とめ蔵

目、開けていいですよ


とめ蔵の声にお絹は、ゆっくりと目を開ける。

お絹

まぁ!

お絹は驚嘆した。

目の前にとめ蔵の小屋はなく、そこには美しい大木がそびえていた。

お絹

......

荘厳な気配を漂わせる窓の付いた木の家。
お絹はうっとりとそれを見上げた。体が雨に濡れても、いっこうに気にならなかった。

そんなお絹をよそに、とめ蔵は大木の下からおもむろに叫ぶ。

とめ蔵

おぉーい! ラプンツェル!!
いるかーい?


お絹が声の先を見上げると、窓から『ひょい』と男の子が顔を出した。

アリス

ちょっと待ってて!
いま降ろすよ!

しばらくすると黄色いものがバッと空中に投げ出され、バタバタと降ってきた。

それはロープのように滑らかに伸び、高い窓と地上を繋いだ。

ラプンツェル

定員1名ね~

ラプンツェルは窓から顔を出してのんびりと注意事項を口にする。

お絹

か、髪なの!?

ラプンツェル

そうだよ~

お絹はラプンツェルと呼ばれた男の頭から先ほどの黄色い束が伸びているのを見るや叫んだ。

するとやはり呑気な返事が頭上から聞こえたので、お絹は開いた口が塞がらなくなった。

雨がやや本降りになってきていた。

長い髪を見つめて呆然と立ち尽くすお絹。

とめ蔵はそれをよそにラプンツェルの髪を手慣れた様子でお絹に巻き付けていく。

とめ蔵

よし、あげてくれ

とめ蔵が合図すると
『いくよ~』の声と共にお絹は小さく揺れながら引き揚げられていく。

ラプンツェル

やあ!

アリス

...どうも

窓にたどり着くと、人懐っこく笑う金色の髪の持ち主と、人見知りなその飼い主がお絹を迎えてくれた。

ラプンツェル

え? これが君の
家に届いたの?

ここへ来た理由を聞いたラプンツェルは驚きの声をあげた。

とめ蔵

ああ。アルバイトが
持ってきたよ

ラプンツェル

アルバイト…

お絹

それ、中身は何なの?

小包を見ながらお絹が尋ねる。
ほかの二人もちょっと気になっていたので、ラプンツェルに開けるよう目で促す。

ラプンツェル

大したものじゃないよ?

そういいながら包みをあける。

箱の中身を見たアリスは首をかしげた。

アリス

なにこれ?

レイウェル

???

お絹

…マスク?

ラプンツェル

そう!

正解したお絹にラプンツェルは笑顔を向ける。それは○イザップのフェイスマスクだった。

ワンダリア国の通貨で五千D(ダリア)
(1D=1円)もする高級品だ。

ラプンツェルは美の追求に余念がない。

アリス

…おまえな

ラプンツェル

…え?

アリス

あれ、今月の食費だよ! どうやって生活するんだよ! バカ!!


たとえ食べ物に困っても、結果にコミットしたい。

ラプンツェルは『ご飯がないなら、フェイスマスクをつければいいじゃない』などとは言えず、うなだれた。

遠くの空では雷鳴がなっていた。

国王

なんで?


王はそれを見つめて困惑していた。

スミス

私が知りたい

数時間前。

国王

羅針指(らしんし)、知らない?

タロウ

あれなら確か、第3地下倉庫の入り口から7列目、Gの棚の4-6にあったはずです。


王に尋ねられた桃山タロウが答えた場所に、スミスはいた。

スミス

Gの…4…あった! ん?

しかしそれは、王が探していた羅針指ではなかった。

←ボインのキョンシー

そこにあったのは…ボインのキョンシーちゃんだった。

国王

なんでボインのキョンシーちゃんが??

スミス

だから私が知りたい

国王

しかし、参ったな

スミス

そうですね


これで王女への手がかりが途絶えてしまった。
ため息交じりに王はキョンシーの顎を撫でた。

その時だった。

国王

!?

私を起こしたのはお前カ?

スミス

ボインのキョンシーが
しゃべった!

時の番人リリー

我が名はリリー。
〝時を告げる者〟であル

ラプンツェル

…ごめんなさい

アリス

ったくもう!


いつになくご執心のラプンツェルに、アリスはまだ言いたいことがあるようだったが、とめ蔵が仲裁してなんとか場はおさまった。

ラプンツェル

ところで、そちらの
かわいいお嬢さんは?

とめ蔵

ああ、こいつはサラ。
俺の妹だ

・・・はい?

サラ

……

口を開きかけた王女サラは驚きのあまりしばらく身動きが取れなかった。

ラプンツェル

へえ、レイウェルに
妹さんがいたなんて

と感心しているラプンツェルをぼーっと見つめて、サラにようやく思考が追いついた。

サラ

お兄さま、なの?

レイウェル

ああ、そうだよ

サラ

あ、はははは!


さまざまな感情が一気に押し寄せると人は笑うらしいということを、この時サラは身をもって知ったのだった。

サラ

お兄さま! お兄さまだ!!
あはは!

サラ

今までどうして
いらっしゃったの?

レイウェル

見ての通りだよ

サラ

…ずっと
お会いしたかった

レイウェル

ああ

サラ

でも、まだ、お会いしては
いけないはずですよね

レイウェル

……

サラ

禁を、犯して
しまいましたね

レイウェル

ああ、どうやらバレたらしい。
さっきの雷は緊急空砲だよ


窓の外、鉛色に染まる遠くの空を見つめながら、ワンダリア国王子レイウェル・ジェラルディーンは冷静に分析していた。

サラ

…申し訳ありません

レイウェル

…しかたないさ

サラ

でも! 私が
森にいかなければ

こんなことにはならなかった。サラは後悔の念でいっぱいになった。

サラ

お兄さまが不合格に
なってしまいますわ!

レイウェル

気にするなって

サラ

どうか、愚かな妹を
お許しください

アリス

あの~、お話し中
スイマセン

サラ

はい。
なんでしょう?

アリス

話が全く
みえないんですが

レイウェル

俺から話そう

そしてとめ蔵ことレイウェルは語り出した。

「俺は魔法学校の六年生で、卒業試験の真っ最中だったんだ。

三年間、魔法を使わずに一人で生き抜くこと。それが一人前の魔法師になるための最後にして最大の試練。

それはたとえ王族であっても揺らぐことはない。

その試験中に俺は誓約書に〝再会の禁止〟として固く禁じられている、親族への接見に違反した、といわけだ」

レイウェル

それで、お前はなぜ
森の中にいたんだ?

サラ

それが

かくかくしかじか

サラ

と、いうわけ
なんですの

サラの話を聞いたレイウェルは即座に答えた。

レイウェル

それ、ワープ
じゃないか?

サラ

え?

レイウェル

お前、
年いくつだ?

サラ

16ですわ

レイウェル

…親父は何か
言ってたか?

サラ

いえ、なにも

レイウェル

……

レイウェルは何事か思案して懐から不思議な文字のようなものが書かれた紙を取り出すと、それにふぅと息を吹きかけ、雨にけぶる森にそれを放った。

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