その日も私、眠井朝華は学校で保健室登校をしていた。だけど一日中保健室に居られるわけではない。生理現象による一時的退室。人はそれをお手洗いと呼ぶ。

眠井 朝華

(今は授業中だし、人もいないよね)

 できる限り他の生徒と会わないよう、こそこそと隠れながらお手洗いを目指す。
 すると向こうから人の気配が。私は慌てて空き教室の中に隠れた。
 ドア越しに様子をうかがう。

眠井 朝華

(あれは、金井塚さん?)

 その生徒には見覚えがあった。金井塚アケミ、この学校で一番の悪として知られる不良だ。(半引きこもりの私でも知ってるくらい)
 金井塚さんは取り巻きを従えながら廊下を闊歩していた。

取り巻き

親分、どうしたんです? なんだか顔色が冴えませんが

金井塚 アケミ

最近どうも夢見が悪くてな

 そう言って金井塚さんはあくびを一つする。

金井塚 アケミ

まったく、こうも夢見が悪いとイライラするぜ!

眠井 朝華

(ひぃ!)

 金井塚さんが私の隠れているドアを叩く。八つ当たりとわかっていても、まるで自分を責められているようでとてつもなく怖い。
 私は恐怖に震えながらも、金井塚さんに対して思うところがあった。

チーシャ

で、君はその不良の子を救いたいと

 夢の世界。私はチーシャの問いに頷いた。

眠井 朝華

いくら不良でも、毎日悪夢にうなされるのは可哀想だよ。だから私は金井塚さんを助けてあげたい。

チーシャ

君も酔狂だね。そんな怖い人を助けてあげたいと思うなんて

眠井 朝華

ダメ、かな?

 するとチーシャがうなり声をあげる。

チーシャ

……まったく、君は変なところでお人好しなんだから

 よかった、チーシャも納得してくれたようだ。

チーシャ

そうなったら善は急げだ。行くよ朝華

眠井 朝華

うん!

 こうして私たちは金井塚さんの夢の世界に向かって行った。

眠井 朝華

ここが金井塚さんの夢の世界……?

 確かに私たちは金井塚さんの夢へとやってきた。はずなのだが……。
 キラキラ輝く装飾品。豪華絢爛なシャンデリア。ピンク色のソファーやベッド。そして、

金井塚 アケミ

うふふ、ここが私だけの夢の世界

 そこにはロリィタドレスを身にまといお姫様のような姿をした金井塚さんがいた。

眠井 朝華

これ、どういうこと?

 思わず問いかける。するとチーシャは理解したようで、解説を始めた。

チーシャ

これは彼女の願望をそのまま表した夢だね

眠井 朝華

これが金井塚さんの願望なの?

チーシャ

そうだ。きっと悪夢というのはウソで、この世界に長居したいがためにいつも寝不足なのだろう

 これが金井塚さんの願望である世界? 恐ろしい不良である金井塚さんを知っているだけに、その言葉が素直に受け入れられない。
 目の前の光景に混乱しながら、私は叫んだ。

眠井 朝華

こんなの、私にとって悪夢だよー!

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