今日が研修最後の日だね。三日間の集大成を見せるためにも、今からはカウンターに一人で立ってみようか♪

近くのハンバーガーショップに面接へ行き、働き始めてはや三日。一通りの説明を受けたかぐや姫は、いよいよ巣立ちの時を目前としていた。

はい、精一杯頑張ります!

やる気全開でかぐや姫は答えた。

研修最後の日。それは同時に彼女のアルバイト最後の日でもあり、月からのお迎えが来る前日でもあった。

よーっし。一人でも頑張るのじゃ

小さな声で意気込みを確認し、かぐや姫はレジに並んだ。
このお店のカウンターに設置されたレジの台数は三つ。その内の二つにはベテランさんが入っている。

そのベテラン店員の前にお客さんは一人ずつ並んでいた。

次にお客が来るとしたらわらわの所じゃのう

ワクワクしつつも緊張した表情で待っていたかぐや姫の元に、一人のお客さんがやって来る。

ゆっくん

すいません。注文いいですか?

どうやら学生さんのようだ。知っている人は知っているだろうが、『赤と銀のリード』より、ゆっくんである。

はい。お決まりでしたらどうぞなのじゃ

しゃべり方についつい月の民の名残がでてしまったが、少年はさして気にしていないようだった。……なんとも優しい心を持った、器の大きい男の子である。

ゆっくん

う~ん。チーズバーガーはピクルスが入っているのかあ……なら別のものにしよう……

どうやらピクルスが苦手なような少年の言葉に、かぐや姫の瞳の奥がキラリと光った。腕の見せ所である。

実はこのハンバーガーショップ、苦手な物がある人にも楽しんでもらえるように、〇〇抜きというサービスを行っているのだ。例えばピクルスやトマト抜きといったように。……その場合も値段は変わらないのだが

だからかぐや姫は笑顔で言った。

当店のハンバーガーは、全品ピクルス抜きもございますがいかがでしょうか?

店員として完全な対応だ。かぐや姫本人だけでなく、実はそっと陰から見守っていた彼女の教育係の先輩もその姿を見て安心し、自分の仕事へと戻って行った。

ゆっくん

そうなんですか!? 良かった。だったらチーズバーガーのピクルス抜きを一つ!

少年の言葉に、だからかぐや姫は再び笑って大きな声で言った。

こちら、チーズ抜きもございますが、いかがでしょうか?

一瞬時が止まったのを、少年だけは感じ取った。

ゆっくん

……いや、知ってるよ!? チーズバーガーのチーズ抜きがあることぐらい、僕だって知ってるよ? だけど、それってもうただのハンバーガーだよね? それが欲しいなら、最初から『ハンバーガー一つ』って言ってるよ!?

もっともな意見である。しかしかぐや姫は何食わぬ顔で続けた。

分かりました。ではご注文は、チーズバーガーのピクルス抜きチーズ抜かずお一つですね?

ゆっくん

チーズ抜かずって言葉を今初めて聞いたけれど、まあいいか。その通りです

ご一緒にポテトはいかがですか?

これはどこのハンバーガーショップでも定番の接客文句である。そしてそれはここでも例外ではなかった。

ゆっくん

あ、はい。じゃあもういっそのことオレンジジュースも付けて、ポテトセットにします

お買い上げ、ありがとうございました~

最後は少年の顔から笑顔が消えたが、無事騒動もなく一人目のお客の対応を終える。

ふう~。緊張したけど、わらわ、やれば出来る子じゃの!

そんな風にほっと一息ついたかぐや姫のところへ、今度は女性のお客さんがやって来た。

白石

ねえ君、頼んでもいいかな?

この少女も知っている人は知っているであろう、『ミヤコワスレ』の白石未筝(しらいし みこと)である。

おお、どんと来いなのじゃ!

白石

どんと来い……なのじゃ……? 変わった喋り方だなあ

またまた油断した月の民ではあったが、やはり大した問題にはならなかった。

白石

まあいいや。店員さん。フライドポテトを一つ頼むよ。一番大きいやつね。それと、ぶどうジュースも一番大きい奴を一つ

ポテトのソースは、ケチャップとバーベキュー、マスタードのどれにしますか?

