ミカル姐さんの家を出た僕は、
あてもなく夜の荒野をさまよった。

どこにも行く場所なんてないことは分かってる。
だけど、あの家にいると気が狂いそうだ。

この世界に一人で旅をするよりも
もっと辛いことがあるなんて知らなかった!

エリファズ

・・・・。

気が付くと、僕は無意識にピスガの頂を登っていた。

無理もない。この4年3か月、
寝ても覚めてもずっと追い求めていた山なんだ・・・
頭では分かっていても、
無意識に体はそちらに向かってしまうのだろう

僕はそのまま何も考えず、山を登り切ると、
アロンの杖のあった祠の前に座って・・・

ぼんやりと真っ暗な空を見つめていた。

どれくらいたっただろう・・・・。

気が付くと、東の地平線が白く光っていた!

エリファズ

もう朝か・・・・

エリファズ

ミカル姐さんに心配をかけてしまったなあ・・・

エリファズ

それにしてもここからの夜明けは美しいな・・・

ピスガの頂からの日の出はまさに絶景だった!
古来より神聖な山として信仰されてきただけのことはある。

エリファズ

この景色・・・ラケルや母さんにも見せてやりたかったな・・・

エリファズ

でももう二人には会えないだろうな・・・

エリファズ

ラケル・・・済まない・・ダメな兄ちゃんを許してくれ・・・

エリファズ

お前の病も代われるものなら代わってやるのに・・・

僕は何気なく東の地平線を見た。
奇跡が起きたのはその時だった!!

エリファズ

えっ?・・・あ、あの教会の塔は・・・!

エリファズ

ま、まさか・・・。そんなことが・・・!

エリファズ

なんてことだ!!
そうだったのか!!

僕は、ピスガの頂を駆け下りて
ミカル姐さんの家に戻った!

ミカル姐さんは部屋のテーブルで顔をうずめて眠っていた。
どうやら僕を待っている間に眠ってしまったらしい。

エリファズ

ミカル姐さん!起きてください!大変です!

ミカル

うーん・・・。何、エリファズ?

エリファズ

大変です!起きてください!

ミカル

な、なによ!朝っぱらから大声で!元はといえばあんたが飛び出していったのが悪いんでしょ!!

エリファズ

ごめんなさい!確かにその通りですね・・・

エリファズ

でも!今はそんなこと言ってる場合じゃないんですっ!!

ミカル

何?朝っぱらから一体どうしちゃったの?

エリファズ

1日でレヴァントに戻る道を見つけたんです!!

ミカル

エリファズ・・・。あんた・・・

ミカル

絶望のあまりおかしくなったのね・・・。かわいそうに・・・

エリファズ

違います!僕とピスガの頂に来てみてください!そうすれば分かります!

ミカル

はいはい。分かったわ!それで気が済むなら付き合いますよ

僕は、ミカル姐さんの手を引っ張って
ピスガの頂に連れて行った!

ピスガの頂の空は澄み渡り、
山のさわやかな風が流れてきた。
ほんの2年前に、ここでドラゴンと
死闘が繰り広げられていたなんて・・・。
僕にはとても信じられなかった!

ミカル

2年ぶりね・・・。ここに来るのは・・・

ミカル

実は・・・私ね・・・仲間を見捨てて先に逃げたの・・・

ミカル

ドラゴンを倒せたのは、遠征隊のみんなが私が逃げた後に自爆したからよ

エリファズ

そうだったんですか・・・

ミカル

ハハハ・・・何で私みたいに最低なのが最後まで生き残ってるのかしら・・・

エリファズ

ミカル姐さん・・・

エリファズ

すみませんが・・・僕は姐さんのそんな話を聞きに来たわけじゃありません!

エリファズ

レヴァントの村へ戻る道を見て欲しいんです!

ミカル

そうね・・・

ミカル

そうだったわね・・・じゃ・・・

ミカル

見せてもらおうかしら!レヴァントへ戻る道とやらを!!

エリファズ

はいっ!ここから東の方をご覧ください!

ミカル

はぁ?東?西でしょ!私たちは西から来たのよ!!あんた頭、大丈夫?

エリファズ

そうです!僕らが来たのは西です。
ですが・・・東です!!

ミカル

何言ってるの?そんなことが・・・あるわけ・・・

ミカル

な・・・なんで!!

ミカル

何で村の教会の尖塔が見えるのよっ!!

エリファズ

それは・・・

エリファズ

この世界が丸いってことは前から知られていました・・・

エリファズ

でも誰もどれくらいの大きさか分からなかった・・・

エリファズ

どうやらこの世界は・・・4年程で回れるくらいの大きさだったようなのです

ミカル

じゃ、東の果てというのは・・・

ミカル

村から少し西に行ったところだったのね・・・

エリファズ

レヴァントの村の西には、凶悪なモンスターの住む深い森が広がっています。村人なら誰一人として、その先に行こうなんて思いません。

ミカル

そうよね・・・。私もそう思ってたわ。

エリファズ

もちろん僕もそうです!だからここに登るまで、全くそのことに気づきませんでした!

ミカル

何てことかしら・・・どれだけの時間がムダになったんだろう・・・

エリファズ

・・・それを言うのはやめませんか?

エリファズ

たとえ僕たちが西に行こうと言ったところで、村のみんなは誰も信じなかったでしょう・・・

エリファズ

それに・・・

エリファズ

僕らが村を出た頃のレべルじゃ、とてもあの深い森を抜けることはできません・・・

エリファズ

だから、僕らにはやっぱりこの道しかなかったんですよ!

ミカル

そうね・・・そう考えましょう!!

ミカル

よしっ!荷物をまとめたらすぐに出発するわよ!

エリファズ

はいっ!了解です!

こうして僕とミカル姐さんはピスガの頂を降りると
大急ぎで荷物をまとめ、東へと向かった!
そしてその晩・・・

4年3か月ぶりにレヴァントの村にたどり着いた!

エリファズ

ラケル!!ラケルはいるかっ?

ラケル

お兄ちゃん・・・

エリファズの母

エリファズ!!戻ってきたんだね!!

エリファズ

ああ、やったよ母さん!!アロンの杖を手に入れたよ!!

エリファズの母

そうかい!よくやった!!これで村は救われたよ!

ラケル

ありがとう・・・お兄ちゃん!!

こうして、アロンの杖の力で
村を襲った悪疫は一掃され
僕の4年3か月の旅は終わった・・・!

虹の彼方に(下)

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