【レイズとビアンの家】

ビアン=ヒュパティア

フッフーンフーン♪

 ビアンは夕飯の準備をしていた。そろそろ授業を終えて恋人のレイズが帰ってくる頃合いだからだ。ビアンは自分が創った詩を鼻歌で奏でながらレイズの帰りを待っていた。


 今日はレイズの好きなシチューにしたから、レイズ喜んでくれるかな?


そんなことを思っていたとき、玄関のドアが開いた音がした。

ビアン=ヒュパティア

おっ帰ってきたな


 レイズが帰ってきたと思い、ビアンは煮込んだスープの火を消してから笑顔で玄関へ出迎えた。

ビアン=ヒュパティア

おかえりレイズ!


 しかし、そこにいたのはレイズではなかった。

???

待ち人じゃなくて残念だったな。

ビアン=ヒュパティア

えっ…


 そこには白い鎧に身を纏う男が立っていた。男の眼はまるで獣そのもので、ビアンはこの男のただならぬ雰囲気に恐怖を抱いた。

ビアン=ヒュパティア

ど、どちらさま?

???

別に余が誰であろうが、貴様には関係ない話だ。

 男は我が物顔で部屋の中に入ると、勝手に物を漁り出した。

ビアン=ヒュパティア

ちょっ!?

???

安っぽい食器だ。平民風情には身の丈にあってるとは思うが、しかし醜悪だ。

ビアン=ヒュパティア

さっきから何なのあなた!出てって!

ビアン=ヒュパティア

ひっ!?

鎧の男は手にしていた食器を床に落として割った。その音にビクッとするビアン。

???

そーいえば

男はわざとらしく何かを思い出したかのように話始めた。

???

この島の教師はさぞ美しい女だとか、されどそんな美貌を持ちながら男の一人もいないそうだ。それに周りには男の陰が一つもない。

ビアン=ヒュパティア

・・・・・・・

 この男…レイズのことを知っている。

???

この島の男が玉なしなのか、あるいは女は男に興味ないのか、お前はどう思う?

ビアン=ヒュパティア

・・・・・・・


 ビアンは台所にあった包丁を男に見えないように掴んで背中に隠す。

???

男を知らぬおぼこであれば、俺の女にしてやろうか。たまには田舎の女も悪くはない。よき慰みものになるであろう。

ビアン=ヒュパティア

レイズに手はださせない!


ビアンは包丁を握りしめ男に斬りかかった。

???

ふん!

ビアン=ヒュパティア

きゃあ!


 鎧の男は避けるまでもなく軽く女を平手打ちし、ビアンは床に倒れた。

ビアン=ヒュパティア

ぐっ!

???

何故そんなに必死になる? 他人なのだろう? それともその女に何か特別な感情があるのか?


 ビアンは鎧の男を睨みつける。この男、私達の関係を知っている。それを察して鎧の男は語り始める。

???

初めからお前らが異端者であることなどお見通しだ。昨晩お前らのお友達から色々聞かせて貰ったからな。

ビアン=ヒュパティア

えっ…なんですって…

 まさかゲインとバイヤーが私達のことを話したの?


 鎧の男は昨晩のことを思い返しながら笑っていた。

???

中々滑稽だったぞ。あの汚物共ちょっと痛みを与えてやったら色々話してくれたよ。

???

痛みは人を素直にさせる。痛みこそが人間の真理だ。だからあの異端者どもはお前らを裏切った。


 ビアンも広場で晒されていたゲインとバイヤーのことは知っている。酷い拷問の痕があった。ビアンは男に怒りの目で叫んだ。

ビアン=ヒュパティア

なんでこんな酷いことをする…私達が貴方達に何をしたっていうんだ!


 ビアンの叫びに男はこう答えた。

???

それがローマ帝国の法だ。俺の定めた法だ。それに従わぬ愚民は殺すまで。

ビアン=ヒュパティア

あなたの定めた…法?


 ビアンは歯を食いしばる。

ビアン=ヒュパティア

おかしい・・・

???

ん?

ビアン=ヒュパティア

そんなの絶対おかしい! 

ビアン=ヒュパティア

同性同士が結ばれることがそんなにいけないことなの!女が女を好きになることがそんなにおかしいことなの!!!

???

女が女を好きだと……実に気持ち悪い。


 床に唾を吐く鎧の男、そして忌々しそうにビアンを見下ろす。

???

俺に問うたな女。俺からもお前ら異端に聞いてみたいことがあった。お前は女の癖に女が好きだという、ならお前は男なのか? お前は一体どちらなのだ?

ビアン=ヒュパティア

私は…一人の人間よ…


 思わぬ答えが返ってきたので鎧の男は笑いだした。

???

くっくっく、なんだそれは? 質問の答えになってないぞ。俺はお前は男か女かと聞いておるのだ。

ビアン=ヒュパティア

その二つしか考えられない貴方にはわからないでしょうね。人を愛することに男も女も関係ない。愛は肉体でも性別でも推し量れないものなの。大事なのは人の・・・人間の心だ!!!

???

ほ~う、心ねぇ


 鎧の男はビアンの髪を鷲掴みにして顔を近づける。

ビアン=ヒュパティア

ぐっ!?

???

つまりあれだな。心の前には性をも超越したモノだと…そう言いたいわけだな? フフフ、実にくだらぬ。


 笑いがこみ上げてくる。しかしそんな男をビアンは憐れに思った。

ビアン=ヒュパティア

可哀想な人…

???

なんだと?

