魚男

あ~。極楽ごくらく

魚人

そう言ってもらえると嬉しいよ!

浦島

それじゃあ、この戦いは止めにしてくれるよな?

セイレーン

そうね……

ウンディーネ

ワタシ達は良いけど……

 精霊二人は、魚男の方へと振り向く。魚王はしばし厳しい顔つきをしていたが、その瞳を閉じると、深く頷く。

魚男

そうだな。その代わり、彼は私の直属のツボ押し師になってもらうぞ

浦島

別に良いけど、二人は繋がり無かったのか?

魚人

ああ。オイラは流れのツボ押し師だったからな。海中じゃ、魚だらけでツボが押せなくて困ってたんだ。丁度此処来てみて良かったよ

それはそうと、皆を元の姿に戻してくれ

魚男

お前等は何か勘違いしているようだが、そもそもこの姿にしたのは、私ではないぞ

何!? じゃあ誰だと言うんだ!!

魚男

この魔法をかけたのは、星姫。彼女自身だ

 予想だにしない言葉に、浦島、亀、乙姫が驚いた。

 あの、魚の体から人間の生足だけ生えた姿に、何故? 浦島と亀が真剣な顔つきをする中、乙姫だけが笑っている。

浦島

そう言えば、星姫は今まで何も語ってこなかったな。ワケを知ってるのかい?

魚男

ああ。そもそも、私は姫のお付きの者だしな。私も、彼女に姿を変えさせられた一人なのだ

どうしてそのようなことを……

魚男

……彼女は、自分自身に悩んでおったのだ

 魚男曰く、星姫は両親を亡くしてから、ずっと誰にも心を開けず、孤独だったのだと言う。

 両親に任せっきりだった業務も、二人がほぼ同時期に亡くなってしまったことで、自分に回されることになった。何も出来ない彼女の為、手を貸したのが魚男だった。だが、日に日に彼女は疲弊していった。

魚男

そんなある日のことだ。彼女が、我等に魔法をかけたのは

乙姫

ほぉう。星姫も、何だか面倒な魔法を考えたのう。別に、皆を巻きこまなくても良かろうに

魚男

彼女は一人ぼっちだった。だから、皆同じ様な魚のような姿になれば、少しは分かち合えるんじゃないかと思ったらしい

浦島

正直、会話もままならないようじゃ、分かち合えるって考えは難しいな。これなら、人間の方が良かったんじゃないのか?

魚男

かもな

でしたら、早く魔法を解かねば。星姫様の元へ急ぎましょう

 亀と魚男の背に乗り、浦島と乙姫は竜宮城へと戻った。何となく事情が分かったような、分からなかったようなな精霊と、ツボ押し魚人もその後ろを泳いでついて行く。
 竜宮城に着くと、皆は急いで最上階へとエレベーターで上がる。精霊とツボ押し魚人は、やはりその美しい景観にワーキャー騒いでいた。
 最上階で止まり、全員がエレベーターから出る。王の間へと急ぐと魚人やスライム達が仲睦まじく世間話をしていた。そこには、星姫もおり、彼等の会話を黙って頷いて聞いていた。

浦島

星姫!!

 浦島が星姫の元へと駆け寄っていくと、腕を組んで話しだす。

浦島

聞いたぜ、アンタの話は。何だよ水臭い、こんなことするくらいなら、誰かかれかに話せば良かったのにさ

……

魚男

貴方に深く踏み込めなかった私にも罪があります。ですからどうか、皆を元に戻してやって下さい

乙姫

そうよ、私以外に美しい人間が増えるのは困るけど、それ以上に困るのは、私が貴方みたいな魚になってしまうことなのよ!?

乙姫は一旦黙りましょう

浦島

友達が欲しかったんだろ? だったら簡単さ、喋れば良いんだよ! 喋らないと、本当の意味で友達は出来ねぇからな?

 浦島や、魚男の言葉に、星姫は心揺れているようであった。事情が分からない魚人やスライム達も、友達と言う言葉を聞いて、星姫の方を見た。温かい眼差しで。

……ごめんなさい

 か細くも可愛らしい声で言った。口はどこだろう? などと言う野暮なツッコミは誰もしない。

私、軽い気持ちで、みんなが人間で無くなったらって思ってしまいました。だから、城の秘宝の玉手箱を開けてしまったのです

浦島

玉手箱?

乙姫

不思議な魔力の籠った箱のことじゃ。ウチの城にもあるぞ

本当に辛い時は、その箱を開けろって父の遺言にかいてあったから……そしたら、こんなことになって……よりによって、どうしてこんな姿に

浦島

確かに、その姿は女性にはナンセンスだな。けど、魚人になっちまったら、人間の方が良いかもって思わないか?

