アスター・クライノート

加工宝石<スウィンドル>だね

クリエ・エーデルシュタイン

……純性宝石<トゥルース>じゃなくて?

アスター・クライノート

うん、間違いなく加工宝石

クリエ・エーデルシュタイン

…………

アスター・クライノート

いや、そんな顔されてもダメだから

クリエ・エーデルシュタイン

……どう見てもダイヤモンドだよ?

アスター・クライノート

誰もそれがダイヤに見えないなんて言ってないよ。純性じゃないってだけの話

アスター・クライノート

検査はしたけど、全部アウトだよ。屈折率テストもアウト、ブレステストもアウト。後々売るだろうからスクラッチはやめたけど

クリエ・エーデルシュタイン

本物だとどうなるの?

アスター・クライノート

順番に解説しようか。屈折率テストだけど、純性のダイヤなら屈折率が高すぎてダイヤ越しに新聞を読んでも文字だと判別できないくらい歪むんだ。けど、こいつは残念ながら純性ほど根性なかったみたいだね

アスター・クライノート

で、ブレステストはもっと単純。息を吹きかけてほんの一瞬しか表面が曇らなかったら純性。だいたい3秒以上表面が曇ったら偽物ってだけだよ

クリエ・エーデルシュタイン

……へー

アスター・クライノート

まぁ、他にもさっき言ったスクラッチテストや重量・含有物テストとか色々調べる方法はあるけど、素人でも簡単に調べられる方法はそれくらいかな

アスター・クライノート

って、持ってくる途中でブレステストくらいはできそうじゃない?

クリエ・エーデルシュタイン

初めて聞いたもん

アスター・クライノート

半月前に同じこと説明しましたけど!?

クリエ・エーデルシュタイン

そうだっけ?

アスター・クライノート

……もうちょっとしっかりしてくれよ

数日後
怪盗シャムロックこと、クリエ・エーデルシュタインは宝石鑑定士の元を訪ねていた。
勿論、依頼品はピルツ・シュランムの屋敷から盗み出したブルーダイヤだ。

アスター・クライノート

まあ純性宝石と加工宝石の違いなんて本物か偽物かの違いだけだからね。確かに売価は雲泥の差があるけど

クリエ・エーデルシュタイン

……ちなみに、どれくらいで売れそう?

アスター・クライノート

カラットはだいたい5くらいかな。加工宝石とはいえ透明度もなかなかだし、形も悪くない。ただ、色が淡すぎるかもな……

アスター・クライノート

6万S(シード)が妥当じゃないかな

クリエ・エーデルシュタイン

6万……

足りない。
それだと、鑑定士であるアスターへの報酬と生活費だけで簡単に消えてしまう。

クリエに必要なのは、6万の横に0がもっと多い額なのだ。

アスター・クライノート

……そんなに急がなくていいんじゃないの?

アスター・クライノート

時間は少ないかもだけど、焦ったって金は湧かないんだから

クリエ・エーデルシュタイン

うん……

アスター・クライノート

とりあえず、これは俺の方で売りに出しておく。いつも通り売れるまで少し時間かかるけど、持ち合わせある?

クリエ・エーデルシュタイン

うん。1週間くらいなら保つ

アスター・クライノート

そっか。……お金が足りなくなったらいつでも言いに来なよ?

クリエ・エーデルシュタイン

大丈夫だよ、ありがとう

アスター・クライノートはクリエが怪盗シャムロックとして動き出す前からの長い付き合いだ。

前から足が弱く、今は発明されて間もない車いすに乗って生活している。
車いすに乗っているというだけで社会的弱者と蔑視されやすいご時世の中で、裏社会とも付き合いつつ一流の鑑定士として認められている彼は、とてもまぶしい存在だった。

アスター・クライノート

あ、そうそう。先生が探してたよ。また定期検診サボったんだって?

クリエ・エーデルシュタイン

う…………

思わず口ごもる。
アスターのいう「先生」とはクリエにとっては恩人同然なのだが、クリエはあの人は昔から苦手だった。

アスター・クライノート

ダメだよ、検診はちゃんと受けないと。その体も健康とは程遠いんだからね

クリエ・エーデルシュタイン

あの人……苦手だし

アスター・クライノート

子供みたいなこと言わない。先生も俺も心配で言ってるんだからね

アスター・クライノート

どうせ今回の時も血吐いちゃったんでしょ?頼むから今日中には先生のところに行って、いい?

クリエ・エーデルシュタイン

…………はぁい

しぶしぶ頷くクリエ。
口も頭も、昔から彼にはかなわない。

足も健康だったら、きっと運動も彼の方が上だったんだろうなと、ぼんやり考えた。

クリエ・エーデルシュタイン

じゃあ、そろそろ行くね

アスター・クライノート

またいつでも来てよ。お客さんがいなかったら歓迎するからさ

クリエ・エーデルシュタイン

遠慮しとく。お仕事の邪魔するのは悪いもん

アスター・クライノート

邪魔なんかじゃないのに……まぁいいや

アスター・クライノート

気をつけて帰ってね、姉さん

クリエ・エーデルシュタイン

ありがとう。またね、アスター

そうだ。

クリエとアスターは腹違いの姉弟。
貴族であるエーデルシュタイン家に引き取られる前、孤児院で生活していた頃に出会った、二人にとって本当の意味での「家族」なのだ。

2ct  クリエとアスター

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