帰りたい

 入学早々、小邑桐子の開口一番がこれだ。
 桐子はこれからの生活が不安であるからそう言っているのだろうと、隣の野川詩音はそう思った。

野川 詩音

何そんなしけたこと言ってんのよ。確かにそう言う気持ちはわかるけどね

と桐子を励ます。
 桐子と詩音は不幸なことに高校受験に失敗して、私立の高校に入った。やんちゃで、人外と言われる恐ろしい人が多いのだが学費は公立と変わらないというのが特徴である。
 ここは制服のおさがりをもらうことができるのでサイズもぴったりという運が良ければ制服代もかからない。
 公立に落ちたときは桐子と詩音の両親は落ち込んだのだが、学費が安いし、悪くはないよねと納得した。

ううん。ここに通うのはいいけれど、早く見たいの

 桐子は不満をもらす。学業よりも大切な事があるのだ。
 桐子のライフワークのことだと察した詩音はもうちょっとの辛抱だよと言う。

野川 詩音

ああ、あれね。今夜も散歩しましょうか

 詩音は桐子にいつもの約束をして、教室に入っていった。

 入学式は体育館で行われるのだが、桐子と詩音は外でスマホより大きな端末であるパッドを通して参加した。
 ハイテクになったこの時代、集団になじめない、もしくは周りの雑音が気になって集中できない者のための措置が図られるようになった。
 入学式にはほぼ全員が参加している者と見られる。ぎゅうぎゅうになった体育館の様子を二人は青空の下で見ていた。

親不孝なのかな、私たち

 桐子はそう呟きながら指でカメラの操作をする。
 普通なら新入生は入学式に参加する。
 今は普通から外れたことをしている。
 その不安なのかと思って詩音は桐子を元気づける。

野川 詩音

無理しなくていいのよ。後悔してるの?

ううん。入学式に出ないの、初めてだから

野川 詩音

だよね~、私も初めて

 両親がいるのを確認し、保護者席から生徒の席へと移る。
 彼女らは探しているのだ。

本当に少年犯罪なのかな

野川 詩音

どうかしらねえ。私も疑っている。
人をたくさん殺すくらいの体力って高校生にもあるのかしら

 殺人鬼を探している。
 友人を殺した犯人なのかもしれないというのだが、二人は半信半疑なのである。

過去の少年Aの再来だと言うわりには、この事件の解決遅すぎるよね

野川 詩音

そうね。日本の殺人の検挙率って高いという話をドラマで聞いたことがあるけれど、ここは特殊であり例外であるから統計通りの結果が出ないと言われているわ

 そもそも殺人鬼の正体を知らない。大人だという意見もあれば、子供の可能性もあると言われている。
 そのわからない中を桐子と詩音は進むのだ。

 かつての……友のために……

 保護者が退席してその後新入生歓迎会が開かれる。その前に一旦トイレ休憩ってことなのだろう。
 その間準備をするらしい。
 ここの恒例行事であり、そして人気の行事の一つだ。
 ここを仕切る生徒会兼日御碕自治防衛隊が主催の歓迎会が始まる。

本当にこの、よくわからない防衛隊の人が殺人鬼なのだろうか

野川 詩音

私は信じるのには微妙だと思うね。名指しで指定されると、罪を擦り付けたいのではないかと思うけどね。

この後、歓迎会はとても盛大に行われて、防衛隊の人がほぼかっこいいイケメンであるため女子の歓声と男子の憧れのまなざしとやらでとてもうるさかった。
桐子は体育館にいなくてよかったと自分の選択に自信を持った。

狂気に近づくにはとてもいい場所だ。

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