3日後、僕はピスガの頂に続く道の途中にいた。
ミカル姐さんの言うとおり、なだらかな山道がどこまでも続く。

エリファズ

よし、待ってろよドラゴン!!

不安がないといえばウソになる!
だが、ここで弱気になる訳にはいかない!
この山の先に、4年3か月
ずっと探し求めていたアロンの杖があるのだから!

エリファズ

ラケル、もう少しの辛抱だぞ!兄ちゃんが何とかしてやるからな!

僕は、故郷にいる妹のラケルと老いた母のことを思い出していた。

ラケル

お兄ちゃん、早く戻ってきて!!

エリファズの母

気を付けていくのよ!!

悪疫に罹った父を看病したせいで、妹のラケルまでも感染してしまったのだった・・・。

母とラケルを残して旅に出るのは忍びなかった・・・。
だが、このままでは確実にラケルの命はない!

そう考えて、僕は第4次遠征隊に志願したのだった。

もしかしたら、既に母とラケルもこの世にはいないかもしれない・・・。
だが、僕の働きで村のみんなが助かるのなら・・・

これまでの旅は無駄にはならない!
そう考えて、僕は必死にピスガの頂を登っていった!

エリファズ

よし、あと少しで頂上だ!!行くぞ!!

残りの山道を一気に駆け上り、
僕はついにピスガの頂へと出た!!

だが、そこにあったのは思いもがけない光景だった!

エリファズ

な・・・何だこれは!!

そこには、巨大な動物の骨と、それを囲む何体かの人骨があった。
さらに・・・その奥の祠には・・・

エリファズ

あ、あれは・・・

あの紫色の宝玉は・・・間違いない!
探し求めていたアロンの杖が、無造作に転がっていた!

思いがけず、僕は何の苦労もなくアロンの杖を手に入れてしまった!!

アロンの杖さえ手に入れば、こんな岩山に長居は無用だ!
僕は、湧き上がる疑問を抑えつつ一目散にミカル姐さんの家へ戻った!!

エリファズ

ただいま戻りました~!!

ミカル

おかえりなさい!!

エリファズ

やりました!!このとおり、アロンの杖を手に入れました!!

ミカル

本当だ!!やったわね!

エリファズ

はい!これで村は救われます・・・
ですが・・・

僕は思い切って、ミカル姐さんにピスガの頂から
ここに来るまで、ずっと抱いていた疑問を投げかけた。

エリファズ

ミカル姐さん・・・

エリファズ

ピスガの頂には、ドラゴンの骨と人骨しかありませんでした・・・。あの人骨は第3次遠征隊の方のものですよね?

エリファズ

もしかして・・・

エリファズ

本当はミカル姐さんは・・・

エリファズ

ずっと前にドラゴンを倒していたんじゃないんでしょうか?

ミカル

・・・・

ミカル

そうよ・・・私は2年前にドラゴンを倒してるわ・・・

ミカル

何とかピスガの頂までたどり着いた、他の第3次遠征隊の5人の命と引き換えにね!

エリファズ

だったら・・・だったらなぜ・・・

エリファズ

こんなところにずっと留まっているんですか!!

エリファズ

アロンの杖さえ手に入れれば、もうここに長居は無用でしょう!
こんなところに一人残って、いったい何をしているんですか?

エリファズ

今、村がどんな状況か分かってるんですか?村のみんなは、誰もが僕らの帰りも待ちわびてるんですよ!

こんな裏切りがあっていいのだろうか!!
誰よりもレヴァントの村のことを考えていたミカル姐さんが・・・

アロンの杖を手に入れてもなお、
悪疫を恐れて一人
こんな辺境に留まっているなんて・・・

助けを待ちながら
死んだ村のみんなや、犠牲となった
第3次遠征隊の仲間たちのことを
ミカル姐さんは、一体どう思っているのだろう?

僕は、怒りのあまり全身が震えていた。
ミカル姐さんは、そんな僕を黙って見つめていた。

と、ふいにミカル姐さんが僕に問いかけた。

ミカル

何人で来たの?

エリファズ

は?

ミカル

第4次遠征隊は、何人で村を出発したの?

エリファズ

よ、47人です・・・それが何か?

ミカル

そう。私たちのときは38人だから・・・
それよりもまた増えてるのね・・・

エリファズ

あの・・・何が言いたいのでしょう?

ミカル

あんたには、往きの47倍強くなったっていう自信あるの?

エリファズ

あっ・・・!!

何ということだろう!!
僕はアロンの杖を手に入れることに頭がいっぱいで・・・

帰りの行程について何の考えも持っていなかった!!

この世界には、都合のいい魔法なんてない!
4年3か月かけてたどり着いた場所から戻るには、
当然ながら4年3か月の年月が必要だ。

そしてこれもまた当然ながら・・・
ここに来るまでに遭遇した凶悪なモンスター達とも再び戦わなければならない!!

往きは大人数で数に任せて仕留めたモンスター達を・・・帰りは僕たちたった2人で全て倒さなければならないのだ!!

いくらこの旅を通して、僕の剣の腕が飛躍的に上がっているとしても・・・

今、村の屈強な若者47人と戦って勝つ自信は全くない・・・

つまり、レヴァントの村にたどり着ける望みはほとんどない!!

ミカル

フフ、ようやく私がここに留まってる理由が分かったみたいね・・・

エリファズ

そ、そんな・・・僕はどうしたらいいんですか

ミカル

残念だけど・・・どうしようもないわね

ミカル

幸いこの家の周りには凶悪なモンスターは現れないけど・・・

ミカル

半日も歩けば、もうあのドラゴン並みの怪物がうようよしてるわ!

エリファズ

そうですか・・・

認めたくないが・・・ミカル姐さんのいうことは本当だろう。
なぜなら、僕がミカル姐さんの家を見つける直前の一週間は、それまでになく凶暴なモンスター相手に毎日死を覚悟する日々だったのだ・・・。

エリファズ

そんな・・・せっかくアロンの杖を手に入れたのに・・・

ミカル

で、でも・・・まだ希望はあるわ・・・

ミカル

この辺りは気候が温暖だから、2人で暮らす位なら十分な食料が手に入るの!

ミカル

今の私たちの実力なら5、6人でパーティーを組めれさえすれば、誰か1人くらいは村に辿りつけるはず・・・

ミカル

だから・・・焦らず次の遠征隊が来るのを待ちましょう!

思いがけず、助けに行くはずが助けを待つ立場になってしまった・・・。
本当に運命とは皮肉なものだ!

エリファズ

くそッ!!こんなバカなことがあるかっ!!

僕もミカル姐さんのいうことが正しいと頭では分かっている。
でも到底納得できなかった!
僕は、ミカル姐さんの家を飛び出した!!

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