眠井 朝華

本当にこれがこの夢のイイユメツールなの?

チーシャ

……そうみたいだね

 私はついつぶやいた。だって、目の前にあるイイユメツールが、どう見てもちくわにしか見えなかったから。

 今回悪夢を解決しに来たのは、小学生くらいの男の子、その夢の中だ。男の子は体育座りをして、真っ暗な世界でひとりぽつんとしていた。

男の子

お姉ちゃんなんて嫌いだ、大嫌い、死んじゃえ

 どうやら男の子はお姉さんとケンカでもしたらしい。それが影響して悪夢を見ているようだ。

眠井 朝華

どうする、このちくわ?

チーシャ

僕に聞かれても

 チーシャがさじを投げる。私は仕方なく、男の子に向かってちくわを差し出した。

眠井 朝華

はい、これ

男の子

……これは

 男の子はちくわを受け取ると、それを一口かじった。

男の子

懐かしいな。仕事でお母さんの帰りが遅くなった時、どうしてもお腹が空いちゃって。それで冷蔵庫に入っていたちくわを、お姉ちゃんと半分こしたんだ

 すると男の子の目から涙が流れる。

男の子

お姉ちゃんだってお腹が空いてたはずなのに、僕にちくわを半分以上くれたんだ。お姉ちゃんはいつだって優しいのに、僕は

 今まで真っ暗闇だった夢の中に一筋の光がさす。

男の子

お姉ちゃん、ごめんなさい。ありがとう

 こうして男の子の悪夢は晴れ、そのまま深い眠りへとついた。

眠井 朝華

ちくわで解決しちゃったね

チーシャ

うん、ちくわで

 私はチーシャと共にその光景をア然としながらながめていた。

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