数日が経った。

 私は今の生活に慣れていた。

 ひとつのベッドで、ほかの人と寝ることにもすっかり慣れていた。——

 私たちは朝起きると、朝食を食料品店でゲットした。

 それからモール内の掃除と巡回、安全確認をした。

 警備室で各国からの通信をチェックをした。

 屋上で周辺と上空の監視もした。

 これらのことは交代制で行った。


 お昼と夕食の時間にはフードコートに集まり、みんなで食事した。

 夕食が終わると、野外入浴セットを楽しんだ。

 ただ、お姉さんたちは、もともと入浴の習慣がないせいもあって、毎日入浴には来なかった。夕食後はバーでお酒を飲むことが多かった。

 そんなときは、私たち中学生とヤマイダレさんの4人で巨大な浴槽を楽しんだ。

 そして23時になると消灯した。

 こんな感じで規則正しく過ごしていた。

 もちろん個人の自由時間はある。

 というより、やらなくてはいけないことは実はあまりなくて、午後からはほとんど自由時間だった。

 私たちはそんな時間を、たいていは屋上で過ごしていた。

もうすっかり慣れちゃったね

人間、意外と順応するもんだねえ

快適だからだよう

 私たちは空を見上げて、おしゃべりをした。

しかし、連絡来ないねえ

救援ヘリとかも来ない

まったく来ない

 困り顔でため息をついた。

 割と致命的な状況だと思うのだけど、しかし、悲壮感はまるでなかった。

いつきってさあ、料理上達したあ?

CIAのお姉さんにどんな料理教わってるの?

うーん。今はアップルパイかなあ

 いつきは照れくさそうに微笑んだ。

 あまり上達していないようだった。

小夜の格闘術はどう?

MI6のお姉さんはどんな技を使うの?

関節技というか、寝技というか……

 小夜は楽しそうにレッスンの様子を語った。

 お姉さんは小夜を絞めるとき、ひどく嬉しそうな顔をするらしい。

で、智子はKGBのお姉さんに何を教わってるの?

そうそう、ふたりで何やっているんだよう?

えっ、編み物

 私は伸びをしながらそう言った。

 すると小夜といつきが思いっきりジュースを噴きだした。

って、ちょっとひどくない!?

だってえ

ねえ

 いつきと小夜はスケベな笑みで私を見た。

 私は口をとがらせた。

ごめん、ごめん。なんか意外だったから

そうそう。智子も意外だけどお姉さんも意外で

ダブルで面白くて

笑っちゃったんだよお

 ふたりはそう言って、私に抱きついた。

 抱きつきながら何度も謝った。

 謝りながら笑っていた。

まったく、どういうイメージで私のこと見てるんだよお

 私は、ぷっくらとほっぺたをふくらませた。

 すると小夜が言った。

運動部のキャプテン?

 続いて、いつきが言った。

戦隊ヒーローだと赤?

 女の子的な要素がまるでない。

 というより、そもそも私はキャプテンの経験なんかないし、運動部にすら入ったことがない。それは、ふたりともよく知っているはずだ。それなのに随分と勝手なイメージで見られたものである。

 私は、がっくりうなだれた。


 と。

 そのときだった。

MI6の諜報員

ヘリだ! 大型ヘリだ!!

 お姉さんが空を指さして叫んだ。

 私たちは、そのほうを見た。

 ほかのお姉さんも、いっせいに見た。

 ヤマイダレさんが、あわてて発煙筒を炊いた。

 救難信号を出した。

 が。

あっ

去っていく

そんなあ

 大型ヘリは、ショッピングモールを避けるように旋回した。

 そして遠く西の空へと消えていった。

あのヘリは自衛隊のものではなかったわ

CIAの工作員

米軍でもないわね

MI6の諜報員

マサクルソフト社の輸送機でもなかった

KGBの職員

ロシアにもあの機体はないわ

となると……

 お姉さんは、いっせいにため息をついた。

 陰鬱な面持ちとなった。

 しかし、すぐにヤマイダレさんがおどけて言った。

パイロットは男よ。だって男のにおいがここまで臭ってきたもの

 それからヤマイダレさんは、チョコ棒をいやらしくしゃぶった。

CIAの工作員

こらっ

MI6の諜報員

キミはほんと好きだな

KGBの職員

お酒を飲まずによくもまあ

 お姉さんがいっせいにツッコミを入れた。

 頭をひっぱたかれたヤマイダレさんは、ひどく嬉しそうな笑みだった。

と、それはさておき、あのヘリがどこの所属なのかは後でじっくり考えるとして

CIAの工作員

ええ

ねえ、私にもゴルフやらせてよ

MI6の諜報員

あっ、ああ。珍しいね

CIAの工作員

ゴルフといっても屋上から打ちっ放すだけよ

KGBの職員

一応、あそこの排水溝がホールよ。でも、入るわけないから痴女にあてて遊んでるわ

了解。あなたたちもやる?

