私の頬に冷たい何かが触れた。
それはそのまますぐに流れ落ちて消えてしまう。

驚きでぎゅっと閉じてしまっていた瞼を開くと、目の前には口元の笑みを歪ませ顔を涙でグシャグシャにした空野君がいた。
泣いている。
お兄さんに酷いことを言われてたさっきよりもずっと……。



すっと目を閉じ念じる。
気づいて欲しい……。
皆彼の傍にいるのに。
皆彼の事が大好きなのに。
今彼に必要なのは……。

ポンッ

出た


軽い音とともに現れたのは青い携帯電話。

俺の、携帯……っ

普段あんまり使ってないでしょ。
まぁ、私もだけど

どうやって……

力を使って勝手に借りたの


空野君の青い携帯を操作して目的のページを探す。
人の携帯は扱いづらくて困る……。
自分以外の携帯なんて触ったの初めてだけど。

っ返せ!!


勝手に携帯を弄り始めた私の姿を見て空野君は慌てたようにてを伸ばしてきた。
彼の夢の中だからかあり得ない早さで迫ってくるが、この携帯を取られるわけにはいかない。
必死で避けて逃げる。

っあった

っ!!

ほら、これ見て


ずいっと彼に見えるよう目の前に携帯の画面を向けるが、彼は奪い返そうとするばかりで見てくれない。
まぁ私が悪いし当たり前か。

ごめんね


ガッ

勢いのままに向かってくる彼の足にすっと自分の足を引っかけると、彼は簡単に倒れてしまった。

どけっ!!


背に乗り腕を背に回させて体重をかければ動けなくなる。
そのまま目の前に携帯を突きつけた。

見て

……なんだよ

北本君の呟き

浩市の……?


彼に見せたのは北本浩市君、彼のいつも一緒にいるクラスメートのサイトでの呟き。






プリクラ撮ってきたー。
隣親友の蒼汰

こんだけモテてんのに男子にも人気って蒼汰イケメン過ぎ

蒼汰良い奴すぎてヤバい。
マジで自慢の友達





北本君の呟きを見た空野君の瞳からは、しとしとと静かに涙が流れていた。
でもそれは、さっきまでのように冷たく心が凍えそうな涙ではなく、温かく柔らかな涙だった。
彼はいつも傍にいる皆に愛されてる。
一人だと思っているのは、彼自信が自分の中にとじ込もって周りを受け入れようとしないから。
周りはいつだって彼の近くで、自分を受け入れてくれるのを待ってるのに……。

……っ

本当に、二人は仲良いんだね

浩市……

他にも何人かのクラスメイトが空野君のこと呟いてたけど見る?

良い……


少しだけど、彼の表情が和らいだ気がする。
私にできるのは、彼らの気持ちを空野君に見せるまで。
これからの関係は夢の中じゃなくて、彼が自分で変えていかなきゃ意味がない。
悪夢を変えただけじゃ現実は変わらないし、私には夢の中しか変えられないから。

ありがとう。
あいつらが俺の知らないとこでまでこんな風に言ってくれてたなんて気づかなかった

うん

そっか、皆ちゃんと俺のこと見てくれてたんだ

少しでも現実の彼自身が変われたら……。



最後に見た彼の暖かい微笑みに、そう願わずにはいられなかった。

お疲れさま。
ちちっ、まさかここまでやるなんて、弱いのによく頑張ったっちな。
また会おう








私の目が覚めたとき、既に隣のベットに空野君はいなかった。








蒼汰ーっ!

おはよう

おはよー!

今日帰りどっか寄ってかない?

マジでっ?蒼汰から誘ってくるとか初めてじゃんっ!

えー、私も行きたいっ

うん、皆で何処か行こうか

やった行こ行こー

何処行くかー










第四話 変化(完)

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