月の使者が赴く数日前・・・

数人の若者が宝物をもってきたが、かぐや姫はすぐに偽物と見破ってしまう。

やはりだめじゃのう。わらわの求めるものは現れぬか……

彼女は若者が帰った後残された部屋で、一人ぽつりと呟いた。そして月を見るたびに悲しそうな顔をしていた。

どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのですか?

とおじいさん。

私は大丈夫です。実は私は月で生まれ、11月15日の夜、月に帰らなければなりません。お迎えがまいります

猫を被りながら、あるいはどこか遠慮がちにかぐや姫は言った。一緒にいたいと、帰りたいという言葉さえ出せないまま、彼女は『大丈夫』と、そう言ったのだ。

そんな馬鹿な

とおじいさんは戸惑い怒って部屋へと戻ってしまう。

……

彼女はもう一度だけ月を眺め、そうして部屋へと戻って行った。

* * * * *

ふぁ~

いつの間にか寝てしまっていたようだ。顔を照らす光に目が眩み、かぐや姫は目を覚ました。

月が空に誇らしく輝き、黒の世界を明るく照らしていた。

今夜の風は少し強いようだ。外に面した窓や障子がカタカタと音を立てている。

月の迎えか。難儀なものじゃのぅ……

障子の向こう側に輝いているだろう月を見つめて、かぐや姫は溜息をつく。

帰りたくなかった。もっとここにいたかった。自分を育ててくれた、大切にしてくれたお爺さんやお婆さんに、これからたくさん恩返しがしたかった。普通に恋愛もしたかった。普通に生きて、普通に死にたかった。

それこそ、一人の『人間』として。

何とも辛いものじゃ

けれども何より、そんな普通すら味わうことができないという事実以上に。

……

その気持ちを素直に二人に言えなかったことが、彼女にとってはこれ以上ない苦しみだった。

月の民はおるというのに、何故神とやらはおらんのか。はたまた儂が『月の民』であるが故に、神はわらわを見捨てたのかのう

誰かが言った。人生で不幸と幸福はみんなに均等に訪れる。だから本当に不幸な者など存在しないのだと。

別の誰かはこうも言った。幸せと不幸せは平等には
分け与えられない。この世には絶対的に勝者と敗者が存在するのだと。

そして姫は、かぐやの姫様はこう言った。

そんなものは全てまやかしじゃ。幸せも不幸せも、不幸も幸福もその出来事をその者がどう受け止めるか次第なのじゃ

だからきっと、かぐや姫は月に帰ることを不幸と捉えているけれど、今まであるいはこれから先には喜んで月に舞い戻るような姫がいたっておかしくはない。

元々幸せなんてないのじゃ。不幸なことなどないのじゃ。ただ人が、違う考えを持つ人がたくさんおりすぎただけに過ぎぬ

これが彼女の出した結論だった。幸福な、それこそ彼女自身が幸せと思えるような毎日を過ごした経験だった。

だがしかし、人々が信ずる神というものを、一度は見てみたかったがのう。そうすればわらわのこの考えも少しは変わったじゃろうに……

言って、かぐや姫は月を見ようと障子に手をの伸ばした。

そんな時だった。

窓が割れたのとはまた違う、何かが砕けたような音。

!? ……なんじゃ?

急いで障子を開ける。
そして、かぐやは見た。

かぐや姫は見つけた。

…………

目を見開いたまま静かに横たわるその男を。

今度こそかぐや姫は聞いた。

目に見えない厚いガラスが砕ける音を。

あるいは。

壊れたのは彼女の悲しい幻想だったのかもしれない。

おぬし、大丈夫か!?

かぐや姫は慌てて男の元へ駆け寄る。と、何もないところでいきなり転んだ。

いたたたた。くう~、思うようにいかのう

このどじっ子スキルは、お爺さんとお婆さんを心配させてしまうから嫌いだ。いつだったか、かぐや姫は月に一人、ぽつりとそう呟いていたことがある。

まあ、今はそんなことを言うとる場合ではないがな

転んだ体をすぐに起こし、男に向けて手を伸ばした。

その瞬間。

彼女の運命は確実に独自のルールで動き始めた。
『昔話』なんていう、彼女が生まれる前から決まっていた道を外れるように。

* * * * *

こんにちは初めまして。ぞこです。
『ミヤコワスレ』を呼んでくれている方はお久ぶりです。
ご覧いただきありがとうございます☆

今回はかぐや姫が元となった『もしも』の話しとなっております。読者さんの中にも、かぐや姫が月に帰ってしまう結末に納得できない、残念に思う方もいるのではないでしょうか? ふとそんなことを思いまして、この話を書いてみようと思いました。

色々言ってしまうと、まだ物語はほとんど進んでいないのでネタバレになってしまうため、今日はこの辺りで失礼します。

この作品を読んでくれた皆様のが少しでも楽しめたのなら幸いです。読者さんと絡みたいと思ってますので、どんなことでも気軽にコメント下さい! もちろん誤字脱字やアドバイスも大歓迎で。できるだけ正確に対応したいと思っています。

それでは、今回は筆をじゃなく指を休めさせて頂いて。・・・『ミヤコワスレ』の方もよろしくお願いします!!

01.君が竹なら僕は松から生まれよう

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