時の番人リリー

我が名はリリー。
〝時を告げる者〟であル

国王

時を告げる者…

スミス

時の番人、リリー

…何ソレ?

二人がそろって首をかしげていると窓から何かが勢いよく飛び込んできた。

式神 ニコ

っバーーーン!

国王

!!

式神 ニコ

こんちは!

スミス

レイウェル様の式神、ですね

式神 ニコ

あい! ニコでやんす!
ご主人さまが会話を希望していやす!

国王

…どういうことだ?

式神 ニコ

よろしいかな? かな?

国王

つなげろ

ういっ! と元気よくうなずくと、ニコと名乗ったケモ耳の式神は、ぷつりと糸が切れたように動かなくなった。

少しの間のあと、ガサガサとう雑音に交じって、国王が久しく聞いていない我が子の声がした。

式神 ニコ

…父上、お久しぶりです

国王

レイウェル、なにがあった?

式神 ニコ

かくかくしかじかで俺は今
サラと一緒にいます

国王

…なに?

式神 ニコ

サラは魔力に目覚めています

国王

サラ、いくつになった?

国王は、近くにいるという王女に声をかける。
すると落ち着いた声が帰ってきた。

式神 ニコ

16です

国王

…入学準備しないと
いけないじゃないか!

スミス

殿下、落ち着いてください

国王

ああ、それも大事だがレイウェル、困ったことになった

式神 ニコ

どうしました?

国王

リリーとかいう女の子が…

式神 ニコ

なぜいま時の番人が?

国王

まったくわからん

式神 ニコ

まさか…

国王

なんだ?

式神 ニコ

サラの魔力と何か関係が
あるのではないかと…

スミス

国王

レイウェル

式神 ニコ

はい

国王

たった今からワンダリアは
異常事態宣言を発令する

式神 ニコ

……

国王

王としてお前に命ずる。
この問題を解決せよ!

式神 ニコ

はい…え?
丸投げですか?

国王

うん! がんばれ!

式神 ニコ

え~~~~

国王

それでお前の犯した禁に
ついてはチャラにしよう

式神 ニコ

……はぁーい

通話を終了した式神はポップな文字とともに消えていった。

ののこ

こんにちは

国王

……美しい

スミス

殿下?

国王

あ、いやいや、冗談だよ

ののこ

私、ヴォルフガング様の使いで参りました、ののこと申します

国王

ののこさん、
ようこそワンダリア城へ

スミス

殿下…それ式神ですよ

国王

……(恥)

式神 ののこ

通信を始めても?

スミス

どうぞ

式神 ののこ

…私だ。至急連絡すべき事態が
起きた。お前の息子が…

国王

ああ、ちょうど良かった。その件で私も魔法学校長に言うことがあったのだ。保護者として

式神 ののこ

……どういうことだドリー?

国王をあだ名で呼べるのはこの方くらいなものだと思いつつ、スミスは国王アドルファスが魔法学校長に事の概要を話す様子を眺めていた。

スミス

この見た目からおっさんの声が聞こえるのはなかなかにシュールですねぇ

そうして陽が傾きかけた頃、二人の騎士がその日の仕事を終えようとしていた。

ウィル

なあ、アビー

アビー

なんだよ、ウィル

ウィル

飲みに行かねぇか?

くいっと手首を動かしながら、ウィルはにやりと笑った。
城で騎士として働き始めて三年、アビーとウィルは仕事終わりによく二人で飲みに行くことがあった。

ウィル

“バミューダ”でいいよな?

アビー

ああ

甲冑から制服に着替えて行きつけの店へと向かう。

ウィル

おいアビー

アビー

…ん?

ウィル

あれ、海坊主じゃないか?

アビー

ああ、確かに。でも海頭(うみがしら)がこんなバルで酒飲むなんて

意外そうにアビーが言う。

ウィル

なにか、いやなことでもあったのかな?

ウィルのその予想はあながち間違っていなかった。

海坊主

はぁ

どうも暇そうには見えないこの海を統べる海頭(うみがしら)である海坊主の、ため息の理由は視線の先の携帯電話だった。

既読になっているのに返信されないメッセージ。

いわゆる既読スルーをされて丸三日。重いため息は状況の深刻さを物語っていた。

バーテン

どうぞ

海坊主

ああ、ありがとう


お代わりしたウィスキーのロックを煽る。

海坊主

ふぅ

そろそろ帰るか。
カウンターに紙幣を置き、スツールを降りようとして軽くめまいがした。

ああ。倒れる。

とっさにそう思ったがいつまで待っても床にぶつかる衝撃が来ない。

バーテン

大丈夫ですか?

海坊主

……

どうやらバーテンが抱えていたらしい。とっさに閉じた目を開けると、褐色に映える萌黄色の瞳がこちらを心配そうにのぞき込んでいる。

海坊主

ああ。すまないね

バーテン

本当に、大丈夫ですか?

海坊主

……

立ち上がってニコリとうなずくと海坊主はワープして帰っていった。

ウィル

とくに問題なさそうだな。
そろそろ帰るか

アビー

ああ

海坊主が帰るのを見届けた二人は店を後にした。

ビービビッ!

乙姫

……

通知音に目を覚ました乙姫はベッドから抜け出し、真っ裸のまま机の上の携帯をタップする。

寝癖で髪がおかしなことになっているのも気に留めず、画面を見た乙姫は不快感を露わにする。

チッ

赤ずきん

どうした?


ベッドで一部始終を見ていた赤ずきんが怒りの理由を聞いてくる。

乙姫

また海坊主からだ

赤ずきん

ウニ坊主?

乙姫

うみ!

赤ずきん

ああ、膿ね

乙姫

…そうそう、それ、
っておーーーーーい!

赤ずきん

……はっははっは~


と、いつものようにひとしきり笑うと赤ずきんが言った。

赤ずきん

で? お偉いさん、
なんだって?

乙姫

ツラ貸せ、ってさ

赤ずきん

…いってら~

言いながら赤ずきんはすでに二度寝の態勢に入っている。

乙姫

…あ~マジめんどくせぇ

そのまま乙姫は携帯を放り投げると裸のままクローゼットに向かっていった。

乙姫

十二代目竜宮王乙姫
ただいま参上しました!

海坊主

乙姫さん、貴方の返事を
聞かせてくれますか

乙姫

は! その事でしたら
お断りいたします!

海坊主

…なんで?

乙姫

私の、断る理由は
ただ一つです

海坊主

…だから何?

乙姫

私の、一身上の都合です

海坊主

…だがら何なのです?

乙姫

ほかに好きな人が
いるからです

海坊主

……

乙姫

てゆうかもう、***です

海坊主

……

乙姫

だから、海坊主様の
お役には立てません

海坊主

困りましたねぇ

乙姫

いただいた玉手箱はお返しします。
どうかお気を落とされませんように

海坊主

はあ

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