【町の中央広場】





ゲインとバイヤー
二人は全裸で逆さに磔にされており、死体の陰茎には無数の釘が刺されていた。そして体中の至るところに拷問を受けたような生々しい傷痕がいくつもあった。酷く惨い殺され方だった。

　ローマ帝国では同性愛は禁忌とされ、同性愛者は異端とされ迫害の対象にあった。そして禁忌を破った者は粛正される運命にあった。
　帝国軍の兵士が広場に集まっていた住民達に告げた。

　住民達はざわめいた。この平和な島で異端者が出るなんて思わなかったからだ。

　ローマ帝国軍が異端討伐を始めようとしていた。不安がる住民の中にルシファーがいた。

　ルシファーの第六感である人の負の感情を察する予知能力に似た力は、この軍による異端討伐を示していた。

　ルシファーはダーインスレイブを携えて帝国軍が駐留しているという鉱山に向かった。

【レスボス島　鉱山跡地】

　ルシファーは鉱山に来ていた。大分使われてなかったのだろう。寂れた鉱山だった。


　鉱山の入口付近にはローマ帝国軍の野営地が設置されていた。だが・・・

ベルゼブブの言う通り、ここに陣を構えるのは不自然だ。何故軍はこんなとこを駐留している？　ここ以外に他にいくらでも布陣する場所なんてあるはずだ。ここじゃなきゃいけない理由が帝国にあるのか。

ルシファーの中で火花を散らす二人。
本当に仲が悪い。しかしベルフェゴールの意見も的を得ていた。

こんなとこでも喧嘩を始めようとする二人にルシファーは怒鳴った。

こいつらの仲の悪さはどうにかならんものか、先が思いやられる。

気になる点もあるが、ひとまずルシファーは帝国の拠点に近づき様子を見る。

　ダーインスレイブが血を欲しているようだが、それを無視して一気に二人の見張りに接近した。

手慣れたように二人の見張りの後ろ首に手刀を当てて一撃で気絶させる。それを見ていたダーインスレイブは不満そうにしていた。
　

無益な殺生は極力避けるルシファーにダーインスレイブなりの皮肉だ。それを気にすることもなくルシファーは鉱山の奥に進んだ。

　

かつて愛した一人の人間と遠い昔に交わした約束をルシファーは思い返していた。

ルシファーは先を急いだ。

【レスボス島　鉱山内】

　
　鉱山の中はすでに鉱石を取りつくしていたのだろう。発掘のための機材は錆び付いていてもう何十年も使われていない様子だった。

　辺りを調べていくうちに、ルシファーはある形跡を発見する。どうやら線路の跡のようだ。土を見る限りつい最近できたような跡で比較的真新しい。おそらくトロッコでも使って奥から何かを運び出したようだった。

　いつの間にかルシファー横にイシスがいた。

迂闊だった。まさかイシスに尾行されていたことに気づかなかったとは。

　イシスの目には怒りが溢れていた。当然である。この島でできた友達があんな無惨な殺され方をしたんだ。その気持ちはわかる。

どうせ何を言っても、この女は聞く耳もたないだろう。ルシファーは溜息をついて諦める・

イシスは自慢のチェーンナイフを見せながら言った。どうやらやる気満々のようだ。

帝国全員を相手にでもするつもりだったのか、イシスはあまり納得はしてなかった。全員を相手にしてたらキリがない。あくまで撤退させるのが目的だ。


この島にはレイズやビアンもいる。帝国が次の異端討伐の対象に彼女らを狙うのはわかっている。彼女らの安全のために軍をこのレスボス島から引き上げさせるのがベストな選択だ。

　イシスは疑問に感じていた。それはルシファーも同じだった。

　軍の野営地にしては兵士が少なすぎた。先程気絶させた二名以外いないような気がした。

　そう、本隊はもぬけの殻だった。

　突如ルシファーの頭の中にフラッシュバックのような稲妻が走った。それは無惨に殺されていくレイズとビアンが映った。
　

　イシスが心配そうに聞いてくる。だがルシファーには聞こえていない。


　ルシファーの第六感が告げていた。これからまた悲劇が起こることを予知した。ルシファーは急いで踵を返して鉱山の入口のほうに走った。

　ルシファーとイシスはレイズ達の元に戻る。