なぁ、

なんだい?

なんでさっきの話から、ここに来ることに繋がったんだ?

彼女に“付喪神”から避けるようになった原因でもある過去を語った俺は、その中で彼女に「付喪神は姉を陥れる為に俺を利用した」と言われ、本当は何があったのか隠された真相を知る彼女に姉の自殺の裏側を話してもらうことになった。が……
ここは確か――…俺と彼女が最初に出逢った場所だ。

もしかして、ここと何か関係があるのか?

…そう。ここはかつて君の知る“付喪神”が生まれた場所

………

あの子が…生まれた…

…そういや、あの子が何の器物だったのか聞いてなかったな

……知りたい?

勿体ぶるなよ。敵(かたき)相手のことに興味なんか示せるわけないだろ

…敵…か。そうだね、君にとって彼女は敵だ。君にとっては、ね

…?

やけに意味ありげな言い方に少し困惑する。
言い過ぎた表し方だっただろうか?いや、あの子は間違いなく俺の敵(かたき)だ。忘れることのない傷を与え、そして俺を利用して大切な姉を奪っていった卑怯者。俺は無意識にぐっと拳を握った。彼女にそれが伝わったのだろうか、彼女は一瞬だけ切ない顔をした。…ような、気がする。

質問に、答えてなかったね。彼女はね、元は人形だったんだ

人形…

確かに、俺も最初、あの子を見た時は人形のように白い肌だと驚いていた。まさか本当に人形だとは思いもしなかったが。

元が人形の付喪神は多いんだ。主人によっては名前もつけて、服も着せ替えて、寝るまで一緒ってくらい愛されるものもある。だから「恩返しをしたい。動けるようになれば、人間になれればいいのに」って願いが強く出来る。そうして生まれるのが付喪神だ。

じゃあ、あの子も愛されてたから付喪神になったんじゃないのか?

そうだ、愛されていた。さっき言ったように名前もつけて、服も着せ替えて、寝るまで一緒に過ごしてくれていたんだ、あの子の主人は

なら、どうして…

捨てたんだ

捨てた――…その一言で、俺はある出来事を思い出した。

昔、姉が語ったことがある。

こら、尊くん、ちゃんとこのお人形さん片付けないと泣いちゃうよ

人形は人形だから泣かないよ

ううん、泣くの。お人形さんにも心はあるんだよ?尊くんが大切に、大切に育てるほどお人形さんは幸せな気持ちでいっぱいになるし、雑にしていると悲しい気持ちになるの。お人形さんは怒れないし泣けないから、どこにも気持ちをぶつけられないんだよ

…姉ちゃん…ごめんなさい

いいの。次からは大切にしてあげてね。私みたいに後悔させちゃダメだよ

後悔?

なんでもないの。ほら、一緒に片付けよう

それからすぐ、姉は自殺した。今になってみれば、あの時の姉の様子はおかしかったんだ。

尊くん?

ああ、いや、何でもない。話を続けてくれ

…捨てた、といっても捨てたのは持ち主本人じゃないんだ。
引っ越しに乗じて、持ち主である子が大人になるよう「こんな玩具は捨てなさい」と両親が捨てた。
だがそれを彼女は納得しなかった。持ち主のせいだ、もっと護ってくれたら、もっと探してくれていたらって持ち主を恨んだ。恨んだ結果、それが想いと捉えられ、彼女は付喪神になり、そして“復讐”を選んだ。

じゃあやっぱり、彼女の持ち主は姉だったんだな

……ああ。あの付喪神の元の持ち主は、君のお姉さんだ

多分そうなんじゃないかと思っていた。姉の話を思い出したのもそうだが、この話を渋るということは、姉の…いや、俺の両親の悪い話を聞かせたくなかったんだろう。

…姉ちゃんは悪くない。…俺の両親も

そうだ。君のお姉さんが悪いわけじゃない。ただ、人形という玩具の想いを、君の両親は分かっていなかった…というだけだ

昔の俺なら両親が許せなかっただろう。姉が自殺したのも、あの子と出会ってしまったのも、あの子と姉を会わせたのも全部、両親のせいにしていた。

でも今の俺はそんなに子供じゃない。それなりに両親が忙しいのは理解しているし、両親の性格も分かっている。そういうものなんだと思っている。ただ、それで好きになれるかと言われれば話は別だが。

どう?

