【ブシリス北方の村 ペル・ヘベット】


 ルシファーは村の前まで女を担いで連れていった。

ネフティス

イシス!?

 村の入り口にいた女性が駆け寄ってくる。
どうやらこの混血女の知り合いらしい。
そうか、こいつはイシスという名なのか。

ネフティス

ひどい怪我・・・誰がこんな惨いことを

ルシファー=サタン

わからないが、道端で倒れていた。

魔剣ダーインスレイブ

ヨクモマァイケシャアシャアト嘘ヲツケルナ

 
犯人はこいつですよ。
と、ダーインスレイブは教えてやりたかった。

ネフティス

貴方は?

ルシファー=サタン

通りすがりの旅人だ。それよりこの女を下ろしたいのだが、重くてかなわん

ネフティス

わ、わかった。とりあえず家に

ルシファーはこの女の家に向かった


一軒の家に着き。家の中に入るとすぐにイシスをベッドに寝かせた。

ネフティス

ありがとう。えーと…

ルシファー=サタン

ルシファーだ

ネフティス

私はネフティス。イシスをここまで運んでくれてありがとう

ルシファー=サタン

君は彼女の家族なのか?

ネフティス

ええ。とは言っても血の繋がりはないけど私たちは姉妹みたいなものかな

意外だった。
このネフティスという女性は普通の人間だ。




 
混血種は人間、天使両方からの迫害の対象になりやすい、彼女を見ていると混血種であるイシスを大事そうにしているように見えた。きっと慈しみのある人間なのだろう。

イシス

う……うーん

ネフティス

起きたイシス?

イシス

ハッ!?


 イシスはベッドから飛び起きた。

イシス

ここは!? あいつは!!!

ネフティス

落ち着いてここ私達の家よ

イシス

ネフティス? えっ、え? どういうこと? なんでだって私はさっきまで生贄の祭壇に・・・

ネフティス

この旅の方が運んでくれたのよ

ルシファー=サタン

お目覚めか?

イシス

あーーー!? あんたは!

ルシファー=サタン

落ち着け

イシス

えっなに? なんで頭の中にコイツの声が聞こえるわけ!?

ルシファー=サタン

テレパシーだ。お前の頭の中に直接話しかけてる。彼女に聞かれては話もできないだろう

イシス

一体どういうつもり?

ルシファー=サタン

全く、敵意むき出しだな。わざわざここまで運んできてやったのに、あのままあそこで放置しておいた方がよかったか?

イシス

うっさい!一体何を企んでる!

ルシファー=サタン

勘違いするな別に何も企んじゃいない。

イシス

嘘!何を企んでるのかは知らないけど、さっきは油断しただけだから!今度こそ引導を渡してあげる!!!

ルシファー=サタン

待て待て、ここでお前が暴れれば、お前の知り合いにも迷惑がかかるんじゃないのか?

イシス

ぐっ、人質ってわけ、この卑怯者!

ルシファー=サタン

酷い言いようだな、元はお前から先に仕掛けてきたんだろに

イシス

黙れ、天使なんか信用できるか!

ネフティス

二人ともどうしたの? さっきから黙りながら見つめあって


 テレパシーに集中していてネフティスのことを忘れていた。

イシス

な、なんでもないよネフティス。

ネフティス

はっは~ん♪


ネフティスはルシファーとイシスをまじまじ見ながらニヤける。

ネフティス

ルシファーさんって中々の男前よね。イシスがこうも異性の男性を見とれるだなんて今までなかったわ。つまりイシスはこの旅の人に・・・

ネフティス

イシスにもようやく春がきたか

イシス

ハァ?

ネフティスは何か勘違いをしていた。

ネフティス

そうだ!せっかくだからルシファーさん今夜うちに泊まっていきません?

イシス

ええっー!?

ルシファー=サタン

ありがたい、お言葉に甘えさせてもらおう

イシス

ええっ―――!?

