敗北感で席につく経華。
気を取り直してオーダーする。
敗北感で席につく経華。
気を取り直してオーダーする。
ヒラメのムニエルを一つ
できないよ、んな小難しいモン
え?でもメニューにのってますよ。ほらここにしかと!
ついついお品書きをばあさんの顔にデンと近づける。
目障りだからおよし。別に老眼でもボケたわけでもないよ。そこに書いてある殆どは死んじまった主人のメニューさ。女が板場に立つなってのが口癖でね。まともに包丁を握ったのなんてここ5年の話さ。まあ、今適当なの作ってやるから黙って待ってな
ばあさんがまな板に粒立ちの良いうろこで目がキラキラとした真鯛を豪快に乗せる。
上等そうな鯛だね。塩釜焼あたりが良さそうだ
だからそんな大層なものは作れないって言ったろ。鯛茶漬けだよ
年季の入ったボコボコのやかんを沸かし始めるばあさん。
ぶつ切りに切られた鯛と白飯の上に煎茶がワッとかけられる。
白ごまが浮き出て、
きざみのりが一瞬ふわっと踊る。
思わずのどを鳴らす経華。
美味しそうですね!小暮先生
そうだけどさ…ばあさん、もしかして俺たちだけのためにこんな豪勢な鯛茶漬けに
そうだよ。何だい、気に入らないのかい?今時に言うと、重くて受け取れないってのかい?
いや、すまない。御託を並べて。お茶を濁した。美味しく頂くよ
またそうやってちょいちょい上手いヤツ差し込んでくる!
いつも飄々とした小暮が面喰ってるのを見て、
経華は意外な気持ちになった。
はい、おまち
湯気の立った鯛茶漬け二つをばあさんは二人に差し出した。
いっただきまーす
先頭を切ったのは経華。
ニコニコしながらめいっぱいに頬を膨らませ掻き込む。
美味しい!
いい食いっぷりだねえ、お嬢ちゃん。おかわりもあるよ!
え、ホントですか!?朝から何も食べてなかったのでいくらでも入りますよお!…あ、でも
横目で小暮を見る経華。
小暮は静かにお茶漬けをすすりながら
深夜手当でつけておくよ。気の済むまで食べるといい
かたじけないです。このご恩は一生忘れません!先生もほら早く食べましょうよ!?活きの良いうちに
茶漬けにしたら鮮度は関係ないだろう。それに…
意外な小暮の間に、
興味津々の経華とばあさん。
口をそろえて
それに?
…猫舌なもんでね
恥じらいを隠せない小暮の顔を見てニヤニヤする経華。
ようやくしっぽを見せましたね。猫背のにゃんにゃん先生!
代わりにふーふーしてやろうか?
うるさい。さっさと食えよ。ばあさんも片づけして施術の準備しておけよ
続く