霊深度

-5の、

  ゆうあい

CridAgeT

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熨斗目。

 ノシメ! 

大声で呼びかけられ、ようやくノシメは目を覚ました。

ぁ……あ、カリヤス?

ほい

慌てて靴を履き、立ち上がったところに何かを投げられる。
反射的に受け取ると、自販機のアセロラ100%だった。

……ありがと

疲れてるな。まあ、無理もないか

大丈夫だから

仮眠室のベッドは固い。ノシメはマットレスに座りなおすと、キャップを難なく開けた。
疲れた体に酸味は染みるように効く。

いま、あれのこと思い出したろ

分かる?

ニヤリと笑いあって、同時に言う。

カガミの
クエン酸ジュース

二人そろって、噴き出した。

あれ最初に現場で飲まされたときは殺す気かと思ったな!
言ったっけ、あのとき原液だったんだぜ?! 俺、しばらくカガミに近づかなかった

あたしの時はね、コーヒーに入れられた。何でもいいから甘いものちょうだい、って言ったらあれよ?
『酸味なしのと間違えた』ってさ、平然としてるんだもん!

でも、凄くきっついとき、たまにあれが美味く感じるときあるんだよなー

あれは不思議だよね

二人以外誰もいない部屋には、大声で笑っても咎める人も幽霊もいない。

……はぁ

じきに、ノシメはため息をついた。

カガミ、怒ってた?

かなり、な

そうだよね。あたしとんでもないことしちゃったなぁ

少なくともカガミ的にはな……


そういやお前、なんでカガミにはけっこうきつい言葉遣いなんだ? 
『僕の言うとおりに調査しろ』だの、
『調査員を連れて現場に即刻来い』だの言うよな?

……シドの前では、あんまり仲良くしてるって思われたくないの。分かるでしょ?

だからって、『僕』はないだろ……

『わたし』『わたくし』なんて反吐が出そう

あー……そういう理屈か

で……カガミに伝わったってことは、シドから接触があったの?

あぁ……

カリヤスは言いよどんで目をさまよわせた。

なによ?

いや、なんでもない

(お前の真似をしてカガミを呼び出そうとしてた、なんて言えねぇよなぁ…………)

ああそうだ、お前も担当なんだよな? ****番地で最近起きた事件

うん。最近話題の通り魔

やっぱりそうか。
そこそこ最近始まったばかりなのに、もう結構な件数だし、犯人の特徴もろくに分かってない。振り回されっぱなしだよな……

やっぱり幽霊がらみで間違いなさそうなんだよね……しかも、厄介な奴

厄介?

悪い意味で強くて弱い

あぁー    

そう。
強い幽霊は人間や物に簡単に触れられるけど、幽霊としての力は強くない。

弱い幽霊は幽霊としての力は強いけど、現実のものに力を及ぼすのは大変。


で、

この件に関わってるのは、人間に刃物を突き立てられるくせに相当強い悪霊ってことか

そう!
隠蔽も上手いから、うちで契約してる調査員の幽霊でもほとんど現場からそいつの情報を得られないの!

シドが焦るわけだ

あいつの話はしばらく勘弁

ノシメは大きくあくびをして、背筋を伸ばした。

さてと、そろそろ仕事に戻るから

そうか。無理すんなよ

あたしのできる範囲で、資料とか後で送るよ。
……

……あのさ、カガミにさ、さりげなく謝ってもらえる? ……その、さ

任せろ

ノシメが言い終える前に、カリヤスは笑顔で遮った。

あ、  じゃあ、任せた!

ノシメとカリヤスは、親指を立てた。

それじゃ、また今度

ぱっと背を向けて、ノシメは飛び出していく。

あの連続殺人事件に、幽霊ねえ……嫌な予感がするな

シドの奴、二人のこと捨て駒くらいにしか思ってないから……カガミに、カゲツ、ほんとにごめん

ノシメはそれほど独り言をつぶやく方ではないが、伝えきれなかった言葉が自然と口をついて出ることはある。

せっかくカゲツとちょっと仲良くなれたところだったのに。カガミ、怒ってるだろうから、しばらく連絡とらない方が良いよね……

机の書類の山を適当にかき回した時、ノシメはわずかに厚みの違う書類の束があることに気づいた。

あれ……封筒が挟んである

差出人の名はなく、表には、なぜかアルファベットで宛名がつづられていた。

『To Noshime.B』

カガミ……

なんで英語……?

周りに誰もいないことを確認して、ノシメは封を切った。
急いで目を通し始める。本文は英語ではなくて、少しほっとした。

カガミの書いたものだけあって、棘のある文章が並んでいた。

万が一ほかの人に見られた時のことを考えて、というのもあるんだろうけど、今は本当に怒ってるんだろうな……

内容は、特に重要なものではなかった。きつい表現ばかりが胸に刺さる。

『ほとんど仕事の話ばかりしているあなたと私に、そもそも失われる関係などない』

このあたりなんてひっどいなあ……ん? あれ、なんかこれ……

ノシメは文章を何度か読み返した。

ん……この部分だけなんか表現が引っかかるような……気のせいかな

ノシメは手紙と封筒を丁寧に隠すと、書類に目を走らせはじめた。

これの不審点をさらい終わったら、ネット投書のチェックか……

匿名で投稿できるサイトで一般市民から寄せられた情報なんて、役に立つとは思えないけど

この前なんて、明らかに英語を単純な翻訳サイトで訳しただけの文章コピペした10000字くらいの翻訳して、やっと終わったと思ったら海外のよくある都市伝説の派生話だったもんね……

ん? そういえばカガミがあたしのこと『あなた』呼ばわりすることなんて、手紙でも一度もなかったよね???
君、とか、お前、とか……


あなたと私の、失われることのない、関係。




直訳したみたいな。


え? えっと
『You & I』……?

……





   ゆうあい

そういえばこの前のかり……かりすす……かりさすさんって

カリヤス……まあ訂正するほどでもないか

ノシメちゃんの友達なんですね!

聞いたのか?

かりさすさん言ってました! 最近あんまり会ってないから、ノシメちゃんのこと聞きました

そうか。ノシメとずいぶん仲良いな

ノシメちゃんとは、友愛の契りを結んでますから!

ん?

No.90765 *月**日**:**
(無名投稿)

『ドッペルゲンガーの増殖』という、気になるサイトを見つけました

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