年と共に、突然現れた霧の中へと姿を消してしまった。

櫂斗

何だったんだよ…あいつら

現れて、すぐ襲ってきた。

次出てきたら、やっつけてやるんだからっ

佳穂

大丈夫!?怪我してない?

櫂斗

俺は大丈夫だけど、リズが…

リズ

このくらい大丈夫よっ。
ご主人はもう少し自分のことを心配してよね。

櫂斗の後ろにいる赤髪の少女は、服についている埃を払って強がるように腕組をした。

カレン

他の お二人は ご無事ですか?▼

怖かったけど、大丈夫だよ~

大丈夫~。鬼の人、かっこよかった~

佳穂

薫ちゃんだけ、すごく呑気じゃない?

ごめん…私がしっかりしていないせいで、夏が危ない目に…

シュリーは何も悪くないって!
気にしないくていいよ。

薫が無事ならいいけど…
見惚れてそのうち怪我しそう…

えー?
私はモカちゃん一筋だよ??

どうやら、それぞれのパートナーも大きな怪我をしているようではなかった。
落ち着くと、櫂斗のパートナーであるリズが襲われた理由を説明し始めた。

リズ

彼らが襲ってきたのには、ちゃんとした理由があるわ。

リズ

パートナーやプレイヤーのHPがゼロになった時、私たちはこの世界で姿を保っていられなくなって消滅する。これがゲームオーバー。

リズ

その時に宝石をドロップするの。この世界における私たちの命の結晶よ。
それが経験値となって、手に入れた者のステータスを上げるわ。

モカ

プレイヤーやパートナーの宝石は、通常の敵の宝石よりも多くの経験値を含んでいる。
だから、積極的に狙いに来るの。

シュリー

でも、プレイヤーはその宝石を手に入れる度に少しずつ心を蝕まれてしまう。
相手を殺して力を手に入れる。
人を殺している事に変わりはないから。

カレン

だから 私たちは 存在しているの▼
プレイヤーが 暴走しないよう 護るために▼

リズ

レべリングの快感によって生まれる、殺人衝動に呑み込まれない様にするために。

櫂斗

でも、さっきの鬼は完全にプレイヤーに手を貸していなかったか?

モカ

パートナー全員が平和を望んでいるわけではないの。殺戮に走る者も沢山いるわ。

パートナーも全員善人ってわけじゃないのね

リズ

ええ。でもあの鬼はまだマシよ。
言葉が通じるもの。

リズ

一番危険なのは、パートナーとプレイヤーの両方の精神ステータスに干渉できる存在。
人格を破綻させて完全な操り人形にしてしまう。

人格を破綻させる能力……

重苦しい空気に包まれる中、佳穂はあることに気がついた。

佳穂

そういえば、愁弥は?

真っ暗な闇の中。
目の前にいるのは、紫色の瞳が怪しく光る不気味な男。

愁弥

どうしたらいいんだ……?

男はゆっくりと愁弥に近づき、静かに手を上げた。

愁弥

えっ

………。

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