乙姫の元で羅針指を取り戻した兄妹はワープで城へと戻り、父である国王に面会した。

国王は大広間の奥の数段高い場所から城下を見ていた。

レイウェル

父上、戻りました

サラ

おとうさま、ただいま~

国王

おう、二人とも無事でなによりだ。
レイウェル、早速だが

レイウェル

はい

国王

あれ、なんとかしてくんないかな

レイウェル

え?

サラ

まあっ

王が指さす大広間の端を見た二人は驚いた。それはレイウェルが放った伝令式神に対する国内の王子・姫からの大量の返戻式神にもみくちゃにされているスミスの姿だった。

スミス

あばばばばば…

レイウェル

……おもしろいから放っとこうぜ?

サラ

お兄さま

国王

レイウェル、あまり遊んでやるな。それに伝令式神を放ったのはお前だ。あれをどうにかできるのはお前しかいないだろ

レイウェル

わかってますよ。
サラ、珍しいものが見れたな

含み笑いでサラにいうと、レイウェルはパチンと指を鳴らす。
それまでスミスにまとわりついていた大量の紙が急に力を失い、はらはらと床に落ちて次々に小さな破裂音を出して消えていく。

スミス

ああ、助かった

サラは普段なら決して見ることのない疲れ果ててぼろぼろのスミスを見て、人間らしさを感じずにはいられなかった。
昔から少しも見た目の変わらないスミスの、そのワケを結局聞けずじまいだったと、サラは心の中で残念に思った。

そのスミスの体がサラの前で次第にぼやけていく。サラは、自分の目がおかしいのかと思ったがそうではない。

サラ

あら?

確かにスミスの向こうが透けて見えるのだ。サラの声に振り向いたレイウェルは、

レイウェル

あ。ちょうどよかったな

と腕まくりをしながら言った。なんとも軽い言い方だった。人が消えようとしているのにあんまりではないか。

サラはレイウェルの非情さに腹が立った。

スミスはやがて音もなく消えてしまった。

後には、ボロボロの紙片が残っている。
人が消えてしまったのに誰もそのことを疑問に思う様子は無い。

サラ

スミスはどうなったのですか?

心配そうな顔のサラにレイウェルは安心しろとでも言うように柔らかく笑った。

レイウェル

まあ、見てろ

レイウェルはポケットから紙を取り出し、ふっと息を吹きかける。

掌の上の紙片は光を纏い、宙に浮いた。

手を離れた紙片はくるくると緩やかに回転を始める。

みるみる回転速度が上がって紙片を包む光が大きくなり、強く発光していく。

風がサラの髪を揺らす。

サラ


風の渦の中でうずくまる人の姿が見えた。

レイウェル

伝達用の式神と違って、これはちょっと手間がかかるんだ

青の魔法師以上にしかできないんだぜ、と自慢げにレイウェルはピースサインをしてみせる。
サラにはそもそも魔法師が全部で何階級あるのかわからないのだが、あの言い方からするとおそらく青は簡単になれるものではないし、レイウェルは青よりも上級なのだろう。

光と風がおさまると、そこには〝真新しい〟スミスが傅(かしず)いていた。

レイウェル

でもその分、耐用年数は長い。
だよな? スミス

スミス

はい、レイウェル様


片膝をつきながら“式神執事”のスミスは恭しく頭を垂れた。

サラ

……

スミスの不老の謎が解けた瞬間であった。

国王

さて、落ち着いたところで、
状況説明をしてくれ

レイウェル

羅針指を乙姫の所で見つけて、ガラスの靴の在処を聞いたら

サラ

わたくしを指しました

国王

サラを?

サラ

ええ

城内の庭でアフタヌーンティーを飲みながら国王とレイウェルは実に三年ぶりに顔を合わせた。

しかし、感動の再会をよろこぶような暇はなかった。
時の番人が現れてしまった。それは、端的に言えば現国王の死を意味している。

国王

スミス、モモちゃん呼んで

スミス

はい

スミスが席を外して間もなく、彼女は現れた。

桃太郎正宗

お呼びでしょうか

国王

ああ、モモちゃん

レイウェル

え? ちょ、ちょっと待ってくれ


レイウェルは慌てて会話を遮る。

国王

なんだ?

この違和感に誰も気が付いていないようだ。
自分が大変なバカなのかと思ったが、
レイウェルは冷静に国王に訊ねた。

レイウェル

父上、彼女はモモちゃんというのですか?

国王

そうだ


国王は異論がないという顔でうなずく。

レイウェル

モモちゃんとは、一人の者の名ですか?

国王

当たり前だろう

国王は半笑いで応じる。
やっぱり俺がバカなのかとレイウェルは心が折れそうになったが、どうしても確かめる必要があったので、内心ひやひやとしつつも感づかれないようにその質問を繰り出す。

レイウェル

では、昨日俺のもとに獲物を持ってきてくれた彼も、モモちゃんですか?

←昨日までのモモちゃん

桃太郎正宗

←本来のモモちゃん

国王

そうなるな

サラ

え?


サラも異変に気が付いたようだ。

レイウェル

父上…

レイウェルは脱力して椅子に腰を落とす。
国王は我が子の試験の様子を彼女に命じて(友人に成りすまして)見に行かせていたのだ。
それがバレれば即失格だった。
今となっては過ぎた話なのだが。

桃太郎正宗

それには“分離魔法”が有効かと思います

説明を聞いた国王の式神 桃太郎正宗ことモモちゃんは、迷いなく告げた。

サラ

分離魔法?

〈魔法書―第四章―分離の項より〉

概要

ある物体内Aに存在する他の物質Bを取り出す方法。この場合の物体Aと物質Bは魔力により融合している必要がある。(以下略)

材料

魔物の生き血、竜の鱗、人喰い狼の牙、魔力を秘めた髪の毛、星屑(または金の卵)

方法

高等魔法師による詠唱

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