ぐわあああああああああああああ!!

キキの叫び声が、月明かりの照らす世界に轟く。
星が震えた。
大地が揺れる。

その影響だろうか。竹林の一角だけがごっそりと地面から抉られていた。

な、何じゃ! 何が起きとる!?

気を失っていたかぐや姫が目を覚ますと同時に、辺りを轟かす轟音に驚く。

安心しろ。もうすぐ決着が着く

お主……心なしか以前よりも明るいというか、雰囲気が変わっとらんか?

気のせいだ。それよりも、動くぞ

言葉に、かぐや姫は騒音の元へと視線を移す。

あの姿のキキには何をしても無駄じゃ。不完全な不死。あやつは少々の傷なら瞬時に再生するぞ!

かぐや姫の言葉に、青年は大して驚きもしなかった。

知ってるさ。根っこは別物だが、現象としては俺様の劣化版の様なものだ。まあ、今は少々事情も変わっているがな……

はっ!? お、おい。まさかキキの奴、わらわのあれを……

だろうな

何てことじゃ

青年の言葉に、かぐや姫は押し黙る。

ふふふふふふ。ふははははは

反対に、キキは不気味なオーラを放っていた。

おいババア

何じゃこんな時に!?

——を用意できるか?

馬鹿かお主は。こんな時にそんな……

いいから。出来るのか出来ないのかどっちなんだ

そりゃ、出来るには出来るが……

なら任せた。時間は俺様が稼いでおいてやるよ

じゃが今出て行けばお主も

大丈夫だ

何故そう言い切れる!?

何故って? そりゃあ……

待たせたなお前たち。ようやく体になじんできたわ

かぐや姫たちの会話に、キキが割って入る。

とにかくお前は行け

わ、分かった

そそくさとその場を離れるかぐや姫を見て、キキは青年に言った。

何だ? 今さら無駄な作戦か?

無駄ではないさ……

何を言って……っ!?

唐突に、キキは言葉に詰まり胸元を抑える。

な、何だこれは

ゴホゴホと、せき込みだしたキキは口元を抑える。

手には血が付着していた。

何がおきておる!? 貴様。何をした?

俺様じゃないさ

キキの問いに、青年は静かに答えた。

この結末はあいつの、月の姫の願いの果てだ。不完全な不死のお前を救うために、『不死を打ち消す薬』をお前に飲ませた奴の勝利だ

不死を『打ち消す』薬だと?

ああ。さっき貴様が飲んだ薬は、お前の不死を奪うためのものだったんだ

そんな馬鹿な。初めから気付いていただと……

だけど、もう遅い。
今さら気付いても、すでに飲んでしまったものは後の祭りである。

キキは再度血を吐き、その場に崩れ落ちる。

ぐわああああああああああああああああああああああ!!!

吐血して、叫んで、のた打ち回って。
身体の節々から蒸気を発しながら、キキは動きを止める。

……

青年はその光景を見ていた。どうやら腑に落ちない結果のようで、その表情は晴れない。

おかしい。計算が合わなかった。

もどらないだと?

彼の、彼らの思惑では、薬の効果で不死の力を失ったキキが、元の姿に戻るという算段だった。

吐血して、叫んで、蒸気を発したまでは良かった。だけど、そこまで止まり。その先がない。

やはりアレか……

ふん。予想外ではあったが、予定から外れた訳ではない。結末は一緒だ

貴様。『月の石』を体内に取り込んだな?

ああ。キラキラと光っていたから何かと思えば、十円玉がくっついていたがな。そのペンダントから頂戴した

月の石。正確には、かぐや姫が持っていたペンダントの、月の欠片。

姫を守るために特別な力を込めたその欠片は、おそらく取り込んだキキの不死の力を増加させたのだろう。

っち。余計なことを

こざかしい真似をしてくれたようだが、どうやら無駄に終わったようだな。どうだ? そろそろ終わりにしようぞ

ぼっ、と。キキの右手に炎が灯る。

全てを燃やしてしまおうか

そして、左手にも。

両の炎をゆっくりと一つに合わせた。

ギュルギュルと炎が渦を巻き収縮した。

手始めにこの竹林を灰にしてやろう

言って、キキが手を竹林に向ける。

ドカンと爆発を起こし、炎の塊が竹林に向かった。

っ!?

気付いた青年が動こうとするが、もう間に合わなかった。

全ておわりだーーー!

そのまま炎の塊は竹林に向かって勢いを増す。

ゴオゴオと音を立てて襲いかかり、

そんな音とともに完全に炎は消えた。

何だ!? いったい何が?

その先にいたのは一人の男。

キラキラと輝く銀色の鎧を身に纏った彼は、振り返るとキキの姿を捉え、言った。

たけのこご飯を作る邪魔をするなー!!

叫ぶ彼の背後にあったのは、見覚えのある壺。

そこにご飯とその辺から取って来たタケノコを入れてたけのこご飯を作っていたようだ。

この状況でたけのこご飯をじゃと!? ふざけるのもいい加減にしろ!

お前こそ私の食事を邪魔するなど、覚悟はできているのだろうな!?

隊長は、何よりもご飯が大切なようだった。

何だ。貴様が儂とたるのか?

いや、私はご飯を食べるからいい

っ!? もういい。貴様は後回しだ。吸血鬼! 先に貴様を殺してやろう

隊長との会話を諦めたキキは、標的を青年に向けた。

俺も不死だが?

月の石の力があれば可能だろう

言って、青年を襲うためにキキが動き出す。

その、一瞬前に。

間に合ったか! ほれ、最高級の焼き芋じゃ!!

慌ててやって来たかぐや姫が、キキに向けてそれを放り投げた。そのせいで、キキの動きが止まる。

ふん。何がしたいのだ貴様らは

そう言って、その焼き芋を焼き尽くそうとした時だった。

その斬撃が、キキの体を切り裂いたのは。

焼き芋ーー!!

危機を切りつけた彼は、そのまま焼き芋を手に取り口に頬張る。

美味いっ!!

お爺様ーー!! やはりこの方だけは人選ミスです!

……馬鹿だな

そんな彼らの傍らで。

変化は確実に起きていた。

……ううぅ……

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