ビアン=ヒュパティア

愛のほんとの意味を知らない貴方は今まで愛されなく育ってきたんだね、そんなあなたが可哀想に見える…

???

ほほーう…


 ビアンの憐れみを向けた眼に鎧の男はピキッと頭にきた。男は懐から貝殻を取り出す。

???

これを見ろ。

 鎧の男はビアンの目の前に貝殻を見せつけた。しかしそれはただの貝殻ではない。貝の口に鋭利なカミソリがついていた。

???

これはな。異国の地に赴いたときに先住民が使っている皮剥ぎのための道具だ。先住民はこれでアザラシなる動物の皮を剥いで肉を食すらしい。

 ビアンはこの男がこれから自分に何をしようとしているのかを察して震える。

???

なら余が見極めてやろう。貴様の中身は男なのか女なのかこの目で見させてもらうぞ

ビアン=ヒュパティア

やめっ!

ビアン=ヒュパティア

きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

ビアン=ヒュパティア

きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

???

くっくっく・・・

???

ハッハッハッハッハッハッハッ!!!

アーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!

 拷問器具の貝殻でビアンの肉を削ぎ落とす。
阿鼻叫喚の悲鳴をあげるビアンに容赦なく肉を削いでいく鎧の男。血が辺りを染め、男の白い鎧はビアンの返り血で赤く染まる。それはビアンが死ぬまで行われた。
 

しばらくし、ビアンが動かなくなると男は手を止めて確認する。

???

ふん、なんだもう死んだのか?存分壊れるのが早い玩具だったな。

 鎧の男は絶命した女の股を開き中身を見る。

???

・・・・・・・・・・

???

なんだ……やはり女ではないか。

 鎧の男は満足して家から去っていった。












 

そして、その数分後ルシファーとレイズが遅れて到着する。
 ルシファー達が家の前までくると、そこは異様な空気が漂っていた。

魔剣ダーインスレイブ

オイ、ルシファー

ルシファー=サタン

ああ、血の匂いだ…

 ルシファーは嫌な予感がして、急いで中に入ろうとするレイズを止めた。

ルシファー=サタン

待てレイズ! 中に入るな!

レイズ=サッポー

でもビアンが!

ルシファー=サタン

俺が先に入る。敵が潜んでるかもしれないからな。

 ルシファーはレイズを家の外に待機させて先に中に入った。そこはむせかえるような匂いが立ちこめていた。


 中はもっと血の匂いが酷いな。


 家の中は荒らされていた。食器が床に粉々にされ割られていた。そして、奥のほうにそれはあった。

ルシファー=サタン

まさか…

 全身の皮を剥がされた死体が部屋の中に転がっていた。死体の背丈や状況から考えてもこの死体が誰であるかルシファーは一目でわかってしまった。


 

ルシファー=サタン

これが…この死体があのビアンなのか、なんて惨いことを…



 

 ルシファーは怒りに震えた。あまりにも残忍な殺され方をしたビアン、それをやった相手に心底怒りを感じていた。

レイズ=サッポー

ビ…アン?

ルシファー=サタン

!?

 ルシファーは背後に気づいて後ろを振り向く。


そこには放心して立ち尽くしているレイズがいた。レイズは心配になりルシファーの言うことを聞かず部屋の中に入ってしまったのだ。

ルシファー=サタン

見るな!

レイズ=サッポー

きゃあああああああ! ビアン!? ビアン!!

 レイズは取り乱した。ビアンの身体はズタズタに抉られていて見るも惨い殺され方だった。

レイズ=サッポー

ビアン! どうして!? なんでビアンが!? あっあああああああ!!!

 ルシファーは暴れるレイズを無理矢理抑え込んで家から急いで出る。


そして、レイズはルシファーに担ぎ上げられたまま泣き叫ぶ。ビアンが置いてある自分達の家を見ながら絶叫をあげ続けていた。

【レイボス島 岬の灯台】

ルシファー=サタン

どうだ?

イシス

うん、ようやく落ち着いたみたい。今はゆっくり寝てる。

 ルシファーとイシスとレイズは岬にある灯台の中にいた。ビアンの死に発狂していたレイズを止めてなんとかこの灯台の場所まで来ていた。

ルシファー=サタン

取り敢えず、ここで隠れていればしばらくは見つからないだろう。

合流したイシスにルシファーから話は聞いていた。イシスは俯きながら泣いた。

イシス

バイヤーとゲインに続けてビアンさんも…こんなの酷すぎる…

会ったのは最近だが、彼らはとてもいい人達だった。それを立て続けに失うなんてイシスにも相当堪えていたようだった。
 

ルシファーはダーインスレイブを携えて灯台から出ていこうとする。そして、泣いているイシスに告げた。

ルシファー=サタン

お前は彼女から目を離さないようにしろ。彼女を一人にしておくのは危ない。お前がそばに居てやれ。


 ルシファーは黒い片翼を出すと、そこから一枚の羽を千切る。それはみるみるうちに姿を変えて一羽のカラスになった。

ルシファー=サタン

なにかあればこのカラスに言伝を言って飛ばせ。俺のところまで飛んで行って知らせてくれる。


 ルシファーは塞いでいるイシスにカラスを置いておくとドアを開いた。すると背後からイシスが弱々しく聞いてきた。

イシス

あんたはどこに行くのよ?

ルシファー=サタン

俺は行くところがある。

 そう言ってルシファーは出ていった。イシスは止めなかった。ルシファーがどこに行って、何をするのかを知っていたから、それに・・・







今のルシファーは凄く怖い顔をしていたから。

愛のカタチ 第六節 獣の男

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