【レスボス島 町の酒場】
【レスボス島 町の酒場】
ルシファーはレイズとビアンの記念日のお祝い会に誘われて、村にある小さな酒場に来ていた。
そこでレイズたちの知り合いの男友達二人組と同席する。
彼はゲイン
よろしくぅ!
こっちがバイヤー
うっす!
肌は色黒く鍛えられた筋肉をしたなんとも逞しい男たちだった。
で、こちらがルシファーさん。
よろしく頼む。
おう! よろしくなルシファー!
ルシファーはバイヤーとゲインに握手を交わす。
二人はこの島で漁師をしてるの。
この近海の魚は全部俺らが仕入れてるんだぜ!
誇らしげに言うバイヤーとゲイン。
道理で逞しい身体をしているわけだ、海の男だったとはな。
あ、そうそうルシファーさんはこっち側の人だから素で大丈夫よ
ん? こっち側? こっち側とはなんだ?
んもーん! それを早く言ってよ~ん
最初知らない人連れてくるから慌てて隠しちゃったわーん
なっ!?
あの逞しい男たちが急にクネクネしはじめて、女口調になった。
ゲインとバイヤーも私達と同じ同性愛者です。
彼らは身体は男性で中身は女性だそうだ。
こんなかわいい顔して、しかも男前! 最初見たとき興奮しちゃったわーん
うっ、今悪寒が走った。
まぁバイヤー! あたしという恋人がいる前で、それ浮気よ!
ああん、ごめんなさい。私にはゲインだけだから
でも私もいいなーって思っちゃった♡
まぁ! ゲインったら! だったらルシファーも交えて今夜三人で一緒にやる?
なにやら彼らから誤解をされてしまったようだ。
目の前でいちゃつくむさい男達・・・いや、中身は乙女だったか、ややこしい。
そうそう、実は私達も今日は連れがいるのよん。
えっ、そうなの?
あっちで飲んでるから呼ぶわね。オーイ!
店の奥に向かってゲインは大声で呼んだ。店の奥では人だかりができていて、若い女と大男が酒を飲んでいた。
グビッ! グビッ! クビッ!
ぷはーーー!
うっぷ! もう飲めねぇ…
どうやら飲みくらべをしていたようで、大男はダウンし、若い女が勝ったようだ。
すげえぜこの姉ちゃん! これで10人抜きだ!
じゃあ私の勝ちってことで賭け金は頂くわね。毎度あり~♪
若い女は賭けをしていたらしく、あの場にいた参加者から金を巻き上げると、俺らのいる席に歩いてきた。
そして女は俺を見ながら不敵な笑いをしだした。
フフッ、ようやく追いついた。久しぶりねルシファー
女はまじまじとルシファーを見る。
お前は・・・
胸元が強調された大胆な服装、青い色の髪に青い瞳をした美女だった。ルシファーは女を見て言った。
誰だ?
がっ!?
女は放心している。
イシス! ペル・ヘベット村のイシス!
イシス・・・?
どこかで聞いた気がするが・・・
駄目だ全く思い出せん。割りと最近聞いたような気がするのだが。
まさか・・・忘れたわけじゃ・・・
女はワナワナ震えている。どうやら俺と面識があるらしいが、いかんせん思い出せない。
我が主よ、以前主が鼻の骨と前歯をへし折った混血の女性でございます。
あーあーいたな、いた。確かにいた。
頭の中でベルゼブブに言われて今思い出した。
思い出した。あの時の足手まといの女か
あ、足手まとッー!?
イシスはコメカミに血管を浮かべる。
なにお知り合い? ひょっとして恋人同士かしら?
興味津々に聞いてくるゲイン達に、イシスは激怒した。
全然ッ違います! 知りませんよ! こんな冷血男なんか!
いきなりぶちギレるイシス。やれやれ相変わらず犬みたいにやかましい女だ。
何故お前がここにいる?
もっともな疑問だ。イシスと出会ったペル・ヘベット村はここから相当離れた距離にある。この広い世界でまた会うとは思わなかったからだ。
ぐ、偶然よ。
か、勘違いしないでよね! べ、別にあんたを追いかけてきたわけじゃないんだから! たまたまだからね!
あれ?さっきようやく追いついたって言ってませんでした?
ぐっ…
気を取り直してゲインはイシスを紹介する。
まぁまぁ積もる話は後にして、改めて紹介するわ。この子はイシスちゃん。今私達のとこで一緒に住んでるの
ペル・ヘベット村って田舎からきたイシスです。よろしく
私はレイズ。この島で子供たちに勉強を教えているの。
僕はビアン。本職は詩人さ。
よろしくレイズさんにビアンさん!
あと・・・
イ・シ・ス・で・す! は・じ・め・ま・し・てルシファーさん!!!
やたらと睨んでくるイシス。会うたびに敵意を剥き出してくる奴だ。
だけど、バイヤーとゲインも隅に置けないね。こんなかわいい子といつの間に知り合ったんだい?
