チーシャ

というわけで過去における君の活躍を見てきたわけだけど、ひどい有様だったね

眠井 朝華

そりゃあ失敗も多かったけれど、ちゃんと後で挽回してるし……

 しかし私の語尾は弱くなっていく。今までの自分の失敗を見て、なんだか自信喪失してきてしまったのだ。
 普段ならここでチーシャのフォローが入る。でも今日は様子が違った。

眠井 朝華

チーシャ?

チーシャ

……君は本当にダメだ。これはくそねみまじかるとしての座を降りてもらうかもしれないね

眠井 朝華

そんな! いきなり何を言って

チーシャ

君の失敗ぶりはよく見ただろう? これだけ失敗しているんだ。君には適正がなかった。ただそれだけのことさ

 チーシャの重い言葉。そんな、私が唯一役立てると思っていた、悪夢を解決する役目すらダメだったなんて。私は一体どうすればいい?

眠井 朝華

チーシャ、私……

チーシャ

……君との付き合いは短かったけど、楽しかったよ。それじゃあさよなら

 チーシャが去ろうとする。

眠井 朝華

待って!

 私はチーシャに向かって必死に手を伸ばす。しかしチーシャには届かなかった。

眠井 朝華

(やっぱり、私なんかじゃダメだったんだ)

 自然と涙がこぼれ落ちる。私がくそねみまじかるになっても、役には立てなかった。だから見捨てられた。ただそれだけのこと。

眠井 朝華

(でも、悔しい!)

 口をぎゅっと結ぶ。そうしないと、嗚咽を漏らしてしまいそうだったから。
 私は今までくそねみまじかるとして頑張ってきたつもりだ。でも、つもりは所詮つもりだった。結局はなんの役にも立てていない。だからこその結果だ。

眠井 朝華

(チーシャなら私と一緒に居てくれるって信じてたのに)

 最初はぎこちない関係だった。でもいつしか、チーシャと行動するうちにパートナーとしての感情が芽生えてきた。それはチーシャも同じだろうと、そう考えていたのは甘かったようだ。
 現実はあまりに残酷だ。

眠井 朝華

(私は、一体どうすれば?)

 そう問いかける。答えは返ってこない。
 そのはずだった。

(……ツールを使うんだ!)

 聞き覚えのある声がする。でもそれはさっき去って行ったはずのチーシャのもので。

(イイユメツールを! 早く!)

 再び聞こえる声。これは確かにチーシヤの声だ。
 それではさっきまでのチーシヤは一体?

眠井 朝華

(もしかして!)

 私は確信し、チーシヤの声に従い、イイユメツールを起動する。

――イイユメツールは夢によって姿を変える。その姿は電動マッサージ器だったり、ちくわだったりと様々だ

そして時に、イイユメツールは『人々の想い』という形で具現化する!

金井塚 アケミ

この程度でへこたれてんじゃねー!

翔子

眠井さんに諦めないで欲しいよね、拓海?

拓海

まったくその通りだぜ、翔子

黒竜の騎士

黒竜の騎士である我が命ずる、立ち直れ夢の使者よ!

おばさん

あなたも隆みたいに暗いところに閉じこもってちゃダメよ?

男の子

お姉ちゃん、元気ないならちくわをあげる!

進くん

大魔王を倒したあなたです! 必ず立ち直れます!

 それは今まで私が救おうとした人々からの声援だった。
 その声を聞き、私の中で諦めかけていた想いが過熱していく。

 ……まったく、ダメだな私って。こんな簡単に大切なことを諦めようとするなんて。

 イイユメツール『人々の想い』が胸に響く。私は今、新たな力を得て飛翔した!

眠井 朝華

くそねみぃー! まじかぁぁぁぁぁる!

 私はくそねみまじかるに変身し、一気に空を駆ける。
 飛翔した先にいた人物。それは先ほど消えたはずのチーシャ、いや、チーシャのニセモノだった。

チーシャ

くそねみまじかるだと? どうしてここに!

眠井 朝華

チーシャのニセモノ、あなたが私の見ている夢の悪夢そのものだったのね!

 そう、私はずっと悪夢を見させられていたのだ。このニセモノのチーシャの手によって。
 そのニセモノのチーシャを倒す能力、それがイイユメツール『人々の想い』だ。
 ニセモノのチーシャが震える声で問いかける。

チーシャ

確かに心は折れたはず。それなのに、なぜお前が今目の前にいる!

眠井 朝華

確かに心は折れたよ。でも人々の想いが私の心を蘇らせた。何度失敗したって、私は私を絶対諦めない!

 私の背中から光の羽が生える。

くそねみまじかる【ゆるふわモード】
 これが私の新しい力だ!

 光の羽がニセモノのチーシャを包み込む。

チーシャ

ぐわあぁぁぁぁぁぁ!

 光に包まれニセモノのチーシャは蒸発して消えていく。それは一瞬の出来事だ。同時に世界がガラガラと音を立て崩れる。

 気がつくと目の前には本物のチーシャがいた。

チーシャ

おかえりなさい、朝華

 おかえりなさい、その一言に胸がいっぱいになる。よかった。チーシャはちゃんとここに居てくれた。

眠井 朝華

ただいま、チーシャ

 私は両目に涙を溜めながら、チーシャに思い切り抱きついた。

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