その言葉にダーインスレイブは歓喜した。
ダーインスレイブ…リミッターを外す。
その言葉にダーインスレイブは歓喜した。
ケッケッケ! アレヲヤルノカ? 久シ振リニ、ルシファーノ血ヲ飲メルゼ!
ルシファーは右腕のガントレットを外す。そこには右腕がなく、ガントレット自体が義手を担っていた。
ルシファーはダーインスレイブの柄を右腕の切断面に添えると剣から触手が伸びてルシファーの切断面の肉を触手が浸入していく。
ぐっ!
凄まじい痛みだ。
内側から肉を抉られ、血を吸われていく。
旨ェェェ! ヒャッハッハ! 旨ェェェヨ! ヤッパルシファーノ血ハドノ天使ノ血ヨリ美味ェェェェェェェ!!!
ダーインスレイブは歓喜して発狂している。
みるみる内に触手がルシファーの右腕を取り込んでいく。まるで剣に寄生されてるように見えた。
な、なんだいありゃあ...
ルシファーの右腕とダーインスレイブは一つに融合し変貌を遂げた。右腕から剣が生えている。
そう形容するしかなかった。
レイヴンの名の由来を教えてやる
そう言うと、ルシファーの身体が崩れて無数の黒い鴉となる。黒い鴉の群れが一斉にババア天使に襲いかかり、すれ違い様にダーインスレイブの剣筋が鴉の群れから飛び出て天使を斬りつけた。
速いッ!?
しかし、斬りつけられた天使は血の人形になり崩れ去る。また偽物だったが、それでもルシファーの猛攻は止まらない。
鴉の群れは旋回して再びババア天使を襲い。
すれ違い様に二撃目を斬りつけた。
ホッホッホ! 無駄よ無駄よ
二撃目も血の人形だった。
鴉の群れになったルシファーは三撃目、四撃目とババア天使の作った血の人形を乱れ斬りにしていく。
無駄な足掻きはみっともないわよ!
放たれる血の弾丸、それはルシファーの真芯を捉えて放たれたが、着弾すると同時に、鴉は散らばり、血の弾丸はそのまますり抜けた。
黒い鴉の群れがまた一つに集まり人の姿を模していく。
無駄だ。お前の攻撃は当たらん
なにかっこつけてんのさ、それはこっちも同じだよ。いくら斬りつけようが生け贄の血が有る限り私は無敵......
足元を見てみろ
んあ?足元?
ババア天使は自分の足元を見て驚愕した。
アレほどあった血のプールがまったく無くなっていて枯渇していたからだ。
ダーインスレイブが斬った際に、魔法により人形精製で使われた大量の血を、あの一瞬の間に魔剣が一気に吸い取っていた。
馬鹿な!そんな馬鹿な!?
これでお得意の身代わりはなくなったな
勝った気でいるなよ、私にはまだ生け贄どもが...
ババア天使が近くにいた生け贄のネフティスに手をかけようとした瞬間、天使とネフティスの間に黒い壁が阻んだ。
な、なに!?
鴉である。
大量の黒い鴉の群れがババア天使の前にふさがり、天使の回りを飛び回る。まるで渦を巻くように、それは端から見るとまるで黒い竜巻のようだった。竜巻の渦の中心に天使は閉じ込められた。
しゃらくさい真似を
天使は強引に渦に手を伸ばすと指が吹き飛んだ。
ぎょへぇ!?
天使は手を押さえる。
この黒い竜巻は突風によるものなんかじゃない。
天使は自分の千切れて血が吹き出した手を見ている。切れたというより、明らかに鳥獣に噛みきられたものだった。中にいる鴉に啄まれたのだ。
こ、これじゃ出れない...
わざわざ補給させると思うか?
どこからともなくルシファーの声が聞こえた。
ババア天使は手を押さえながら周囲を見た。
ど、どこだ!で、出てこい卑怯もの!
やれやれ、貴様に言われたくないな
黙れ!このビチグソ野郎が!
ババア天使は吠える。しかし、その顔には恐怖しかなかった。
すると鴉の竜巻が更に早くなった。天使は慌てふためく、回転している鴉の渦の中心が狭くなってきたのだ。次第に壁がドンドン迫って来る。
あ、ああああああああああ!!!
