父である国王との通信を終えるなり、レイウェルはサラに言った。

レイウェル

サラ、お前にも
手伝ってもらうぞ

サラ

ええ! もちろん!

平和な国ワンダリアに非常事態宣言を出すことになってしまった今、事は急を要していた。

状況を把握できないまま妹は不安な様子で尋ねる。

サラ

それでお兄さまは
どうなさるおつもりですか?

レイウェル

目的はひとつだ。
時を告げる者を止める

サラ

あの、お兄さま。時を告げる者
というのは一体何ですの?

レイウェル

そうだな。
ちょっと待ってろ

そう言うとレイウェルはぱちん、と指を鳴らした。

やや軽い衝撃があって、二人の目の前には古めかしい本が現れた。

サラ

これは?

レイウェル

時の番人について
書かれている古文書だ。
城の書庫からワープさせた

二人は古文書を覗き込んだ。

古文書

時の番人は世界が破滅の憂き目に立たされたときに現れ、それらを防ぎ、次の世を担う者の名を告げる。

古文書

時の番人に名を告げられた者はこの世を治める権利を得ることになるが、前任者は命を奪われる。

サラ

え!?
じゃあ、お父様が…

レイウェル

ああ。事は一刻を争う。
父上の御命がかかっているからな

サラ

どうしてこんなことに…

レイウェル

本来、時の番人は歴史の
転換期に現れている。
この平和な世に現れること自体
異常なんだ。

サラ

…前に現れたのは
いつなのですか?

レイウェルは古文書に目を落とす。

レイウェル

うん。記録によれば
三百年前だ

サラ

そんなに昔に

レイウェル

戦争も起きていないのに
どうしてリリーが
現れたのかは謎だな。
そして時の番人リリーのお告げを
止めるにはガラスの靴が必要って
ことはわかってるようだ。

サラ

それはどこに
あるんです?

再び古文書を読んだレイウェルからは不安気な答えが返ってきた。

レイウェル

わからない。この世のどこかに
出現するといわれている

サラ

この世のどこか…

平和な世に突如として現れた時の番人。
それは人々の感情を読まない傀儡だという。
平和を呼ぶ者が平和を乱す。
父親の命を人質に取られた兄妹は、
居場所のわからぬガラスの靴に乱される。

兄は考えを巡らせながら口を開いた。

レイウェル

ただスミスの話では
羅針指を探していて
時の番人が現れたそうだから…

サラ

じゃあ

レイウェル

ああ。まずは羅針指を探そう

そういうとレイウェルはトランプ大の紙の束を出し、それに向かって小さい声で何事か言うと、一気に窓の外に放った。

レイウェル

ワンダリア全土の王子と姫に
伝令用式神を放った

サラ

それで?

レイウェル

人知は尽くした。
あとは天命を待つ

サラ

……

そう言って兄レイウェルはテーブルに腰掛けて新聞を読みだした。
奥ではラプンツェルとアリスがお昼ごはんの用意をしている。
自分も椅子に腰かけながら、それでいいのかしら? と漠然とした不安を感じる王女だった。

サラ

私、何もしてないし

乙姫

だいたいさぁ、海頭のクセに
常識知らずなんだよ

一方、竜宮王乙姫は竜宮城の蔵で探し物をしていた。海の王たちを束ねる海頭である海坊主からもらった秘宝、玉手箱。

海坊主からの気違いじみた求婚を軽薄に辞した乙姫は、それを返すと言ってしまったため、探す羽目に。

玉手箱の中身も見ずに蔵に放り込んでいたと気づいてから、探し始めて二時間ほどが経とうとしていた。

乙姫はその間愚痴りっぱなしで、暇だからと一緒に探してくれている赤ずきんはそれを二時間聞き流しっぱなしだった。

がさごそ

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

蔵は散らかり放題で、そもそも棚に物が収まっていなかった。
本や甲冑などが無造作に置かれ、埃まみれになっている。

赤ずきんは奥の方を物をどかしながら探しているが、乙姫は入り口の近くを、その辺に転がっていた棒でちょろちょろとやるだけで、海坊主への悪態をつくのにせわしなかった。

乙姫

フツーこういうのは
手順を踏むものでしょ

がさごそ

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

乙姫

つーか部下にはこういうの
やっちゃだめでしょ

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

がさごそ

乙姫

LIN○で結婚申し込むとか

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

がさごそ

乙姫

ゆとりか?

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

乙姫

ゆとりでもしねぇわ!!

