【パルコ山】

昨日に引き続き、ルシファーは再びパルコ山に登っていた。

魔剣ダーインスレイブ

マタ足ヲ滑ラセタラ笑エルナww

ルシファー=サタン

ここからまた落ちるのは二度とごめんだ

 昨日落ちた場所を慎重に進んで無事に抜けた。
ルシファーはホッと一息ついて山を見上げる。天使の遣いが住んでいるという頂上を見た。

ルシファー=サタン

あともう少しか…

 頂上には雨雲が拡がっていた。
また雨が降る前にと、ルシファーは頂上まで急いだ。


【パルコ山 頂上】

 天使の遣いとやらが住むという山の頂上付近まで着くと、頂上には雨雲が拡がっていた。

天使の遣い?

我が炎よ、天上より降りし恵みの雫を霧散せよ!!!

そこにいた怪しい人物が雨雲に向かって炎をぶつけた。

すると雨雲は炎によって四散し、さっきまで降っていた雨は一瞬で気化し霧になった。

ルシファー=サタン

なるほど火の魔法で雨雲を気化させて村から雨を奪っていたのか。


 背後から声をかけられ驚く天使の遣い。

天使の遣い?

な、貴様! 何者だ!

ルシファー=サタン

俺のことはどうでもいい。
お前が天使の遣いという奴だな。

 しかし、妙だ。まさかこいつは…

魔剣ダーインスレイブ

ルシファー、コイツハ…

ルシファー=サタン

ああ、今俺も同じこと思っていたんだ。そこのお前! お前天使じゃないな。

 天使特有の羽根もなければ、天使が発するオーラも感じられない。

ルシファーはこの男の正体を看破する。

ルシファー=サタン

大方妖術士あたりか。伯爵が金を寄越さないから腹いせで今やったように村から雨を奪ったな

 

妖術師

よくわかったな。ああ、そうさ! 
俺が雨を奪っていたのさ! 大体あの伯爵が悪いんだ。素直に金さえ払ってればこんな目に遭わなかったろうに

天使の遣いの正体は妖術士だった。
妖術士は憎そうに言ってきた。

ルシファー=サタン

逆恨みか、醜いな

妖術師

俺を妖術士と見破った貴様も只者ではないな! お前は何者だ!

ルシファー=サタン

外道に名乗る名前はない


 バッサリと妖術士の質問を切るルシファー。

妖術師

生意気な、どのみちお前は見てはならないものを見てしまった。生きて山を降りてこられると思うな!

 妖術士は杖を構える。
放たれる殺気からしてやる気満々のようだった。

ルシファー=サタン

お前が見た目通りのクズでよかった

妖術師

あん?


 ルシファーも剣の柄に手を置いて構える。妖術士の殺気を涼しげに受け流していた。

ルシファー=サタン

遠慮しないで斬れる


 そして、ルシファーは魔剣を鞘から抜いた。
それを見た妖術士は戦闘態勢に入る。

妖術師

炎よ! 敵を焼き払え!


 妖術士から放たれた火の玉。
それをルシファーは剣で一閃する。

妖術師

バカな!俺の炎を剣で切り払っただと!?

魔剣ダーインスレイブ

アチイイイ!!!

ルシファー=サタン

我慢しろ

熱がる魔剣も珍しいがそんなことに構ってる暇はない。

妖術師

チッ!!!

 妖術士は魔法を弾かれたことに面を喰らったが、すぐに敵がかなりの手練れだと察すると、冷静になり敵と距離を置きながら次々と火の玉の弾幕をルシファーに向けて放ってくる。

それをなんなく撃ち落とす。

魔剣ダーインスレイブ

アチイイイ! アチイイイ! テメエ、ルシファー!

ルシファー=サタン

なるほど、少しは戦いを心得ているらしい。

魔法とは遠距離だからこそ力を発揮できる。


魔法を使う相手にはとことん近づき接近戦に持ち込むのがセオリーだが、妖術士に近づこうと一歩進むことに、妖術士は二歩下がり距離を取ってくる。
 

ルシファー=サタン

これでは埒があかないな。

ルシファーは黒い片翼を拡げると、大きく羽ばたかせた。それが推進力となり妖術士の元へ一気に飛んだ。

妖術師

馬鹿め! くらえい!

 巨大な火の玉を放ちむかえうつ妖術士。


炎の玉の射線上のため、一直線に飛び込んだルシファーは避けられない。


しかしルシファーは火の玉に怯むことなく突っ込む。

ルシファー=サタン

ぐっ!!!

だがこれが正解だった。あえて高速で突き進んだ方がダメージは少なくてすむ。

自身を焼きながらも火の玉を抜けて妖術士の懐まで接近した。

妖術師

なっ!?

