【レスボス島 岬の灯台】
酒場から解散した後、ルシファーは一人夜の岬に来ていた。
今晩の寝床にするにはこの灯台は絶好の場所だった。
なにより金がかからずにすむ。
ここで一人で考え事したいのもあるが、流石に女性二人の家に男である自分が泊まるわけにもいかない。だからといってゲインやバイヤーのところは、何やら身の危険を感じる。俺の第六感がそう告げている。
それにオマケでいるあの女は以前寝てるときにナイフで刺してこようしてきたことがあるしな。
一人のほうが俄然落ち着く。
【レスボス島 岬の灯台】
酒場から解散した後、ルシファーは一人夜の岬に来ていた。
今晩の寝床にするにはこの灯台は絶好の場所だった。
なにより金がかからずにすむ。
ここで一人で考え事したいのもあるが、流石に女性二人の家に男である自分が泊まるわけにもいかない。だからといってゲインやバイヤーのところは、何やら身の危険を感じる。俺の第六感がそう告げている。
それにオマケでいるあの女は以前寝てるときにナイフで刺してこようしてきたことがあるしな。
一人のほうが俄然落ち着く。
帝国軍か…
ルシファーは先程バイヤー達から聞いた話を思い返していた。
ドウシタ、ルシファー。タカガ人間ゴトキノ軍ガソンナニ気ニナルノカヨ。
ダーインスレイブが話しかけてきた。ルシファーは頷く。
今回この島に来たのは人の負の感情を感じたからだ。しかし、今回は天使とは別の・・・何か違うな、異質な物を感じる。
このレスボス島に来てからというもの違和感が抜けない。妙に落ち着かない感覚だった。
天使ジャナケレバ妖術士ヤ魔女トカノ、混血ノ類カ?
わからんが、それとも違う気がする。
どうしても気になっていた。胸にざわめくこの予感はなんなのかと・・・
ベルフェゴール! いい加減にしないと私も怒りますよ!
そんなにカッカすんなよ。うるせえルームメイトだな。
はぁ、やれやれまたか・・・
ベルフェゴールが加わってから毎日こんな感じだ。
几帳面で潔癖な性格のベルゼブブ。
一方、ガサツで下品な性格のベルフェゴール。
相対的な性格なため二人の相性は最悪だった。
大体、貴様はルシファー様の身体の中で好き放題、我が物顔で勝手にしすぎている!この前も我が主の心臓の右心室を散らかして!何故貴様が出したゴミを私が片付けているのだ!
聞き捨てならない言葉だ。ちょっと待て、お前ら俺の身体の中で何してるの?
俺片付けられない男なんだわ。わりいな家政婦さん。
それにこの前なんか!彷徨っている若い女性の霊魂を勝手に主の身体に連れ込み、主の下半身の・・・あ、あの部分で、み、淫らな行為をやっていたのも知っているんだぞ!
そいつはわりいな!お隣さんに声がダダ漏れしちまってよ。俺らのアンアンギシギシがそんなにうるさかったか?
下品な奴、恥を知れ恥を!
いいじゃねえかよ! なぁルシファー、お前からもこの頑固者に言ってくれよ。
言いにくそうにするベルゼブブ。それを悪びれもなく平然とするベルフェゴール。俺の身体はお前らの家か
貴様また我が主を呼び捨てにしたな!
俺とルシファーは主従関係の契約は結ばないってのが仲間になった条件だったはずだぜ。ダチ公なんだから呼び捨てでいいじゃねぇかよ。
そもそも貴様は忠義に欠ける。何故貴様のような品性や誇りもない者を我が主が選んだのか・・・
お前等…
どうせ俺らがやってたときに聞き耳立ててハァハァしてたんだろ?盗み聞きまでしてよ。とんだムッツリのドスケべだぜ。
なんだと貴様!
やるかこの便所蝿!
俺の中で喧嘩するな! やかましい!
!?
!?
馴れ合えとまでは言わんが、少しは仲良くしろ。こう毎日俺の中で喧嘩されても迷惑だ。
も、もうしわけありません我が主よ・・・
チッ
ギャハッハ! オ前、大家ミタイニナッテンナ! マジウケルーww
黙れ。海に落として錆まみれにさせるぞ。
ここにも五月蝿い奴がいた。
俺の周りはやかましい奴等ばかりだ。
ルシファーは喧嘩するベルゼブブとベルフェゴールを宥めて溜め息をつく。ほんとに困った奴等だ。
やはり怪しいのは帝国軍だな。何故こんな辺境の島に軍がいる。一体何が目的だ。
私は生前ローマ帝国の人間だったので、帝国軍のことは少なからず耳にしていますが、あまり良くない噂があります。聖教会とは別に警戒する必要があるかと・・・
そうだな、帝国の動きを調べてみるか。
ベルゼブブの意見に賛同だった。
ローマ帝国は巨大な国家だ。天使とは関係なさそうだが、帝国の動きに注意すべきだろうな。
なーなー!そんなことより、こんなシケたとこじゃなくて。レイズちゃんとビアンちゃんとこ泊まろうぜ~!ぐへっへ美女二人とギシギシアンアンしてぇなーたまんねえな!オイ!