ぎゃああああああああああ!!!
鴉の竜巻の中に巻き込まれ、ババア天使は遥か高くに巻き上げられた。
所々を鴉に啄まれながら激痛で悲鳴をあげる。
上空に打ち上げられたときには、ババア天使はボロボロだった。複数の鴉に啄まれて身体のあちこちに生々しい傷ができている。
ぐっ......はっ......
宙に投げ出されたババア天使はすでに虫の息だ。
あれだけいた鴉は消えて、黒い竜巻は消滅した。
代わりに鴉は一直線にダーインスレイブの刃に集まりだしてエネルギーの塊に変化していく。それは魔剣の刀身に黒い光を放ちながら禍々しい魔力を帯びていた。
ババア天使は落下しながらルシファーを見た。
これから起こることがどんなことか予想が、いや嫌な予感がしかしていない。
魔剣の切っ先から放たれる尋常じゃない魔力。
あれは魔法剣だ。堕天使如きがなんでこんな異常な魔力を持っている!?
お前は...
落下し続ける先には魔剣を構えたルシファーがいる。
「修羅―――――」
ルシファーは言葉を紡ぐ。
全てを屠る必殺の一撃を・・・
化け物かーーー!!!
絶叫にも似た天使の叫び。
ルシファーは落ちてきた天使にむかい、闇の剣を振り上げ叫んだ。
「―――――煉獄!!!」
放たれたルシファーの魔剣の一撃
ルシファーの絶技、修羅煉獄により放たれた一筋の黒い光がババア天使を包み込んだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ババア天使は黒い光の中に消えた。
膨大な魔力が弾けて、周囲を衝撃波が走る。
イシスは近くにあった岩盤を掴みながら衝撃に耐えていた。
辺りは闇に包まれ、青空が一瞬夜に代わった。
それほど凄まじい力だった。
な、なんて奴なの...あいつ
巻き起こる衝撃波が次第に止んでいき、空には青空が戻った。
ルシファーは地面を見下ろしながら立っていた。
足元には、両手両足が吹き飛んで死にかけたババア天使がいた。
......ひゅう...ひゅう......
やはり三割じゃこの程度か
たったの三割であれほどの魔力、こいつの潜在能力はどれだけ底が知れないんだよ…
ババア天使は意識がかすかすになりながらも戦慄していた。
さて、最期の懺悔は済んだか?
お、おのれ…ルシフェル=サタナエルッ!
この村の生け贄の儀式は終わりだ。最期の生け贄は貴様の血をもって締めるとしよう
ルシファーはダーインスレイブを、五体不満足なババア天使の厚い脂肪のついた腹にぶっ刺した。
ぐふぅ!?
ヒャヒャヒャヒャヒャ! 血イイ! 血ダァ!
ダーインスレイブはババア天使の血を飲み始める。
あ、ああ…あ…や…め…てぇ…ぐでぇ…
じゅるじゅるじゅる
……干か…らび…る…
魔剣ダーインスレイブが血を一滴も残さず吸い尽くすと、そこには巨漢だったババア天使の面影はなく、骨と皮だけの干からびた死体が残された。
ゲップ!
久々の天使の血はどうだった?
脂質ガ多イシ、血糖値モ高イナ。胃モタレシソウダ
中々辛口だな。
ルシファーはガントレットの義手をつけ直す。
そして急な立ちくらみに襲われる。
ぐっ…相当吸ってくれたな。
ヒッヒッ、アト少シデ魂ゴト食エタノニナ残念ダ!
ダーインスレイブの解放は爆発的な力を生み出すが、血の代償が必要な諸刃の剣だった。
ガントレットには魔剣の浸食を抑えこむ封印礼装の効果があり、普段は魔剣を操っても支障はないが、
外しただけでこれ程の疲労感があるとは、だが切り札を使わざる負えない程に今回の敵は手強かった。
ルシファーは魔剣を納めて歩き出す。
邪悪な存在が消えたことにより、最早この地に留まることがなくなった。
次の天使を狩りに、そのままこの地から離れようとしたとき背後から声をかけられる。
待て
呼び止めたのはイシスだった。
ルシファーはため息をついた。
ふぅ、またお前か、まだ続きをやりたいのか? 全く狂犬みたいな人間だな。
違う! そうじゃない、どうして私達を助けた!
