Episode 1

































帯刀 立一

あー ksnmー……

深夜2時。
アパートの廊下を歩く青年が一人。




だるそうにコンビニの袋を片手にぶら下げ、派手にカラーリングした髪をかきあげる。




彼の名は『帯刀 立一 (たてわき りゅういち)』


襟足長めのカラーリングされたヘアーに、派手めのアクセ。

風貌から、お世辞にも品行方正には見えない
俗に言うチャラ男。




日々ノリで生きてるウェーイ系な彼は

ここ数日、友人宅で飲み会という名の馬鹿騒ぎの後、合コンをハシゴしたのが彼女にばれ、
ビンタを食らってのご帰還である。




帯刀 立一

ふあ~……






立一は、2階の角部屋前で立ち止まると
欠伸をしながらジャケットのポケットから自分の部屋の鍵を探った。












ドアの鍵穴に鍵をあてがうと扉は難なく開き
数日前、慌てて出かけた際
散らかしたままになっているはずのマイルームへと足を踏み入れる……








はずだったのだが





帯刀 立一

……







帯刀 立一

……?







帯刀 立一

あー…… さーせん
部屋間違えした~
秒でソクサリするんで まじGM










彼にとって部屋を間違える事は、日常茶飯事である。

部屋の階数でも間違ったのであろう。
そそくさと、ドアを閉めると今来た道を引き返す。

帯刀 立一

…… …… あ?


しばし、歩みを進めるも
階段を半分まで戻ったところで、ふと足を止める。

帯刀 立一

って 鍵 開いてっし!

持っていた鍵で、部屋のドアは確かに開いたのだ。

そのことに気づき、慌てて部屋の前へと引き返す。

帯刀 立一

ちょ マ パねぇわ

部屋を覗き込むと中は薄暗く
時折、聞き慣れない機械音が聞こえてくる。



いよいよ怪しいが、部屋の中へと足を踏み入れ
目を凝らし……辺りを見回す。



無機質な冷たさを感じる壁に、得体の知れない機材、何かの配線らしきものまで床に張り巡っている。

帯刀 立一

留守中に ガチリフォームとか バビるわー……

以前の部屋の面影など何処にもなかった。



ベッド替わりにしていたソファー、買ったばかりのジャケットが入っていたはずのクローゼットは消え去り、代わりに謎の機械が犇めいている。



先日、別れた彼女と一緒に観たSF映画でこんなシーンを見たような気がする。



3日間家を空けている隙に、とんでもないリフォームをされたものだ……そう、立一は思った。



まるで、丸ごと部屋の中を別の空間とすり替えたかのようである。

帯刀 立一

まぁ 割かしガチめで
部屋広くなってっから 良いっちゃいいけど?

薄暗いため、正確に把握出来る訳ではないが
部屋の広さは倍以上……いや、それ以上になっているのだが、彼がそこを深く追求する事はなく。

帯刀 立一

とりま 部屋暗いっしょ 照明何処よ

部屋の明かりを確保すべく、一歩踏み出す。



しばらくスイッチを手探っていると、足元に何か妙なものが触れた気がした。



床に張り巡らされている配線の一部だろうか。
足を引っ掛けて転んでは、たまったものではない。



立一は、邪魔なコードを避けようと少々乱暴にその配線らしきものを手繰り寄せる。




ヂュッ……!

帯刀 立一

ふぁ?

何かが鳴いた?
疑問に思い、手繰り寄せた ソレ を確認しようと手元に目を凝らしてみる。

痛いっチュ! 尻尾を引っ張るなんて なんて乱暴な奴だっチュ!

手の中で ソレ は、喚いていた。



配線の一部か何かだと思っていたものは、ソレ の尻尾にあたる部分だったらしい。



尻尾を労わる様に手先で毛繕うと、恨めしげに
こちらをひと睨みしてきた。



帯刀 立一

ネズミ?

鼠じゃ無いっチュ!!

ソレ は、鼠のような小動物であった。

しかも、流暢に言葉を話している。

帯刀 立一

ネズミが喋るとか まじないわ~
ちょい 写メっていい?

鼠じゃないって言ってるっチュ!
撮るなっチュ!

帯刀 立一

これ どっかに電池入ってんの?

チュチュチュッ
くすぐったいっチュ~!