ルシファーはイシスを介抱したお礼にネフティスから一晩泊まらせてもらうことになった。


夕飯時・・・



イシスの大反対をネフティスに押し切られ、結局一緒に食事することになった。

イシスは黙々と飯を頬張るルシファーを睨み付けながらチビチビとブドウ酒を飲んでいた。やけ酒したい気分なんだろう。当のルシファー本人はそれを気にすることもなくガツガツ飯を食べていた。

イシス

しっかし・・・・・・

ルシファー=サタン

おかわり頼む

ネフティス

はいは~い♪

ルシファー=サタン

おかわり頼む

イシス

こいつどんだけ食うのよ・・・

ルシファー=サタン

おかわり頼む

イシス

少しは遠慮しなさいよ

ネフティス

いいのよイシス。むしろこれだけ美味しそうに食べてくれたら私も作り甲斐があるわ。

ネフティス

それよりもあんた、お酒ばかりじゃなくてご飯もしっかり食べなさい。

イシス

今はちょっと食べる気分じゃないの

ルシファー=サタン

なんだ、酒ばかりで全然食べてないな

イシス

こ、こいつ・・・あんたが私の顔面ぶっ飛ばしてくれたおかげで、歯が折れて食べられないんだっちゅうの!

イシス

うるさい関係ないでしょ

ルシファー=サタン

さっきまで俺と散々やりあってクタクタだろう。食ってスタミナつけとけ

ネフティス

散々ヤッた!?

イシス

言っとくけどあれぐらいじゃ全然疲れてないから。なんならこの後さっきの続きする?今度は私があんたの上ってこと教えてあげる。

ネフティス

さっきの続き!? う、上になる!?

ネフティス

あなたたち、いつの間にそんなに進んでたの・・・

ルシファー=サタン

イシス

ネフティス

でもイシスが無事でよかった、私の代わりに行って、もしも天使様の怒りに触れてしまうのではないかって心配で...

イシス

天使とは話がついたよ。もう生け贄を捧げる必要はないって

ルシファー=サタン

話がついただと? 嘘をつけ、バラバラにぶっ殺してたのはどこのどいつだ?

イシス

うっさいな! 黙っとけよ!

ルシファーとイシスの間にテレパシーが飛び交っているのはネフティスには当然聞こえない。

ルシファー=サタン

しかし、天使相手に挑もうとするのは勇気があるのか無謀なのか

ネフティス

彼女にも色々事情があるのよ

イシス

......

イシスは黙っている。

 



 
そう、私には父親はいない。
母だけがいた。









だけど、
その母は10年前に教会の魔女狩りに捕まり処刑された。








そのとき村長から私の父親が天使だということを聞かされた。







若き日の母を複数の天使たちが無理矢理強姦したそうだ。
その時、母は私を身籠ったという。







私は母を強姦した憎い連中のうちの一人の血を引いている。
父親は誰なのかはわからない。
ひとつわかっているのは、私の血には屑の血が流れていることだけ。







だから私は・・・





天使が許せない!


 



  

 

ルシファー=サタン

なるほど、そういうことか

イシス

ぬぁ!?

頭の中でいきなり話しかけられてビックリするイシス。

イシス

ああああああ、あんた……まさか……!!!

ルシファー=サタン

盗み聞き…いや、盗みテレパシーするつもりはなかったのだが、今のはお前が悪いぞ。テレパシーで繋がってるって言ったろ?それを忘れて勝手に語り始めるもんだから。

イシス

人の過去を勝手にぃぃぃぃ・・・・

イシス

覗き見するな!この変態!!!

ルシファー=サタン

おい!家の中で魔法は・・・

 ぶちギレたイシスはその夜、魔法を放ちまくった。


 

イシス

くーーーくーーーーーzzz

しばらくして、魔力を使い果たしたイシスは疲れて寝てしまった。

ルシファーとネフティスは滅茶苦茶になった家の後かたづけをしていた。

ネフティス

すみません、でもあの子も悪気はないんです

ルシファー=サタン

悪気はないにしても殺す気で魔法をバンバン撃ってきたな

ネフティス

え?


