実はね、出水君に聞きたいことがあって…

俺に…?

出水君しか知らないことなの…


俺しか知らないこと?
孝についての何かか?
彼女は言いにくそうにもじもじと地面を見つめている。
少し強い風が吹き、真っ黒な髪がさらさらと流れる。

アンユが何処にいるか、教えてほしいの…


頬を赤く染め、可愛らしく上目に見つめながら呟いた。
アンユ…?
一度だけ聞いたことがある。
確か、弟の名前だったような。

アンユって、弟のことか…?

その名前で呼ばないでっ!!!

っ、芽衣さん…?


先程までの可愛らしさは何処へいったのか。
肌に刺さりそうなほど鋭い目で俺を睨み、小さい歩幅で近づいてくる。

あいつが、スプーユが私のアンユを取ったの…


何かを思い出しているのか、怒りでふるふると震えている。
近づかれるたび少しずつ離れていたが、もう背が柵に当たってしまっている。

弟?ふざけないでよ、彼はアンユ。私の旦那になるはずだった人…

どういう、ことだ…?

アンユはスプーユに誑かされて神の住む聖地、私達のふるさとから出ていったのよっ!!!


兄さんと弟が創造神の子だというのは聞いていたが、芽衣さんが何を言っているのかわからない。

芽衣さんは、弟とどういう関係なんだ…?

そうだよね、アンユの居場所を教えてって頼んでるんだもん。話すべきだよね


芽衣さんはすぐ目の前にまで迫っている。
手をついた柵がカシャンと軽い音をたてて形を歪ませた。

私はナレア、芽衣は此処での名前なの

君は、バグじゃないのか…?

ふふっ、あんな奴等と一緒にしないでよ。私は自由の神

自由の、神?

そう。そして、アンユと私は愛しあってる…


弟の事を思い出しているようで、恍惚とした表情を浮かべている。
俺には、芽衣さん、ナレアの言うことを本当だとは思えない。
兄さんといるときの弟は、誑かされているようになんて見えなかった。

ナレア、俺は君の言うことが信じられない…

っ、…へぇ

だから、教えられない…


俺はナレアの目を見てはっきりとそう言う。
知ってしまったからには、秘密を守る義務があるから。

は、ははっ、そっか


眉間を寄せたまま乾いた笑いを見せる。

ごめんな…

いいの、別に…。今日は帰るね…


表情を無くし冷たい声で呟くと、足早に学校内に戻ってしまった。
これで、よかったのだろうか…。








弟、ナレアって子知ってるか?


弟に話しておこうとそのまま廃工場に来た。

ぁ?誰だそれ…


今日は青年の姿で、ソファに座る兄さんの膝に頭を乗せて横になっている。

自由の神で、弟と愛し合ってるって

はー?知らねぇよ

弟が何処にいるか教えろって

へぇ、教えたのか?

言ってない…


何故かにやりと笑いながら聞いてくる弟に素直に答える。
表情は格好良いが、兄さんに頭を撫でられているままでおもしろい図になっている。
口にしたら恐いから何も言わないが…。

そか











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