それがね先日、海で漁をしてたら地引き網にかかってたイシスちゃんがいたのよ。あの時はチョーびっくりしたんだから
なんで地引き網なんかに…
聞くとこの島に向かおうとしてたようなのよ。
どうやらイシスもこの島に向かっていたそうだ。そこでビアンが口を挟む。
へぇ、ひょっとして定期船が沈没でもしたの?
当然そう聞くな。この島へは船でしか行き来できないのだ。おそらく乗っていた船が座礁して漂流したのだろう。
ううん、泳いできた。
お前もか!
お前もか!
レイズとビアンは同じことを思った。
だって船賃なくて、だったら泳いだほうがタダだし、いけるかな~って
普通泳いでこれるわけないだろう。相変わらず無鉄砲だな。
あなたがそれを言うか!
あなたがそれを言うか!
レイズとビアンは同じことを思った。
まさか、ルシファーさんと同じことする人がいるなんて
二人はお似合いね。
なっ!? ちょっとバカなこと言わないでよなんでこんな奴と一緒に…
はは~ん
なるほどね~
バレバレねぇ~
ほんとわかりやすいわよね~
言葉とは裏腹に満更でもないようにイシスはちょっとニヤけてる。周りはイシスの気持ちに気づいたが、当のルシファーには気づいていなかった。というか飯を食うのに夢中で眼中にもないようだった。
ガツガツガツガツ
ルシファーさんさっきあれだけ食べたのに、ほんと大食いですね♪
というか、あんた食いすぎ!うちに来た時もやたらガツガツ食べてばっかで
食えるときに食べておかないと、のたれ死ぬからな。
どんだけ極貧生活送ってんのよあんた
ワイルドねぇ素敵♪
あらかた食い終わると、イシスの皿にあるステーキを凝視し始めた。
それよりその肉、食わないのなら俺によこせ。
はぁ?!食い意地張りすぎだから!あげるわけないじゃない!
そもそも食えないだろ?
別に嫌いだから残してるんじゃないから、私は好きなものは最後にとっておくタイプなの!
いや、歯ないじゃん
こ、この野郎・・・
相変わらずデリカシーない奴
そもそも顔面グーパンで殴ってきたのはどこのどいつだっての!
もう治ってるわよこの馬鹿!!!
この日の飲み会はルシファー達のいる席はいっそう騒がしかった。
俺らは談笑しながら酒を飲んでいると、バイヤーからこんな話題が出た。
そういえば帝国軍が最近駐留してるのよ。
帝国軍って、ローマ帝国か?
※ローマ帝国とは、紀元前の昔から長きに渡りヨーロッパ全体を支配している王権君主制の一大軍事国家である。歴代の皇帝が治めている。
そうなのよ、こんか辺鄙な島にしかも大軍で
確かもう一週間くらいかな? ここに駐留してるの。なにしに来たんだろう。
わかんない、ただ寂れて使われなくなった鉱山に入っていって何かしてるようなの。
帝国軍がこの島にね…
きっと掘りあってるのよ。私達みたいに♡
ゲインのジョークに全員が笑い出す。ルシファーだけがこのノリについてこれずにいた。
そして時間は過ぎていき、楽しかったパーティーはお開きすることなった。
あれ?ルシファーさんどこに行くんですか?
この島に灯台があっただろう。今夜はそこを寝床にする。
あそこで寝るんですか?あまりいい環境の場所じゃないですよ。
慣れているさ。それに
今日は二人の記念日なのだろう?甘いひとときを邪魔するほど野暮ではないさ。
気にしなくていいのに。
そうだよ。三人でえっちしたほうが気持ちいいよ~♪
もうビアンったら飲みすぎ!
ニャハハハハ!ルシファーさん朝までやりまくろーーー!!!
飲みすぎて完全に酔っ払いと化したビアンをレイズは介抱していると、真横でイシスが覗き込んできた。
なんだ?人の顔をジロジロ見て
あんたそういうところは気が回るのに、どこかヌけてるんだよね
俺にだって気ぐらい回せる。そういうお前は今夜はどうするんだ?
バイヤーさんとこかな。こっちきてからずっとそうだし
男二人に女一人だと、不安にならないのか?
素朴な疑問にイシスはキョトンとして答える。
んー? 全然、だってゲインさんとバイヤーさん凄くいい人だし、私達はルームメイトだもん
ねー♪
ねー♪
ねー♪
イシスとゲインとバイヤーは楽しそうだ。まるで女子同士の会話のように和気あいあいとしている。いかん、中身は女だったんだな。紛らわしい。
違うよイシスちゃん!ルシファーさんは自分とこに来て欲しいって誘ってるんだよ!!!
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
もうニャンニャンしちゃいなよ!
べ、別にあんたがどうしてもって言うんなら、行ってあげないこともないけど!
そいつは御免だ。また寝てる最中に刺される。
また昔のことをいつまでも・・・
割と最近だろ。
こうして6人は分かれてそれぞれの帰路についた。