【生け贄の祭壇】
そこでは昨日とはうって変わり禍々しい儀式が行われていた。
もう数人の村の娘達が生け贄になり、
首が切断された裸の女の死体がいくつも転がっていた。
流れた血はまるで海のように辺り一面に広がりなって、血の池で戯れる一人の天使が現れた。
プハァ~たまらないわ~ん
血塗れになりながら現れたのは醜い姿をした太った女天使だった。
ずいぶんと下衆な趣味をお持ちだな
祭壇に着いていたルシファーは、ご満悦の女天使に話しかける。
おや、人間にしてはいい男じゃないの。つまみ食いしちゃおうかしら
ルシファーは辺りを見回す。
凄惨で残虐な光景だった。なんらかの儀式でも行われている最中なんだろう。血の匂いにむせびこむ。
まだ数人、生き残っている女達がいる。
その中にネフティスの姿もあった。
ネフティス!
・・・・・・・・・
返事がない、それにあの生気のない眼・・・どうやら女達は暗示にかけられてるようだな。
連れ去られた女たちは天使の術にかかって無反応だった。
ベルゼブブ、俺が奴の注意を引きつける。天使が隙を見せたら女たちを救出しろ。
かしこまりました我が主よ、お気をつけ下さい
天使に気づかれないよう、ベルゼブブは小さな蠅に変身し、一旦ルシファーから離れる。
まさか一つの村に天使が2体もいたとはな。
あいつを知ってるのかい?もしやあんたがあいつを殺した人間かい?
そんなところだ。お前はあの死んだ下級天使のお仲間ってところか?
仲間だって? ホホホ冗談よし!なんで上級天使のあたしが下級の雑魚と同列なのさ。あいつはただのペットよペット!
やれやれまた上級天使か、こいつは骨が折れそうだ。
だけどあの役立たずが死んでくれたおかげで、こうしてあたし自らが出張らなくちゃいけなくなっちまったわけよ!ほんと最後まで使えない下僕だったわ!!!
かつての仲間をクズ扱いするババア天使。見た目通り性格も腐っているらしい。
まさか首謀者が女の天使だとはな、大抵は男の天使共が強姦目的で生け贄を求めるものだが
まったく天上の男どもはこの私を見ずに人間如き糞のような女にうつつを抜かすんだもの。信じられないわ
なんだモテない嫉妬か?
嫉妬?ウフフやぁねえ。なんでこの私がブスに嫉妬なんかしなきゃならないの?
じゃあ何のために生け贄を求める
決まっているでしょ美容のためよ
美容だと?
新鮮な若い女の生き血をこの身に浴びれば、肌が潤い若返り効果があるんだよ。こいつらブスは私のためにいるようなもんさね!
薄汚い笑いをあげるババアの天使。
あまりにも醜いので不快に感じる。
ルシファーは魔剣ダーインスレイブを即座に引き抜いた。
よかったなダーインスレイブ。昨日のご馳走にありつけるぞ
熟女ナンカ、ゴ馳走ナモンカ、腐ッテソウデ腹壊サナイカ心配ダ
同感だな
ルシファーは剣を抜いたままババア天使に迫る。
若くいい男に迫られるのは悪くないけど、ガッつく男は嫌われるよ!
ババア天使は浴びてた血を凝固させて棘にし、ルシファー目掛けて串刺しにしようと血の棘を飛ばす。
フンッ
棘をダーインスレイブで受け止めると、血の棘はみるみるうちにダーインスレイブの中に吸い込まれた。
ヒッヒッ旨ェ旨ェ!
なっ!?
血を使った魔法はダーインスレイブの前には無力だった。
それを見てババア天使は、相手が只者ではないと気づく。
今回ばかしは相性が悪かったな
あ、あんた、何者だい!?
今から死ぬ奴に名乗っても無駄だ
むかつくクソガキだね!
無駄だ
性懲りもなく血の棘を飛ばすが全て魔剣に吸収された。ダーインスレイブは歓喜している。
ヤッタゼ!今日ハボーナスゲームダゼ!!!
ルシファーは血の攻撃を無効化しながらババア天使の元に歩み寄ると、剣を振り上げた。
ちっ!チクショオオオオオオオ!!!
死ね
そしてババア天使の顔面を斬りつけた。
ぐぎゃあああ!!!
雄叫び声をあげるババア天使。
今回は余裕だったな
しかしそれも束の間、天使は血液に姿を変えて崩れ墜ちる。
!?
なーんてな! こっちさ!
背後から現れたババア天使が、魔法により凝固された血液の塊をルシファーの背中に叩きつけた。
ぐっ!?
背後からの攻撃には、ダーインスレイブの吸収が間に合わず、直撃を受ける。
ほほほ、引っかかったわね!
血でできた人形か・・・
ルシファーが先程斬ったのは血でできた精巧なババア天使の偽物だった。
そうだよ、私は血液を自由自在に操れる能力を持つ!私の得意な魔法さ!!!
身代わりを作り出す能力か、厄介だな。
辺り一面は犠牲になった娘達の血の海。いくらでも血の人形を作り出せる。どうやら地の利は完全に向こうにあるらしい。
流石クズとはいえ上級天使か、ただで勝たせてはくれなそうだ。
いくら血液を吸収できる剣だとしても、これはどうさね!!!