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

がさごそ

乙姫

そもそも
海頭のクセに携帯
使うってどうなの?

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

がさごそ

乙姫

式神使えよ!!
立場考えろやマジで!!

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

ワンダリアでは、魔法を使うことのできる者は基本的に式神を用いるのが普通だった。

携帯は魔法の使えない者、あるいは使役されている式神が用いる物であって、海坊主のように魔力の強い者が携帯で連絡を取ることは一般的ではない。

人の上に立つものは相応の行動をとるべきであり、さもなければ下々に対して示しがつかないと乙姫は感じていた。

乙姫

バカじゃねぇ―の?
えっと、どこやったっけなぁ
玉手箱

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

がさごそ

乙姫

おーい! どこだぁ?

赤ずきん

(集中していて聞いていない)

積み上げて崩れた本の隙間に、赤いものがのぞいている。乙姫は本を無造作にどかした。

乙姫

あ! あったあった

赤ずきん

え? あった?

二人は玉手箱を部屋に運んだ。
テーブルに置かれた赤い匣。
一見何の変哲もないこの匣こそ、海中の至宝。
その存在を知るものならば、誰もが欲しがるといわれているが、乙姫はおせんべいの缶でも開けるように無造作に紐を解いた。

乙姫

よいしょ。
ん? なにコレ?

乙姫は開いた匣を覗いて驚きの声をあげた。その時、竜宮城の結界を通り抜けてレイウェルの伝令用式神が自発展開し、要件を告げてきた。

伝令用式神

ぃやっほーい!

赤ずきん

んんっ!?

伝令用式神

ワンダリア国王子レイウェル・ジェラルディーン様より、伝令ですっ!

乙姫

どうぞぉ

伝令用式神

〝本案件はワンダリア国に住まう王子または姫に通達される。ワンダリア国は魔歴216年雨ノ月7日ひとふたまるまるをもって非常事態宣言を発令した。レイウェル様は現在、ワンダリア国の秘密道具である羅針指(写真1)を探されている。見つけ次第、連絡用式神にてワンダリア国通信室に報告されたし。
以上!〟

乙姫

どっこいせ

乙姫はワンダリア国通信室に報告するため、懐から紙片を取り出した。

王国から連絡用式神がレイウェルのもとに放たれたとき、ワンダリア国の王子と王女はラプンツェルお手製のザッハトルテを食後に頬張っていた。

サラ

んー、おいしい

レイウェル

うまいな

アリス

だろー?

ラプンツェル

えへへ

王国の式神

緊急伝令!!

アリス

!!

王国の式神

ワンダリア国通信室より緊急伝令! 羅針指が見つかったとのことです!!

レイウェル

どこだ!?

王国の式神

場所は…竜宮城です

式神が場所を言うが早いかレイウェルはサラと共にワープした。

乙姫

よ! 久しぶりじゃーん!
てか王女元気?

サラ

ええ。元気よ

レイウェル

いきなりすまん。
で、ブツは?

乙姫

ああ、あそこ

レイウェル

あった!

それはまさに、二人が探していた羅針指だった。小さな方位磁石のような形をしており、探したいものを告げると方角を示してくれる。ただし限られた者にしか扱うことのできない、ワンダリア城の秘宝。

だが二人にとっては別段珍しいものではなかった。子供の頃コマの代わりに遊んではよくスミスに叱られていた。
とにかくも二人はガラスの靴につながるはずの羅針指を昼食の合間に取り戻すことができた。

サラ

なんで玉手箱に?

乙姫

さあ? 一応海坊主にも
聞いたけど、そんなものは
入れてないって

レイウェル

うーん

サラ

やっぱり、わたくしの
せい、なのでしょうか?

レイウェル

まあ、理由はどうあれ
見つかったんだし、
よかったじゃないか

サラ

そうですわね

レイウェル

さて、やるか

サラ

はい

乙姫

え? 何やんの?

レイウェル

時の番人リリーの
“時のお告げ”を止める、

サラ

ためにガラスの靴を
探すのですわ

乙姫

なんかおもしろそう!

サラ

では、お兄さま
お願いいたします

レイウェル

我レイウェル・ジェラルディーン、王家の血を継ぐ者なり。我が声に応えよ、ガラスの靴はどこか

サラ

え?

羅針指がくるくると回転し、真っすぐサラを指し示した。

サラが動くと羅針指はサラを追っていく。

レイウェル

まじ?

乙姫

え? なになに
どゆこと?

状況をつかめない乙姫が「?」を大量生産していた。

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