一宿一飯の恩を返しただけだ
誤魔化されると思ったのか? ふざけるな、それが同族を殺す理由になるか! 教えろ! なんで天使のあんたが天使と戦う! 何が目的だ!
人間に答える気はない
なら、力ずくで喋らせてやる!
そのとき、ルシファーは神速の速さでイシスの首元に剣を突きつけた。イシスはあまりの速さに一歩も動けなかった。
なっ…
これ以上こちら側に足を踏み込めば命はない。それが興味本意なら尚更な
興味本意…なんかじゃない
ルシファーは剣を納めるとイシスを素通りし去っていく。実力の違いにイシスはただ黙って見送るしかなかった。そしてイシスは、去り際に見えたルシファーの横顔をずっと見つめていた。
後日・・・
あーーー!!!あのクソ野郎ほんとむかつく!!!
ネフティスと村の女達は意識を取り戻し村に戻っていた。
生け贄の祭壇はなくなり、村はもう生け贄の儀式を行うことがないとわかると、平和が訪れていて村中は歓喜していた。
そんな中、イシスは不機嫌そうにしていた。
ネフティスに笑いながら言った。
そんなに気になるなら追いかけたら?
なっ、べ別にそんなんじゃないし!ただ...
ただ?
ネフティスはニヤニヤしながらイシスを見ていた。
な、なんでもないから!
またまた~あの人イケメンでカッコよかったよね~惚れちゃった?
もうネフティスの馬鹿! アホ! オタンコナス!
くっそ! なんかモヤモヤする! ネフティスが変なこと言うから。
なんにせよ、もう村の女性を天使の生贄に出すことはなくなったから、もうネフティスの身は安全だろうし
私がいなくてもネフティスは大丈夫よね。
これも全部あいつのおかげ、少しは感謝してるから
そしてイシスはある決意をして、ネフティスに告げた。
ネフティス、私この村を出るから
え?
そっ、ちょっと旅に出てくる。
ついに愛しの人を追いかけるのね! ああ、なんてロマンチックなのかしら
そ、そんなんじゃないから!
いつか村を出るつもりだった。母の仇であり、私の血に流れる憎い天使を探すつもりでいたからだ。
今は村の生け贄による悪しき風習が終わり。
ネフティスも危険に晒されることもなくなったわけだから、憂いなく旅に出れる。
・・・べ、別にあいつに会いたいわけじゃないんだからね!
か、勘違いしないでよ!旅をしてけば、憎き敵に会えるかもしれないから
はいはい、そういうことにしときますよ
ネフティスは笑いながら言った。そしてネフティスはテーブルの上にギューギュー詰にされたバッグをドンッと置いた。
そう言うと思って旅の準備しておいたから
え? 嘘でしょ
マジよマジ、さぁ早く追いかけないとルシファーさんとはぐれちゃうわよ!
な、なんか手際よすぎない!?
貴女がいつか村から出ていくのはわかってたんだから、だって世界でたった二人だけの家族だもの。
善は急げっていうでしょ! ほらほら早く早く!
なかば強引に荷物を渡され家から追い出されるイシス。
まったくもう、いつも強引なんだから
それが私の姉のいいところでもあるんだけどね。
気を付けてね
それじゃあ行ってくる
うん、いってらっしゃい!
ネフティスに見送られて私は育った村を出た。
空がこんなに青いだなんて思わなかった。
前までは空が嫌いだった。
空からは天使が降りてくるから
でも今は少しだけ好きになれそうな気がする。
さてと、まずは南のほうへ歩いてみるかな
旅の行き先はまだ決まってないが、まずは南の方角を目指そう。あいつが向かっていったのは南だ。
きっとあの天使を追えばいつか私が探している天使に会えるはず。
それに・・・
あの時からずっと気になっていた。
どうしても忘れられなかった、
あの時みたあいつのあの横顔が・・・
なんか…あいつの目
すごく悲しい目をしてたから…
よーし!待ってなさいよ!今度こそべッコベコ!にしてやるんだから!
こうして私は旅立つことになった。
後にイシスは世界最強の魔女として、後生に語り継がれることになだろう・・・