生ぬるい風が朝より強く吹き始める放課後。

六時間目終了のチャイムが学校中に響き渡るのと同時に、空の色もブルーからグレーへとシフトチェンジし、小雨が降り始めた。

大野信一

雨か・・・

誰もいない校舎裏で本当に少量の雨が風に流され、俺の顔にさっきからずっと当たってくる。

・・・

ウザい。

この雨本当にウザい。

傘も忘れたし、防ぎようがない。

桜と実、早く来ないかな~。

俺は二人の到着をじっと待つのだった。

ホームルームが終わり、私はすぐに校舎裏に向かおうとしたのだが‥。

美濃麻実

羽島~、少しお願いしたいことがあるんだが‥いいか?

羽島桜

別にいいですよ~

いつもの癖で、私は先生からの仕事を引き受けてしまった。

こんな事をしている時間はないと言うのに。

信一くんは‥教室のどこにもいない。

もう、行ってしまったのだろう。

美濃麻実

おー、助かるぞ

でも、どうしても頼まれ事は断れない。

‥‥‥しかたない。

少し遅れても困ることではないし、運ぶことにしましょう。

実さんに少しの猶予を与えてあげましょう‥。

帰りのホームルームが終わり、私はすぐに校舎裏には行かず、図書室に本を返してから向かった。

本を返却し、図書室を出た時には廊下で話していた生徒がかなり減っていた。

廊下を歩く足の一歩一歩が思い。

絶対に・・・告白なんて・・・させないん・・・だから・・・。

校舎裏に着くと、そこには信一が傘も差さずに立っていた。

少し遅れて着いたはずなのだが‥。

大野信一

あ、実も来たのか

早川実

う、うん。桜は?

大野信一

それが、まだ来ないんだよ‥。てか、何で呼び出されたかお前は事情を知ってるか?

早川実

え? 私が解るわけないじゃん。

大野信一

そっか‥俺もさっぱりなんだよ‥。

まあ、告白される張本人がわかるわけないか。

でも、そう考えると呼び出した張本人が遅れてくるのも納得か。

大野信一

そうだ実。お前桜の事、からかってるだろ?

早川実

え?

大野信一

今日の昼休み、桜が俺のためにって弁当くれたんだよ

早川実

どうだったの?

大野信一

どうだったの?って‥塩でピリピリに効き過ぎた弁当が美味しいと思うか?

早川実

だよね~

大野信一

お前、あんまり桜をからかうなよな~。やっと仲良くなったと思ったのに‥

早川実

へへ、ゴメーン

大野信一

まったく

その時の私は、どこか油断をしていたのかもしれない。

告白をするのだと決めつけて‥。

大野信一

あ、桜!

信一の声を聞いて後ろを振り向いた時、私は声が出なかった。

あの、羽島桜の目を見てしまったら当然だろう。

顔は笑っているが、目がそうでない事を物語っている。

大野信一

お、おい。どうしたんだよ?そんな怖い顔して‥

羽島桜

え?そんなに怖い顔してます?ごめんなさい。自覚がなかったです

自覚がなかったって‥。

早川実

桜‥

羽島桜

実さん

早川実

え?

羽島桜

どうして呼ばれたかわかります?

早川実

信一に‥

羽島桜

信一くんは関係ないですよ?

早川実

え‥‥

え? 関係ないの?

羽島桜

お弁当…覚えてますよね?

え! まさか‥

早川実

お弁当の事を怒ってるの?

羽島桜

はい! 当たり前じゃないですか~

その少し柔らかく放たれた言葉の裏には、針のようにトゲトゲした何かがある事がすぐにわかった。

早川実

で、でもたかが悪戯じゃん! 何そんなにムキになってんの?

少しの間、右頬の感覚が無くなった。

羽島桜

いい加減な事を言わんといてくれや!!

だが、すぐに熱を感じ始めた。

これが、私の高校初ビンタとなった。

早川実

な、何すんのよ!!

羽島桜

約束しましたよね? 私に協力するって!

早川実

そんなの真に受けた桜が悪いんでしょ!? 文句があるなら信じなければいいじゃん!

羽島桜

「私がお手伝いしてあげましょうか」って自分から言ってきたんじゃないですか!!

早川実

だから!! 信じたあんたが悪いのよ!

羽島桜

あんたがやるって言うたんやろが!!

‥‥‥え?

さっき、頬の事を考えててスルーしたけど、今のは聞き間違えようのない台詞だった。

‥‥桜って関西出身?

羽島桜

‥は!

自分の発言に気がついたのか、手で真っ赤になった顔を隠した。

早川実

ぷ~クスクス! 方言出してやんの~

羽島桜

ん~~!!!!

さっきまでの余裕がある笑顔(偽)から、完全に余裕を失った慌て顔に変わっている。

これは勝てる!

早川実

てかさ~、桜って本当は自分の事、可愛いって自覚してるんじゃない?

羽島桜

し、してません!

早川実

ほら~、慌ててるところを見ると、一目瞭然じゃん!

羽島桜

違います‥そんな事言って、自分の顔に自信があったから私に協力するとか言って、私なんかに協力しても勝てるとか思ってたんじゃないですか?

早川実

違いますー!

羽島桜

そうです-!

早川実

そんな事言ったらあんただって‥

大野信一

いい加減にしろよ!!!!

そこに居たことを完全に忘れていた人物。

信一の声が辺り一面に広がった。

私も桜も息をすることを忘れてしまうほどの突然の声に、言葉を発することができなかった。

第9話 俺はしぶしぶ校舎裏に足を運びました

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