…何ソレ?
我が名はリリー。
〝時を告げる者〟であル
時を告げる者…
時の番人、リリー
…何ソレ?
二人がそろって首をかしげていると窓から何かが勢いよく飛び込んできた。
っバーーーン!
!!
こんちは!
レイウェル様の式神、ですね
あい! ニコでやんす!
ご主人さまが会話を希望していやす!
…どういうことだ?
よろしいかな? かな?
つなげろ
ういっ! と元気よくうなずくと、ニコと名乗ったケモ耳の式神は、ぷつりと糸が切れたように動かなくなった。
少しの間のあと、ガサガサとう雑音に交じって、国王が久しく聞いていない我が子の声がした。
…父上、お久しぶりです
レイウェル、なにがあった?
かくかくしかじかで俺は今
サラと一緒にいます
…なに?
サラは魔力に目覚めています
サラ、いくつになった?
国王は、近くにいるという王女に声をかける。
すると落ち着いた声が帰ってきた。
16です
…入学準備しないと
いけないじゃないか!
殿下、落ち着いてください
ああ、それも大事だがレイウェル、困ったことになった
どうしました?
リリーとかいう女の子が…
なぜいま時の番人が?
まったくわからん
まさか…
なんだ?
サラの魔力と何か関係が
あるのではないかと…
?
レイウェル
はい
たった今からワンダリアは
異常事態宣言を発令する
……
王としてお前に命ずる。
この問題を解決せよ!
はい…え?
丸投げですか?
うん! がんばれ!
え~~~~
それでお前の犯した禁に
ついてはチャラにしよう
……はぁーい
通話を終了した式神はポップな文字とともに消えていった。
こんにちは
……美しい
殿下?
あ、いやいや、冗談だよ
私、ヴォルフガング様の使いで参りました、ののこと申します
ののこさん、
ようこそワンダリア城へ
殿下…それ式神ですよ
……(恥)
通信を始めても?
どうぞ
…私だ。至急連絡すべき事態が
起きた。お前の息子が…
ああ、ちょうど良かった。その件で私も魔法学校長に言うことがあったのだ。保護者として
……どういうことだドリー?
国王をあだ名で呼べるのはこの方くらいなものだと思いつつ、スミスは国王アドルファスが魔法学校長に事の概要を話す様子を眺めていた。
この見た目からおっさんの声が聞こえるのはなかなかにシュールですねぇ
そうして陽が傾きかけた頃、二人の騎士がその日の仕事を終えようとしていた。
なあ、アビー
なんだよ、ウィル
飲みに行かねぇか?
くいっと手首を動かしながら、ウィルはにやりと笑った。
城で騎士として働き始めて三年、アビーとウィルは仕事終わりによく二人で飲みに行くことがあった。
“バミューダ”でいいよな?
ああ
甲冑から制服に着替えて行きつけの店へと向かう。
おいアビー
…ん?
あれ、海坊主じゃないか?
ああ、確かに。でも海頭(うみがしら)がこんなバルで酒飲むなんて
意外そうにアビーが言う。
なにか、いやなことでもあったのかな?
ウィルのその予想はあながち間違っていなかった。
はぁ
どうも暇そうには見えないこの海を統べる海頭(うみがしら)である海坊主の、ため息の理由は視線の先の携帯電話だった。
既読になっているのに返信されないメッセージ。
いわゆる既読スルーをされて丸三日。重いため息は状況の深刻さを物語っていた。
どうぞ
ああ、ありがとう
お代わりしたウィスキーのロックを煽る。
ふぅ
そろそろ帰るか。
カウンターに紙幣を置き、スツールを降りようとして軽くめまいがした。
ああ。倒れる。
とっさにそう思ったがいつまで待っても床にぶつかる衝撃が来ない。
大丈夫ですか?
……
どうやらバーテンが抱えていたらしい。とっさに閉じた目を開けると、褐色に映える萌黄色の瞳がこちらを心配そうにのぞき込んでいる。
ああ。すまないね
本当に、大丈夫ですか?
……
立ち上がってニコリとうなずくと海坊主はワープして帰っていった。
とくに問題なさそうだな。
そろそろ帰るか
ああ
海坊主が帰るのを見届けた二人は店を後にした。
ビービビッ!
……
通知音に目を覚ました乙姫はベッドから抜け出し、真っ裸のまま机の上の携帯をタップする。
寝癖で髪がおかしなことになっているのも気に留めず、画面を見た乙姫は不快感を露わにする。
チッ
どうした?
ベッドで一部始終を見ていた赤ずきんが怒りの理由を聞いてくる。
また海坊主からだ
ウニ坊主?
うみ!
ああ、膿ね
…そうそう、それ、
っておーーーーーい!
……はっははっは~
と、いつものようにひとしきり笑うと赤ずきんが言った。
で? お偉いさん、
なんだって?
ツラ貸せ、ってさ
…いってら~
言いながら赤ずきんはすでに二度寝の態勢に入っている。
…あ~マジめんどくせぇ
そのまま乙姫は携帯を放り投げると裸のままクローゼットに向かっていった。
十二代目竜宮王乙姫
ただいま参上しました!
乙姫さん、貴方の返事を
聞かせてくれますか
は! その事でしたら
お断りいたします!
…なんで?
私の、断る理由は
ただ一つです
…だから何?
私の、一身上の都合です
…だがら何なのです?
ほかに好きな人が
いるからです
……
てゆうかもう、***です
……
だから、海坊主様の
お役には立てません
困りましたねぇ
いただいた玉手箱はお返しします。
どうかお気を落とされませんように
はあ