4年3か月・・・

僕が故郷のレヴァントを離れてから
もう4年3か月の歳月が流れた。

故郷の村を襲った悪疫を打ち払うただ一つの方法。
それは、東の果てにあるピスガの頂に刺さった「アロンの杖」を持ち帰ることだった。

ともにピスガの頂を目指した村の仲間たちは、
荒野をさまよう醜悪なモンスターの前に
一人・・・また一人と倒れ、
今では旅を続けるのは僕一人となっていた。

エリファズ

おかしい・・・地図の上じゃ・・・もう少しでピスガの山が見えるはずなのに・・・

エリファズ

どこまで行っても荒野ばかりだ・・・

と、そのとき途方に暮れる僕の前に、
一軒のひなびた家が姿を現した。

エリファズ

あんなところに家があるぞ・・・

エリファズ

誰かがいるかもしれない!

僕は、残る力を振り絞ってその家へと歩みを進めた!

エリファズ

驚いた!こんなところに家があるなんて!

エリファズ

でも、ここなら少し休ませてもらえそうだ!

エリファズ

ごめんくださーい!!

ミカル

はーい!!

エリファズ

ええっ!!

僕はそのとき、
驚きのあまり息が止まりそうになった!!

そこに現れた女の人が、
ミカル姐さんだったからだ!!

ミカル姐さんは、僕の家の二軒先。
鍛冶屋のヨセフさんの娘だ。

男勝りの気の強い女の人で
いじめられっ子だった小さい頃の僕を
まるで本当の弟のように可愛がってくれた!

それだけでなく、僕に剣術の基本も教えてくれた。
まさに師匠といってもいい存在。
それがミカル姐さんだ!

ミカル姐さんは僕が村を離れる2年前、
第3次遠征隊として
アロンの杖を探しに旅立っていた!

2年たっても第3次遠征隊は、
誰一人として戻ってこなかった。
全滅したと思われた。

だから、僕たちの第4次遠征隊が組織されたのだ!
それなのに、ミカル姐さんが生きていたなんて!

こんなにうれしいことはない!!
ミカル姐さんが一緒なら必ずアロンの杖を
手に入れることができる!!

そう思った僕は、興奮のあまり上ずった声で
ミカル姐さんに話しかけた!

エリファズ

ミカル姐さん!!お久しぶりです。僕です!エリファズですっ!!

ミカル

エリファズ・・・あんた本当にエリファズなの?

エリファズ

そうです!!エリファズです!まさかこんなところで会えるなんて!!

ミカル

本当、しばらく見ないうちに大きくなったわね!

エリファズ

はい!そりゃここに来るまでにいろいろありましたからね!!

ミカル

まあ、いいわ。話は中でゆっくり聞きましょう!

そういうと、ミカル姐さんは家の中に案内してくれた

ミカル姐さんの家は、狭いながらも
手入れの行き届いた
清廉な雰囲気の漂う室内だった。

でも、明るく社交的だったミカル姐さんが
どうしてこんな所で一人で暮らしているのだろう?

僕は何だか少し胸騒ぎがしてきた・・・。

ミカル

長旅で疲れたでしょう!しばらくゆっくりしていくといいわ!まあお茶でも飲んだら?

エリファズ

はい、紅茶でもあればうれしいです!

ミカル

分かったわ!それにしても本当に久しぶりね・・・ヨブやビルダトはまだ元気にしてるの?

エリファズ

あの二人は・・・旅の途中で魔物の犠牲に・・・

ミカル

あ、そうなの・・・ごめんなさいね・・・

エリファズ

いいえ。ところで第3次遠征隊の他の人たちは?ヨハネさんとか?

ミカル

え、あ・・・それね・・・

ミカル

全滅したわ・・・。ピスガの頂でアロンの杖を守るドラゴンに食われたの

エリファズ

そうだったんですか・・・

聞かなければよかった・・・
僕は心の底から後悔した。

だけど、第3次遠征隊はアロンの杖の前まで到達できたんだ!
それならば・・・僕とミカル姐さんの二人なら・・・
アロンの杖を手に入れることもできるかもしれない!

僕は、意を決してミカル姐さんにお願いした!

エリファズ

ミカル姐さん・・・。姐さん一人ならドラゴンを倒すのは難しいかもしれませんが・・・僕と二人がかりなら・・・

エリファズ

ドラゴンを倒すことも不可能ではありません!!

エリファズ

一緒に戦ってドラゴンを倒し、アロンの杖を手に入れて村に帰りましょう!!

エリファズ

大丈夫!!僕らならできますよ!!

ミカル

ええっ!!そんな・・・

ミカル

それは・・・

エリファズ

ダメなんですか・・・

ミカル

ごめんなさい・・・私、もうピスガの頂には登れないわ・・・

エリファズ

どうして・・・

予想もしない反応に僕はまたしても驚かされた!
どんなことがあっても絶対に諦めないのがミカル姐さんだったのに・・・

エリファズ

僕の腕を疑ってるなら試してみてもいいですよ!悪いけど、今の僕ならミカル姐さんとも互角に戦えます!!

ミカル

違うの・・・そうじゃないの・・・

エリファズ

じゃあ何なんですか?こうしている間にも多くの村人が死んでいるのに・・・どうしてこんなところで?

エリファズ

あ、もしかしてドラゴンの呪いですか!

僕はドラゴンの呪いのことを思い出した!
ドラゴンの中には、敵に呪いをかけることで、
敵が近くに寄っただけで
その命を奪うことができるものがいるらしい!

ミカル姐さんがドラゴンの呪いにかけられたとしたら・・・全てが納得できる。
ドラゴンのそばに近寄るだけで死んでしまうのであれば、アロンの杖を手に入れることはできない。

きっと責任感の強いミカル姐さんのことだ。
それでも諦めて村に戻ることなく、この家に留まってアロンの杖を手に入れる方法を探していたのだろう!

エリファズ

ああそうか!そういうことですね・・・ドラゴンの呪いのことを忘れていました!!

エリファズ

それならば僕一人でドラゴンを倒してアロンの杖を持って戻ります!

エリファズ

心配なら無用です!!ここ半年はずっと一人旅だったんで、むしろ集団戦法を忘れてしまったくらいです!

ミカル

え・・・そうなの・・・それは頼もしいわね・・

エリファズ

はい、それでピスガの頂にはどうやって登ればいいのですか?

ミカル

ここからもう少し東に行ったところね。それほど険しくはないから半日もあれば登れるわ!

ミカル

でも焦りは禁物よ!ここで、もう2,3日ゆっくりしていって旅の疲れをいやしてから行くといいわ!

エリファズ

はい!それじゃお言葉に甘えて休ませていただきます!

こうして僕はミカル姐さんの家に泊まらせてもらうことになった!

虹の彼方に(上)

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