 ネフティスは驚いた顔をしている。

ルシファー=サタン

どうした?

ネフティス

い、いえ、イシスが魔法を使えても驚かないんですね?

ルシファー=サタン

旅をしていれば色々なことを経験してきた。混血だろ

ネフティス

そうですか、外の世界はイシスと同じ境遇の人が多いんですね...


 ネフティスは悲しい目をしていた。
きっとイシスのことを思っているのだろう。
やはり混血種の彼女は色々大変な想いもしてきたに違いない。

ネフティス

あの子は昔から親もいなくて一人ぼっちだったんです。私を姉のように慕ってくれてます


 母親が孕まされて、その母親は魔女狩りで殺されたんだ。子供が背負うには重すぎる過去だ。
そんな世の中が当たり前のように蔓延っているのが、このゼウスが治める世界だ。胸糞が悪い。

ルシファー=サタン

さて、そろそろ俺も寝床に入る。


 そう言うとルシファーはネフティスの家から外に出ようとする。

ネフティス

どちらに?

ルシファー=サタン

年頃の女性が二人いる中に見知らぬ男がいるのは良くなかろう。確か少し離れたところに馬屋があったな。そこを使わせてもらう。

ネフティス

馬屋ですか? あそこには馬はいないものの廃屋になってから全然手入れとかしてないですよ

ルシファー=サタン

構わない、寝れればどこでもいい

そう言ってルシファーはネフティスの家を後にした。




ルシファーは馬小屋まで来て中に入る。
中はネフティスの言うとおり荒れてはいたが、寝れなくはない。

ルシファーは藁をしいて横になるとダーインスレイブが話しかけた。

ルシファー=サタン

さっきのことまだ怒っているのか?

魔剣ダーインスレイブ

・・・・・・・・

ルシファー=サタン

そろそろ機嫌直せ

魔剣ダーインスレイブ

フン、別二モウ終ワッタコトダ

魔剣ダーインスレイブ

ソレヨリナンデコノ村ニ滞在スル必要ガアル。モウ用ハ済ンダロ?

ルシファー=サタン

なんでだろうな…何か引っ掛かる

ベルゼブブ

主よ、それはまだこの村に不穏なものがまだ残っていると、そうお考えなのですか?

ルシファー=サタン

ああ・・・

 ルシファーは違和感を感じていた。

ルシファー=サタン

下級天使は死んだのに負のオーラがまだこの村に残っている。

ベルゼブブ

ひょっとしてイシスという混血の女性。彼女の発する微力な天使のオーラが原因ではないでしょうか?

魔剣ダーインスレイブ

ヤッパリアノ女ヲ殺シトケバヨカッタンダ!今カラデモアノ女ノ血ヲ飲マセロ!!!

ルシファー=サタン

それはなしだと言っただろう。

ルシファーは断言して言う。そう、この感覚はあの混血の女じゃない。もっと別の何かだ。

魔剣ダーインスレイブ

マサカ、アノオテンバ女ニ気デモデキタカ?

ルシファー=サタン

それは笑えない冗談だ

その違和感はわからなかったが、明日もう一度生贄の祭壇を調べることにし、ルシファーは床についた。

???

さぁおいでおいで・・・

ネフティス

・・・・・・・・・・

???

若い女の血をここに・・・



明朝、

誰かが馬屋に入ってくた。
息を殺し、足音を忍ばせ寝ているルシファーの枕元に立つ。その人物はナイフを持っていた。そして・・・

殺気を感じてルシファーは目を覚ますと、目の前にナイフが迫った。

ルシファー=サタン

!!!

ルシファーはナイフをなんとか間一髪で避けた。
ナイフはルシファーの横を掠り、枕にしていた藁を深々と刺している。

???

チッ!!!

ルシファー=サタン

なんのつもりだ...


