拳を天に突き立て、七瀬はそのままの体勢で床に寝転がる。
……えっと、俺達はばーちゃるの世界? だっけそこで生きているあばたーみたいなもので……うーん、と……あ、駄目、頭混乱してきたかも……分からない単語多すぎ
とりあえず本物は寝てるってこと。まぁ姫取合戦終われば、こっちが現実になるみてぇだけど
それにしても貴王姫はそれを確固たるものにするための人柱ですか……
勝っても負けても貴王姫に未来はない、か
それよりも俺はあの男の思い通りってのが気に食わねぇ
拳を天に突き立て、七瀬はそのままの体勢で床に寝転がる。
俺達がぶっ壊して世界創ってやるって啖呵切ったしな……どうするかな
何も考えてなかったんだ
元の世界はほとんど住めるようなもんじゃねぇし……みんなで帰ってもな。それに
なに?
姫の身体は向こうにないんだよ……推測だけど
多分そうだね
胸を撫でるとあの飴細工師がいるような気がする。彼女だけじゃない。敗北し、その身を散らした貴王姫が多分宿っている。
わたしは……バグ
念なのか執着なのか、何にせよ分からない。
ここに生まれる前に感じた感覚、逃げているのかどこに行くのか……きっとそれは自分自身に宿る貴王姫の記憶。
怖かったよね、と抱きしめれば、もういいの、と返ってきた気がする。
そっちの現実に姫ちゃんいないなら俺は帰らなくていいかな
それにあちらが死しているのでしたら、この世界で『貴王姫でさえ幸せになれる世界』を模索するのがよろしいかと
そうそう、俺が言いたかったのはそういうこと。あいつの配下にならず、なおかつこの世界は頂いちゃおうぜ
なんか賊みたい
いいだろう。それに俺達はその可能性ありだとしたら余計にやるだろ
どういうことだ
あいつが言ったんだよ。支配から抜けた五人がいるって。それって俺達だろ?
お前はさっき乗っ取られかけたけどな
もうその感覚はないから安心しろ
それよりも灯黎さんだって危ねぇじゃねぇの? 起爆剤ってそれこそ支配下の元じゃねぇの?
俺には止めてくれる奴がいるからな
おう、それだったら俺だって同じだ
わたしは万能じゃないんだけど……
じゃあ俺と契り交わそう?
何がじゃあなの!?
だって、姫ちゃんの中に瑠璃姫もいるんでしょ? ならやっぱり俺と恋仲になろうよ。こいつらの暴走はほっといてもいいんだし
ほっといたらやべぇんだよ、あれ意外ときついからな
同感だ
とにかく俺達はこいつから離れられないってことだな
姫ちゃんにべたべたくっつかないでくださいー
三冴はそう言いながら璃朱の頭を抱きしめる。
……三冴がその筆頭だと思うけど
別にいいでしょ? ね? 姫ちゃん?
姫、姫様命令発動してもいいんだぞ
うーんと……じゃあ……
え!? 発動しちゃうの!?
みんなずっと離れないでください
は?
…………
それでいいの?
勿論です
当たり前。離れる気ないからね
物理的には離れるべきだと思うが……
世界とか、貴王姫だとか……やっぱりちょっと分からないけど
離れるのだけはやっぱり嫌だなって……
今はとにかく……じっくりゆっくり考えて……いたい
きっといつかまた、姫取合戦をしなきゃいけない時がくるだろう。それに自分という存在が揺らぐときもある。
それでも彼らといれば何かが生まれそうな気がする。
しばらくはまた傍観の構えかな?
そのつもりかな。ちょっと今回ので疲れちゃって……
それ大賛成! 俺も疲れた! 休むぞ!
いつかに備えて休息も必要ですかな
烏月から許可が出たから三日は寝てていいな
誰もそのようなこと言ってません。準備も怠らないことです
うぇ……その準備無駄にならねぇかな……
うん、そうだね
そうならないことは分かっている。でも、今は。
七瀬と同じように床に寝転がると睡魔が襲ってきた。
ちょっとだけ寝て、それから考えよう
丸くなり寝息をたてはじめた彼女を、優しい目が見つめていた。