大事な話の腰を折るなベルフェゴール!大体貴様は!
はぁ、やれやれ・・・
またベルゼブブとベルフェゴールの喧嘩が始まった。ルシファーは呆れながら寝床に入った。
妙な胸騒ぎを感じながらその夜は過ぎていった。
そして、その翌日、ルシファーの予感は的中する。
【レスボス島の町のはずれ】
町のはずれにゲインとバイヤーがいた。
二人の家には昨晩飲み過ぎた、イシスがまだ爆睡している。
それで彼等は夜の営みができなかったので、仕方なく人のいない町の外で逢瀬を重ねていたのだった。
草むらの木陰でゲインとバイヤーはイチャついていた。
ンンン!
もう、駄目よゲイン
んん、もう我慢できないよ
興奮する二人の横を複数の大きな足音が聞こえた。
ゲインちょ、ちょっと待って!
バイヤーは慌てて制止する。
なによ? どうしたのバイヤー
あれあれ!
バイヤーに促されてゲインは横の公道を見ると、そこにはローマ帝国の軍隊が進軍していた。
げ!? ローマ帝国の軍じゃない。
二人はその行軍を眺めていると、軍隊の中央に控えていた豪勢な馬車が二人の横を通りすぎた。
馬車の中から誰かが手を出すと、行軍していた従者の一人が馬車まで走っていく。
止めろ
ハッ!全体とまれ!!!
従者は馬車の中にいる人物から命令を受けて軍隊は行進をピタッと止まる。そして停止した馬車から白い鎧を着た男が出てきた。
馬車から出てきたのは、黒く長い髪にバイヤー達程ではないが背も高く体格もいい。精錬な顔つきをした美男子だったが、その目付きはギラギラしていて、まるで野獣そのものだった。
白い鎧の男はバイヤー達のほうに歩きだし、二人に声をかけた。
おい、貴様ら
は、はい! なんでしょうか
ゲインとバイヤーは男口調に戻して本性を隠した。これは彼らなりの処世術なのだ。相手はあからさまに軍隊の上の方にいる人物だろう。何者なのかは知らないが礼儀よくする。
真っ昼間から男同士で何をしていた?
ははは、俺達は格闘技の訓練をしてたんですよ
ほう、格闘技とな?
はい、普段から俺達はこうやって身体を鍛えているんです!
確かに中々の体つきをしているな。
だが、俺には男同士で身体をまさぐりあってる風にしか見えなかったぞ?
二人はビクッとする。何故ならローマ帝国では同性愛は禁止されているからだ。バレれば死刑、二人の顔に緊張が走った。
よもや、同性愛者ではあるまいな?
な、なな何を冗談を言ってらっしゃる。帝国の方といえどそのような誤解を招く発言は勘弁し…
鎧の男は前に踏み出すとゲインの左目に指を突き入れた。
きゃああああ!!!
いきなりのことで咄嗟に反応できず悲鳴をあげるゲイン、それを獣のような男は不敵に笑う。
ゲイン!?
ハッハッハ!なんだその女みたいな悲鳴は?まるでそっちが本性だと教えてくれてるようなものだぞ?
ゲインに何をするんだ! やめろぉ!
バイヤーは怒り狂い鎧の男に殴りかかる。それをまるで飛んでいる虫を払うかのようにバイヤーの拳を軽く捌いて、みぞおちに拳を入れた。
ぐおっ!?
重い…とんでもなく重い拳だ。
バイヤーより小柄なくせに、鎧の男は拳ひとつでバイヤーは地面に膝をついた。
うっぷっ!
内臓まで達した一撃だったようだ。バイヤーは嘔吐物を地面にぶちまける。
格闘技の鍛練不足じゃないのかぁ?ただのジャブだぞ
この時点で鎧の男は自分達より格上の存在だと気づいた。
鎧の男はうずくまっているバイヤーに容赦なく足蹴にした。その一発一発には殺意が込められた重いものだった。
ゲフッ! ゲフッ!
血反吐を撒き散らすバイヤー。助骨が折れて骨が肺に刺さったようだった。
や、やめてッ!? バイヤーが死んじゃう!
フッハッハッハッハッ! 泣け! 叫べ! 汚物共が!
必死に男を止めようとするゲインに、男はゲインの髪を掴んで膝蹴りを顔面にいれた。
ぐふっ…
ゲインとバイヤーは男の前に為すすべなく倒れた。
鎧の男は満足そうに二人を見下ろして待機している兵士を呼んだ。
連れていけ
ハッ!
や、やだ・・・行きたくない・・・
たすけて・・・お願いします助けてください・・・
おら立て異端者が!
鎧の男に命令されて兵士はゲインとバイヤーを連れてった。
そしてその翌日、
町の中央広場にて
ゲインとバイヤーは磔にされ処刑された。