うん……

浦島

そういうことさ。親父さんは、お前に今までのままで良いんだよって教えてくれたんだよ

うん……あの、それで……

浦島

うん?

……魔法の解き方が分からないのですが

 星姫の言葉に、皆が声を上げた。その後、どよめきが起こり、魚人達が慌てふためく。

ご、ごめんなさい……!

 涙声で、星姫は言った。足には汗をかいている。浦島達も困り果てている中、乙姫のみが、下を向いてクスクスと笑っていた。

乙姫

……待っておれ。真のヒロイン乙姫が、良い物を今持ってくるから

 乙姫が戻って来ると、彼女の手には、漆塗りの箱があった。赤い紐でくくりつけられており、重宝されていることが分かる

そ、それはもしかして……!?

 乙姫が、赤い紐を解いて箱を開けると、箱の中から溢れ出た煙が、魚人達を包み込んだ。煙が消えると、浦島達は目を丸くした。
 魚のような姿をしていた者達が、皆元の人の姿に戻っていたのだ。

魚人兵A

お、おお! 元に戻った!!

魚人兵B

キャーッ! やったぁ、元に戻ったわー!!

 まさか、泣いていた魚がオネェだったとは。世の中、知らなくても良いこともあるのだな。浦島は密かに思った。
 他の魚人達も元の姿に戻っている中でも、一際美しく可愛らしい女性がいた。

浦島

アンタが、星姫様かな?

星姫

は、はい。……あの、本当に皆様にはご迷惑をおかけして、申し訳御座いませんでした!!

魚男

良いんですよ姫

浦島

ああそうさ、このくらいのことで怒ったりはしないよ。友達ならな!

 浦島の言葉に、星姫はハッとして周りを見る。元の姿に戻った人々は、怒るどころか、皆笑顔だった。まるで、「大丈夫だよ」と言い聞かせるように。

星姫

ご、ごめんなさい……有難う!!

 星姫は、涙を流した。彼女を心配して、沢山の人々が集まる。もう、彼女は一人では無かった。浦島と亀は微笑んだ。

 それからと言うもの、星姫は自分の城へと戻り、城の者達と力を合わせて業務をこなすようになっていった。

 対して、乙姫は、業務を部下に任せて酒を飲んで踊る日々。見るに堪えない亀は、一週間ぶりに、島へ行ってみることにした。久々に、浦島に会いたいと思ったのだ。

 あの時出会った海岸へ行くと、何時もの子供達が、亀はいねぇかと探し回る。子供が苦手な亀の足が、止まってしまった。海の上で様子を見ていると、子供達の話が聞こえてくる。

少年

最近、ドMの浦島も見ないし、つまんないよな~

 浦島は此処にいないのか? だとすれば、一体何処へ? 此処に用が無いと分かった亀は、一旦竜宮城へと帰ることにした。

 竜宮城へ戻り、海鮮料理を嗜む乙姫に耳打ちで言う。

乙姫、浦島さんがどこにいらっしゃるか知りませんか? 島にはいなかったのですが

乙姫

アイツか? アイツならば、泥宮城に住んでるらしいぞ

泥宮城に?

 何だ、意外と近かったな。亀は泥宮城に着くと、浦島を探しに中へ入っていく。受付の女性に浦島について聞くと、女性は何故か苦笑いした。

 不思議に思いながらも、女性に言われた王の間の一つ手前の部屋へと移動する。

 そう言えば、この部屋はツボ押し魚人のいた部屋だったな。彼は魔法とは関係なかったようだが、あれからも此処でツボ押しを続けているのだろうか。扉を開けた。

星姫

乙姫は遊んでても姫出来るのに、何で私はこんなに忙しいのよーっ!!

浦島

おおおう、そこそこぉ

 これは夢だろうか? 亀は目をこすった。
 あの気の弱くて優しかった星姫が、釣竿で浦島を何度も何度もぶっていた。その度に、浦島は気持ち良さそうな顔をする。

魚人

おや、ボディービルダーのダンナ、そっちは違いやすぜ、ツボ押しはこっちです

あ、ああ……それはそうと、あれは?

魚人

ホラ、星姫ってストレス溜めるタイプでやしたしょう? そんな時、浦島のダンナが、「じゃあ自分にぶつけてくれ!!」って言いやして。需要と供給が上手くいきそうだったんで、やってみたらこれが定番になりやしてね

そうか……まぁ、良かったのかな

魚人

そうでやすね

 亀はツボ押し魚人に誘導され、浦島のいる部屋とは反対の部屋に入っていった。扉を閉めた後も、浦島の声が聞こえてくる。
 一つ前の客だった魚男ことお付きの者は、げんなりとした顔付きで言った。

魚男

……彼等の部屋は、地下に変えてもらいましょう

 亀とツボ押し魚人は深く頷き、その後三人同時にため息をついた。

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