電池か何かで動く玩具なのだろうと
鼠の背中や腹をひっくり返して探ってみるも
それらしきものは見つからなかった。



鼠弄りに飽きてきた頃、徐々に部屋の暗さにも目が慣れてくる。





帯刀 立一

んで ネズ公

鼠じゃな…もう いいっチュ
好きに呼ぶっチュ

帯刀 立一

この部屋 DOなっちゃってる訳

うっ それは…

その立一の問い掛けに
先程まで威勢良くピンと立っていた尻尾は
見る見る元気を失くし、口篭る鼠。

話せば長くなるっチュが…
仕方がないっチュ

チューの名前はC-HU(シーエイチユー) サポートロボっチュ



鼠…もとい、C-HU(シーエイチユー)と名乗る
その小動物の話によると
彼は他惑星から目的地に空間移動する際、何者かの妨害工作を受け、本来の転送先ポイントから軌道がずれてしまったのだそうだ。


その結果、偶然
立一の部屋と現在のこの部屋とがリンクしてしまった…らしい。


C-HU

元々この空間にあったものは
本来、チュー達が転送するはずだった ポイントに転送されているから
安心して欲し……

帯刀 立一

ふがっ……むにゃむにゃ

C-HU

って 寝てるっチュ!!

帯刀 立一

んあ 終わった?



話は、ほぼ聞いていなかったが
正直なところ立一にとっては、鼠の異星人だとか そんな話はどうでも良かった。


先程から睡魔に再三強襲されており 目下の急務、優先すべきは 睡眠をとる事 である。

帯刀 立一

とりま オールで眠ぃし
スヤって おけ?

C-HU

なんて人の話を聞かない奴っチュ…
地球人 恐ろしいっチュ




C-HUは、諦めたような深い溜息をつくと身を翻し
部屋の奥にあるモニター前に腰を落ち着かせて居た。


何やら機材を弄っている様子が見て取れたが
それを見届ける事は無く
立一は、適当に寝そべれそうな場所を確保すべく
辺りを見回す。


帯刀 立一


これなんか日サロのベッドぽくね


丁度、人が横たわれそうな台を発見した立一は、早速上に寝転んでみる。

帯刀 立一

ちょい これ背中痛ぇし 萎えるわー ガン萎えだわー

長さは良かったのだが、背中に突起物が当たり、正直寝心地は良ろしくない。


立一は、渋々台から飛び起きる。


と同時に

起動音と共に、乗っていた台から光が漏れ出す。


どうやら、飛び起きた際に変な所を弄ってしまったらしい。


それに気づいたC-HUの表情がみるみる強張る。


C-HU

何をしているっチュ!

e382b7e383a0e38386e383a0e8b5b7e58b95e38197e381bee38199…




機械的な音声ガイダンスは、聞いたことのない言語であった。

慌てた様子で、こちらに走り寄ってくるC-HUの姿が溢れ出した光にかき消される。

ガイダンスが終わるとエアーの吹き出す音が耳を掠めた。

視界を妨げる光が徐々に弱まり、立一は、薄目を開ける。



帯刀 立一

べぇわ
割かし ガチめに目がバルスったわー……


まだチカチカする目を擦りながら 逸早く周囲を確認しようと顔を上げた。



先程から、感じる膝の上の違和感。



何かが覆い被さっているような重みと温度。
それと、鼻先を擽る様な香り…。



その正体が気になったからだ。




台だと思っていたものは、中心部分からスライドし展開しており、中から薄い光とスモークが漏れ出ている。



そして、膝の上の違和感の正体だが
中から出てきたと思われる人物が、立一の膝の上に身を委ねて居たのだった。

……

帯刀 立一

……






全体的に色素が薄く、青みがかった髪。


華奢ではないが、細身な体のラインが分かるボディースーツを身に纏っている。


目元はゴーグルらしき物を装着している為、表情は読み取れない。



帯刀 立一

コスプレってやつ?




至近距離で、目が合った気がした。

いや 実際には、相手の表情は分からないのだが。


e38193e38193e381afe4bd95e587a6e381a0 ?

帯刀 立一

ファッ?! 意味不 おま何処産よ




そんなやり取りをしていると、頭を抱えた様子で
C-HUがひょこっと顔を出した。

C-HU

何て事をしてくれたっチュ

帯刀 立一

は? てか ネズ公のツレ?


立一は、自分の膝の上から動こうとしない人物を指さして尋ねる。

C-HU

チューの相棒だっチュ!
目的地点に転送が済むまで コールドスリープを維持する予定だったっチュ

C-HU

それなのに それなのに……

C-HU

何で起こしたっチュ!!



C-HUは、悲憤慷慨と言わんばかりに尻尾を震わせた。

帯刀 立一

不可抗力ってやつっしょ
ネズ公 おこぷんな感じ?

e4bd95e3818be38388e383a9e38396e383abe381a7e38282e38182e381a3e3819fe381aee3818b ??