ルシファー=サタン

死ね


 ルシファーは大剣を横一文字に振り、妖術士の胴体を真っ二つに斬り裂いた。

妖術師

ぎゃああああああああ!!!


 断末魔をあげる妖術士。
若干軽い火傷を負っただけでルシファーにとっては敵じゃない相手だった。

ルシファー=サタン

お前の魔力は下の下、見習いレベル以下だ。だが、この前のブタ野郎よりかはマシだがな

妖術師

ぎゃああああああああ!!!

 妖術師の傷は致命傷だった。
胴体を切断されたら生きてはいられない。

村を5年間も苦しめた妖術師の最後にしては呆気ない幕引きだったが、
これでこの地には雨が降るようになるだろう。

妖術師

ぐふっ……黒い片翼…そうか…お前が噂のレイヴンか…

ルシファー=サタン

こいつ、まだ生きてるのか

魔剣ダーインスレイブ

コイツ混血種ダ。薄イガ天使ノ血ノ味ガスルゼ

ルシファー=サタン

ハーフか・・・

 天使と人間の間に産まれる子供のことだ。
そういうのは珍しくはない。


天使が地上に降りて、若い人間の女を無理矢理強姦し孕ませるのは日常茶飯事のことだ。


愛することは許されないが、孕ませることは許される。


何故なら天使にとって人間とは性処理のための玩具と同じだから、胸糞悪い話だ。


無論、混血児は人間と天使の両方から気味悪がられる。だから迫害の対象にされやすい。


多勢いる人間は、少数にはとことん見下し虐げる。
少数派である混血児ほど、
誰からも愛を知らずして大人になる者も多い。
大抵は悪事に手を染める。


主に妖術士、呪術士、魔女も混血種の場合が多い。天使の血を引いてるため、弱い魔法だけなら充分行使できる。この妖術士もそうなんだろう。

妖術師

あの悪名だかいレイヴンの正体がまさか天使だったとはな…ゲホッ!

ルシファー=サタン

元だ。今はただの復讐者だ

妖術師

俺はあんたのファンだったんだぜ…
ひっひっひ、俺らは神を呪い、天使を憎む者同士なのに、あんたがなんで同類の俺を殺す?

ルシファー=サタン

一緒にするなクズが

妖術師

いや、同じさ…同じアウトローだからわかるのさ、お前も俺も…自分の手は血で汚れてる

 激しく血反吐を撒き散らす妖術士、
いくら天使の血が混じっていても致命傷にかわりない。胴体が真っ二つな時点で長くはないだろう。

しぶといが故に命が尽きるまで苦痛を味わなければならない。

妖術師

ひひっ、俺を殺したからっていい気になるなよ…今頃村の連中は憎悪に燃えてあの伯爵の屋敷に出向いて殺しに行ってるだろうぜ

ルシファー=サタン

何?

妖術師

散々俺が煽りに煽ってやったからな! 馬鹿な奴等だ! なんも関係ない伯爵をなぶり殺そうとすんだからさ!


 こいつの話が本当なら伯爵とベールの身が危ない。
ルシファーは振り返り山を降りようとする。

魔剣ダーインスレイブ

オイ、トドメヲ刺サナイノカヨ?

ルシファー=サタン

必要ない。ほっといてもこいつはそのうち死ぬ

魔剣ダーインスレイブ

チッ、混ザリモンダガセッカク天使ノ血ガ吸エルト思ッタノニヨ

 五年もの間、伯爵や村人を苦しめたんだ。
あと数分の命、それが尽きるまで後悔し懺悔しながら苦しんで死ねばいい。


立ち去ろうとするルシファーに向かって妖術士は叫ぶ。

妖術師

人間ほど醜い生き物はこの世にいない。奴等も本当は伯爵が悪いだなんて思ってないのさ!だからお人好しの人間に八つ当たりしたくなるのさ!全ての鬱憤をはらそうとするのさ!ただの逆恨みさ!


 妖術士の捨て台詞を無視してルシファーは下山した。

妖術師

ひ......ひひっ......


 妖術士だけが取り残される。
血が拡がり、血だまりの中で妖術士はむせび泣いた。

妖術師

いでぇよぉ......いでぇよぉお...


妖術士の体から血の気が引いていく。

妖術師

ごろじでぐでよ......ごろじでぐでよぉ......怖い...怖いよぉ...


段々痛みが麻痺して、体が鈍くなる。

妖術師

ごろじで...ぐ.........で......


妖術士はそのまま動かなくなった。

暴食のベルゼブブ  第三節 飢饉の元凶

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