えっ?

痴女にあてたら、ひとつだけ何でも言うこと聞くわよ

ほんと?

ただしエッチな命令よ

うーん

 私たちは、あいまいな笑みをした。

 ヤマイダレさんは嬉々としてゴルフクラブを選び始めた。

ああ、この茶褐色で頭がぼてっとした肉厚な逸物……せっかくだから私はこの赤のウッドを選ぶわよ

ほんと、いちいち下ネタに結びつけますよね

だって好きなんだもんっ

そんな可愛らしく言われましても

あらいやだ、可愛らしいだって!

 ヤマイダレさんは、いきなりフルスイングした。

 ボールが勢いよく飛んだ。

 しかし大きく右にそれた。

うーん、右曲がりかあ

距離は出たけど

ねえねえボールどこ?

あそこ、滑走路のほう

あった!

みんな目が良いのね

バウンドした!

どこどこ?

あそこ! 大きく跳ねて転がってくよ

小夜は目が良いなあ

まあね

 小夜は得意顔でボールを指差した。


 ボールは滑走路を越えて太い道を転がっている。

 その先には駐屯地の入口……正面ゲートがある。

って、あれ!

あっ!?

人だ! あれって人じゃない!?

 小夜が叫んだ。

 お姉さんが、いっせいに小夜の指さす先を見た。

 MI6のお姉さんが双眼鏡を取り出した。

 それで視ながらこう言った。

MI6の諜報員

幼女だ! 幼女を先頭に子供たちが歩いてる!!

これで視ましょう

 ヤマイダレさんがみんなに双眼鏡を渡した。

ほんとだ

← 女の子が先頭だ

女の子たちが、こっちに向かってる

MI6の諜報員

しかし痴女のなかをどうやって?

 女の子たちの後ろを視た。

正面ゲートのほうに痴女はいないわね

MI6の諜報員

あっ、誰か来た! 武装した集団だッ!!

 見るからに野蛮な感じ。

 マッドマックスって感じのモヒカンが、女の子たちを追ってやってきた。

後ろからはモヒカン軍団。向かう先には痴女の海

MI6の諜報員

どうする?

CIAの工作員

今から向かっても間に合わないわよ

KGBの職員

狙撃するにも遠すぎるわね

MI6の諜報員

いや、我々もそうだが、あの子たちはどうするのだ?

 お姉さんは、ひどく冷静なことを言った。

 私たちはツバをのみこんだ。

 女の子たちを見守った。


 私たちのいるショッピングモールと女の子たちとの間には、大量の痴女——痴女の海。

 そして女の子たちの後ろからは、邪悪なモヒカン軍団が押し寄せる。

MI6の諜報員

あっ。先頭の幼女が前に出た。突出したぞ

KGBの職員

マズい。このままでは痴女の海に呑まれる

 女の子のすぐ目の前に、痴女の群れがある。

MI6の諜報員

まくった!? 幼女がワンピースをまくったぞ

CIAの工作員

両手をあげて、ガバッとワンピをまくったわ

KGBの職員

胸まで見えるわ。幼女が全身をさらけだしたわよ!

 女の子は、痴女たちの眼前でワンピをまくった。

 女の子のお腹があらわになった。

 それは純白のワンピースよりもさらに白かった。

 私には、その裸体がひどく神聖なものに感じられた。


 ああ、後光がさす——とは、このことか。

 穏やかな微笑を浮かべた女の子の後ろからは、光が四方に放たれていたような——気がした。

MI6の諜報員

あっ!? 痴女が退いた。痴女が後ずさりするぞ!?

ほんとだ。痴女がどんどん退いている。幼女から逃げるように下がってる

KGBの職員

どんどん下がる。痴女が避けて、モールまでの道ができたわよ!

 今まさに、痴女の海が割れた。

 私たちはそれを目撃した。

 まるで神の奇跡を見ているようだった。

MI6の諜報員

幼女がやってきた! こっちに向かってくるぞ!!

こっちよ! モールに来るのよ!!

 ヤマイダレさんが大きく手を振った。

 女の子たちは、私たちに気がついた。

 可愛らしく手を振った。

 そして、割れた痴女の海を歩いて、モールのそばまでやってきた。

あっ、モヒカンが

 女の子たちが渡りきったところで、痴女の海は元に戻った。

 追いかけてきたモヒカン軍団は、おぼれて痴女になった。——

pagetop