悪びれる様子もない立一を、呆れた顏で一瞥し
C-HUは、謎言語を操る相棒の肩にぴょんと飛び移る。



二人が何を喋っているかは全くの謎だが、
話し合いが行われているらしく
時折C-HUが興奮した様に尻尾を震わせたり、萎ませたりするものの
C-HUの相棒は終始、落ち着いた様子で相槌を打っている。



話がひと段落したのか
C-HUが、肩からぴょんと飛び降りると気落ちした面持ちで立一に視線を向けた。




C-HU

こうなったら仕方がないっチュ
地球人 責任を取ってもらうっチュよ

声色をワントーン下げ、立一ににじり寄る獣が一匹。

C-HU

まったくもって 物凄く
大っっっ変 不本意ではあるっチュが……

帯刀 立一

さりげ ディスられてる?

C-HUは、独り言のように話を続ける。

C-HU

本当は すぐにでも転送完了する予定だったんだっチュ

C-HU

ところが 地球人

帯刀 立一

あ? 俺?

C-HU

そうっチュ
相棒のスリープモードを解除してしまったせいで転送に必要なエネルギーが足りなくなったんだっチュ!

C-HU

おまけに 相棒のデバイスが機能してないっチュ

C-HU

チューと地球人がこうして会話出来ているのは 異星人の言語をツールが
自動翻訳しているからなんだっチュ

C-HU

したがって
ツールが機能していない相棒の言葉は
地球人には理解出来ていないはずっチュ

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確かに、何を言っているのかさっぱりだ。

帯刀 立一

たかしー で?

C-HU

転送は 暫く無理っチュ
この辺境の惑星で 必要なエネルギーを蓄えるには……時間を要するっチュ

帯刀 立一

へー りょ どの位?

C-HU

少なくとも
この惑星での時間に置き換えると-----
1年はかかるっチュ

帯刀 立一

ハァ ?!

立一は、耳を疑った。
思わず、裏返った間抜け声が虚しく部屋に反響する。

帯刀 立一

あー……ちょいまち
ちゃけば 俺の部屋は?

C-HU

暫く このままっチュ

C-HUの無慈悲な言葉に一瞬の静寂が訪れた。

C-HU

だが 安心するっチュ
相棒は ああ見えて優秀っチュ
デバイスが使えなくても 対応出来るだけのスキルを持ち合わせているっチュ

帯刀 立一

いやいやいや そういうんじゃなくて

反論しかけた立一の膝の上で、一人と一匹のやりとりをじっと傍観していた人物が口を開く。

君……

帯刀 立一

うお 喋った !!?

すまない

どうやら、C-HUの話もあながち間違ってはいないようで

つい先程まで、謎言語を喋っていたC-HUの相棒は
辿たどしくではあるが、立一の理解できる言語で語りかけてきていた。

その人物は、距離を詰めるように、身を乗り出すと徐ろに、自分の蟀谷辺りを触れ…

小気味の良い電子音と共に
装備していたゴーグルが解除され、素顔が現れる。

NOL

俺は NOL-1000CX
……ノルでいい

ノルと名乗ったその人物は、独特な雰囲気を持っていた。



男性とも女性ともとれる中性的な顔立ち。



言語は、まだ使い慣れていないせいか覚束ず
喋ると少し幼く感じる。



なかでも、不思議な色をした瞳は
瞬きをする度くるくると光を反射し、思わず魅入ってしまう程だ。

NOL

君のことは
何と呼んだら……良い?

立一が、ポカンとしていると
ノルが顔を覗き込む。

帯刀 立一

ハッ

NOL

教えて 欲しい

立一は、見とれていた事に
気恥ずかしさを感じつつも、気を取り直しニカッと笑う。

帯刀 立一

ノルちん よろ
俺 リュウイチね


返事が貰えた事が嬉しかったのか
ノルは、顔を綻ばせる。

NOL

ん……よろしく

和やかな空気が流れる中、突如 視界を何かが遮った。

帯刀 立一

ぶほっ !?

C-HU

コラッ 地球人!
いつまで見つめ合ってる気だっチュ

NOL

チュー 彼はリューイチだ

二人の間に割って入るように、顔面に貼り付く物体。


それを、立一から引き剥がしながらノルが穏やかに諭す。


C-HUは、頬を膨らませるとノルの腕の中に大人しく収まった。

C-HU

チュウ……
ノルが言うなら 仕方ないっチュね

帯刀 立一

ネズ公
俺には随分塩対応じゃね?

C-HU

当たり前だっチュ

フフンと鼻を鳴らす態度が腹立たしいが
今の立一には、それより気になっている事がある。

帯刀 立一

んで そろそろ?
アピってこっかなと思ってたんだけどー

NOL

立一は、二人に向かって言明した。

帯刀 立一

この夢 いつ覚めんの?

C-HUに呆れたような視線を送られたのは言うまでもない。
































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