ババア天使はすかさず血を弾丸にしてありったけルシファーに飛ばした。
ダーインスレイブで吸収するにしても、さすがに血の弾の数が多すぎて全部は防ぎきれない。
ルシファーは片翼を出して血の弾幕を回避した。
漆黒の片翼...なるほど、あんたがあの有名な反逆者レイヴンかい?
もっとも、うちら天使間ではルシフェル=サタナエルと呼んだほうがいいかい?この裏切り者め!
昔の名だ。今はお前ら天使に不幸を運ぶ鴉(レイヴン)だ。
一方、祭壇の物陰からその光景をイシスが息を殺して見ていた。ルシファーを後から追いかけてきていたのだ。
レイヴンってあいつが・・・
イシスは信じられないでいた。
教会を敵に回して次々と教会関係者を粛清している神の反逆者レイヴン。
そのレイヴンの正体が、実は天使だったなんて夢にも思わなかった。
あの男と天使の戦いを見ていて、あの二人は桁外れに強い
次元が違う・・・
これが天使同士の殺し合い・・・
天使なんて余裕で狩れると思っていたのに...くっそ!
まさかここまでレベルが高い戦いだなんて思わなかった。今の自分ではあの中に入っていったら間違いなく返り討ちにあうだろう。イシスは二人の戦いを見ていることしかできなかった。
それ!それ!それ!それ!
・・・・・・・・・・・
アラレのように飛んでくる血の弾丸を、ルシファーは高速で移動しながら避け続ける。
ルシファーは冷静にババア天使の戦力を分析していた。血を操るのならば、血がなくなれば攻撃の手立てもないだろう。ルシファーは天使の足元にある血が枯渇する時を待っていた。
それ!それ!それ!それ!
そろそろか・・・・
徐々に血液が少なくなってきていた。
ババア天使もそれに気づいてか、ルシファーに言った。
なんだい、ひょっとして時間稼ぎのつもりかい?だとしたら残念だけど無意味さね!
 ̄―――――――――
ババア天使は両手を広げて血のカッターを作り出す。そして、後ろにいた村娘の首をカッターで跳ねた。
チッ、そういうことか
首を跳ねられた娘は倒れ、切断された首から大量の血を吹き流した。その血は再び天使の足元に流れ込み補充される。
ストックは沢山あるんだよ! 戦闘が長引けば長引くほど、無関係な生け贄が死んでいくよ!
外道が
新たな血を得て、再び血の弾丸をありったけ飛ばしていく。その様子を見たイシスは焦っていた。
このままでは人質にされた村のみんなが殺されちゃう。それだけじゃない・・・あの人質の中にいるネフティスも・・・・
しかも、ネフティスは丁度あの天使のすぐ後ろに控えている。順番からいえば次に天使が血を補給するとしたら間違いなくネフティスが殺される。
それがわかっていたからイシスは焦っていた。
ほほほほほ!そうやっていつまでも逃げ回りなさい!!!
チッ!
ルシファーが血の弾を避け続けることにより、天使の足元の血の残量がまた少なくなってきた。このまま傍観していてはネフティスが危ない。
くそ!こうなったら一か八か!
イシスは天使に向かって詠唱を始めた。
幸い、あの天使はあいつに釘付けでこっちには気づいていない。殺るなら今しかない!
汝は風、荒れ狂う強風よ、かの者に我が矢を飛ばせ!!!
イシスはナイフに風の魔法を込めて天使に向けて投げつけた。
ん? なに!?
よし!殺った!
しかし、ナイフが天使に当たると、天使の身体は血液に変わり消えた。
えっ...
血を使った身代わりだった。
いつの間にかネズミが一匹紛れ込んでいたわね
後ろから声をかけられ、イシスは振り向くと,
そこにはババア天使が笑いながらイシスを見ていた。
気配には気づいていたんだけど、どこに潜んでいるか場所まではわかんなくてねぇ。でもちょっと隙を見せたらコロッと引っ掛かってくれたんで楽しいわ
まんまと騙され居場所がバレてしまった。
あ......
じゃあね、お嬢ちゃん
あ、私死んだ...
血のカッターがイシスに襲いかかった。
そしてカッターが目の前にくるとイシスは咄嗟に目を瞑った。
あれ......痛くない?
恐る恐る目を開けると、そこにはルシファーがいた。
ルシファーが血のカッターからイシスを庇い、背中を斬られていた。
ぐふっ...
あ...あんた...どうして...
ルシファーの背中から血が流れていた。
かなりの深手を負ったようだ。
お前は魔法に頼りすぎだ。だから魔力を探知されて動きが読まれる.....
そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!大怪我してるじゃない!
カスリ傷......にしては、少しばかしデカすぎるか?
ルシファーは苦い顔をしていた。
ホッホッホ!これは棚ぼたですわ!馬鹿な小娘庇って、ようやく一手与えられたのですもの
ババア天使は笑い出す。
嬉しいか?
はぁ?
こんなカスリ傷一つで歓喜していて
ムキー!ほんと生意気なガキね!
しかし、まずいな血を流しすぎた。
時間を掛ければ掛けるほど不利になる...か、
仕方ない
ダーインスレイブ、リミッターを外す。