白石

お、ここはマスタードがあるんだ! お姉さんは辛いものが好きだからね。マスタードソースでお願い

かしこまりました。では、ご注文はポテトのLサイズマスタードソースと、ぶどうジュースLサイズのお二つですね

今度こそ完璧な対応だった。

……大丈夫そうね

先ほどのお客さんの大きな声に心配して、再び陰から見守っていた彼女も、静かに頷いて奥へと帰って行く。

白石

うん。それで合ってるよ

そして。
全ての注文を取り終わった彼女は言った。

ご一緒にポテトはいかがですか?

その決まり文句を。キャッチコピーを。
言ってしまった。

再びその場の空気が凍り付くが、やはり気付いたのは少女だけだった。

白石

……え? いや、は? お姉さんは今ポテトのLサイズを頼んだんだよね? 店の中で一番大きいやつ。なのに一緒にポテトって、そんなに私ポテトに飢えているように見える?

あ、いえ、申し訳ありませんでした……

流石にかぐや姫もそのお客さんの剣幕に自らの失敗に気付き、謝罪の言葉を述べ会計を終える。

では、二点で480円になります

500円玉を受け取った彼女は、20円とともに、番号札を少女に手渡す。

すいませんでした。お席に出来立てのポテトをお持ちしますので、少々お待ち下さい

白石

まあ、もう大丈夫だよ。ありがとう。楽しみに待ってるね

最後にそう言って、自称お姉さんは席を探しに行った。

白石

自称じゃないっ!!

そんな言葉を残して。

・・・数分後。

大変お待たせ致しました

かぐや姫は、商品をもって先ほどのお客様の元へ向かう。

白石

ああ、ありが……って、え?

そして、トレーに乗せられた商品を見て、彼女は絶句した。

完全に空気を読み間違えた笑顔のまま、かぐや姫は言う。

先ほどの失礼のお詫びに、当店裏メニューのKINGサイズポテトをサービスします! その量なんとLサイズの三倍!!

白石

……

少女の目の前には、今にもトレーから溢れそうな……というかよく見ればかぐや姫の通った道を示すように点々とポテトが落ちている……大量のポテト。

白石

……しは

だから、彼女は発狂したのか。

白石

私はポテト依存症かあああっ!!

叫んで、彼女は備え付けのソースも付けずに、一心不乱にポテトを食べ始めた。

ヒナ

ふふふ

そんな姿を離れたところから見ていると、すぐ傍で小さな笑い声が聞こえた。

見ると、そこでは可愛らしい少女が無邪気に笑っていた。こちらも『赤と銀のリード』より、ヒナである。

ヒナ

あなた、面白いね。私は好きよ。あなたの接客

少女はそう言って、笑って続けた。

ヒナ

私も貰おうかな、チーズバーガーのチーズ抜きと、ポテトのKINGサイズ。そのためには、ここの常連さんにならなくちゃね

あ、ありがとうございます!!

そんな風に、かぐや姫の最後のアルバイトの時間は過ぎて行った。

* * * * *

こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。

次回から、月関連の話しに入る予定のため、今回かぐや姫には月に帰ることを忘れて、存分に楽しんでほしいと思いました。

作中のかぐや姫は、楽しんでいたでしょうか? 楽しんでいたようなら、今回としてはそれだけで満足です。

さてさて、今回は私の他の作品から登場人物を引っ張り出してきたりもしたのですが、これも全て、この話を盛り上げるためのものです。本編に絡むことはないと思います。

それでは、かぐや姫だけでなく読者様も楽しんでもらえたことを密かに願いつつ、この辺りで失礼します。

ちなみに、現在お試し公開中の『復讐のサンサーラ』については、まだキャラクターも背景も何も決まっていない状態です。

もしお話に興味を持ってくれた方などの中に、「リクエスト受けてもいいよ」、「自分のイラスト使ってほしい」と思う方がいらっしゃれば、遠慮なくコメント下さい。

心よりお待ちしております(*- -)(*_ _)ペコリ

04.最後のアルバイトは月並み全力でっ!!

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