 ナイフ片手に憎しみの視線を送る人物を見て言った。

ルシファー=サタン

イシス

イシス

・・・・・・・・・・


 ルシファーを殺そうとしてきた人物はイシスだった。

イシス

ネフティスをどこに隠した!

ルシファー=サタン

落ち着け、なんのことだ

イシス

しらばっくれんな!


 イシスはナイフを振り回す。

イシス

お前以外の誰がネフティスを拐うんだよ!

ルシファー=サタン

拐われたのか?

イシス

ネフティスだけじゃない!村の女達全員だ!
昨晩のうちに誰にも気づかれずそんな芸当ができるのは天使しかいない!

ルシファー=サタン

知らん。俺じゃない

イシス

しらばっくれんな!天使のやることはみんなそうだろうが!

ルシファー=サタン

待て誤解だ。もし俺が女達の神隠しをやった犯人なら、犯人が普通ここで呑気に寝てると思うか?

イシス

問答無用!

ルシファー=サタン

ほんと人の話を聞かない女だ。
しかたない、また歯が折れるかもしれないが、もう一度ぶん殴っておとなしくさせるか。



ルシファーはカウンターを狙うように右腕のガントレットでイシスを殴ろうとする。


しかし、ルシファーの拳はイシスの顔面の前で止まる。

イシス

フフン!

ルシファー=サタン

なに?


 よく見ると自分の腕には糸が絡み付いていた。

イシス

同じ手が食らうと思った?御生憎!


 イシスはそう言うとルシファーの顔面をぶん殴った。天使の血を引いてるだけはある。女でありながらも人間よりも腕力がある。

イシス

昨日のお返しだ

拳をつきだしたままイシスは言った。
しかし、ルシファーはそれをまるで蚊に刺された程度にしか感じていなく。平然としていた。

ルシファー=サタン

その程度か?

イシス

くそ!これも効かないのかよ!

イシスはナイフに切り替えて攻めに入る。ルシファーは絡み付いた糸に苦戦しながらもナイフを避け続けた

ルシファー=サタン

鋼鉄線か、厄介だな

絡み付いた糸は丈夫な鋼鉄線でできていて、中々に強力に絡み付いていた。
しかも昨日鎖をぶち切っられたことを学習したようで、御丁寧に鋼鉄線に硬化の魔術も編み込まれている。これを引き千切るのは手こずりそうだ。
 

だが、ルシファーはこんなことをしている場合ではないと思っていた。
 

ルシファー=サタン

一晩で村の女達全員を、誰にも気づかれず連れ出すことなんて普通はできない。もしもできるとすれば天使しかいない。

イシス

てやあああああああ!!!

ルシファー=サタン

現にこのイシスという女だけ無事なのは、きっと魔法に対する抵抗力があったからかからなかったんだろう。

イシス

うりゃあああああああ!!!

ルシファー=サタン

もしや天使は他にもいるのか、いやそれしか考えられない

ルシファー=サタン

となるとあの祭壇が怪しいか・・・

イシス

そいやあああああああ!!!

イシス

はぁ、はぁ・・・くっそ、なんで当たらないの!?

ルシファー=サタン

それを頭に血が昇っているこの娘に説明しても聞く耳持たないだろう。そして俺の予想が正しければ、拐われたネフティスと他の女達の命が危ない。

ルシファー=サタン

しかたない、魔力の消費が激しいが時空間転移魔法をするしかないか。

ルシファーはイシスを相手にせず、時空間転移魔法を発動させると、黒い羽根を周囲に撒き散らして忽然と消えた。

イシス

なっ!?

 困惑するイシスを余所に、ルシファーは生け贄の祭壇に向かった。

ベルゼブブ

主よ、祭壇のほうで禍々しいオーラを感じます。

ルシファー=サタン

ああ、そうだな。生け贄の儀式はまだ終わっていない

生贄の村と魔女   第三節 混血のイシス

facebook twitter
pagetop