どうって…

全てが知りたかったんだろう?全てを知った今、あの事件の裏側はもうない。あとは、君の知っている通りだ

………

…どうした?

姉が自殺するほどまでに追い込まれた事件。
俺がずっと心の枷にしていた、トラウマでもあるこの事件の真相は、こんなにもあっさりと紐解かれてしまった。
ずっと知りたかったことなのに、この心の穴は埋まらない。それどころか前より深く掘られたような、そんな気分だった。

納得いかない、か?

…ああ

君は、ずっと心に抱えてきたものだものな。受け入れるには時間がかかるかもしれない

…そういうもんなんだろうな

自分で言っておきながらまるで他人事のようだ、と思った。いや…実際はまだ“他人事”なのかもしれない。自分自身が、受け入れられていないのかもしれない。

…俺はまだ、このことに納得してない

だが、これが真実だ

そうだとしても、この事件がそもそもなぜ起きたのか、考えたいんだ

そもそもって…それは君のお姉さんが…

それは“姉ちゃんの場合”だ。ひとつの例にしか過ぎない。実際はもっと酷い事件だってあるんだろう?

…なぜ、それを…

だから“付喪神を取り締まってくれ”なんて協力する望みの薄い俺に役目を与えにやって来た。俺が付喪神と関わることができる存在だから

全部、お見通しか

彼女は苦笑した。もう手がないなあ、なんて言いながら上を見上げた。

君には完敗だ。…傷を掘り返すようなことをして、ごめんなさい

彼女は俺に向き直ると、大きく頭を下げた。
普段は高圧的な態度を見せる彼女がそうやって頭を下げる姿は、見ていてとてもむずがゆかった。

やめろよ。あんたが悪いわけじゃない

いや、私があんな姿になって嫌でも傷を掘り返したんだ。…でも、君に真実が話せて良かったと思ってる。それだけでもここに降りた甲斐があったよ。……ありがとう、尊くん

…?

君は平穏な日常を過ごしてくれ。…さようなら

そして、俺に背を向けて歩き出そうと――

いやいやいやいや

させるわけないだろう。俺は歩きかけた彼女の腕を掴んだ。

え?いやだってもう私がすることは…

ちょっと待て。なんで帰りかけてこの話終わらそうとしてるんだ

え?違うのか?来週からは何松さんが始まるんだろう?

バッカここはアニメじゃねーよ!何松さんも来週で終わりだよ!!作者が嘆き悲しみながら今PCカタカタしてんだよ!!

作者も大変だなあ…深夜に一人で何松さんを想いながらPCカタカタしてるのかぁ…

いやこの作品と何松さん関係ないからあんま何松さんって言うなよ!?これから読み続けてもパーカー着たニートで童貞な六つ子なんて出ないからな!!作者が血迷わない限り出ないからな!!ていうか出さない!そんなキャラクター出てきてもガンスルー決めるから!!!

…いま君が登場フラグを作ったぞ

それが決定的なフラグになるんだよ!!!もうやめろあんまり表情豊富じゃないんだからこれ以上ギャグに走らせんな!!!

で?どうして君は私を引き留めたんだ。平穏な日常を暮らしたいんだろう?パーカーを着て童貞を決め込んで分身したいんだろう?

くっそめっちゃ否定したい…だがこれ以上ツッコむと収集つかなくなる…ここはスルーだ…

確かに、俺は平穏を求める普通の男子高校生だ。いや…普通の男子高校生のフリをしていた

でも実際のところ俺は逃げていただけだったんだ。視えるのに視えないフリをして、普通であることが一番だと思っていた。関わらないこと、それが俺も、他の人も、誰も傷つかない。

でも、本当は違うのかもしれない

違う…って?

姉ちゃんは、付喪神が視えないのにあの子が視えていた。ということは、器物の時に関わっていた人物は視えることがある…そうだろ?

ああ、そうだ

それじゃあ、あの子みたいにそれを悪用する付喪神もいるってことだ。姉ちゃんみたいに、追い詰められる人も。

…これからそうなるかもしれない人を救いたい…なんて偽善なことは言わない。俺はただ、知りたいだけだ。付喪神が本当はどういうものなのか、何を想って、この世を彷徨っているのか

尊くん、それって…

ああ――やってやるよ、その“与えられた役目”を。

-プロローグ07-「知りたいだけ」

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