あるとこに人知れずの里があった。
山や川などの自然に囲まれたのどかな場所で
すぐ傍には白い砂浜と海が広がっている。
里には様々な民家が建っている。西洋なレンガ造り、東洋風な木造建築、中にはエスニック風、木の上に家があったりする。
ただ過疎気味なためか軒数は少ないようだ。

そんな里で今日は初めての住会合が行われようとしている。
ある一軒宿に住人達が集まっていた。





では第一回里会合を行う
今回の議題はこれから里をどう盛り上げていくか、そして里長を決めることだ

……で、
なぜ私を含め2名しか来ていないんだ

そりゃ…
皆逃げたに決まっているだろ

なぜだ!
初日の記念すべき第一回目の会合だぞ!
しかも里長きめという重要な議題もあるというのに

だからそれが面倒で逃亡したってことさ

俺だってこんな少人数だとわかっていたら
参加なんかしてなかったさ
仮病使って休んでた

ん 何か言ったか

なんでもありません、えっと…………

……そういえば
お前の名前ってまだ聞いていないな

プロフィールに載っている筈だが?

『眠りの森の美女の王子』か?
あれは名前じゃないだろ
それに呼ぶ側も毎回長々言うのは大変だと思うぞ

なるほど、では別の名を名乗るか
或いは今ある名を簡略化すべきだな

『森』に『王子』……よし
『森子』なんでどうだ

却下だ!!

お前はどうなんだ
プロフィールでは『青い人』じゃないか

見た目通りの名前だんだけどね
まあ、適当に『青人』で『アオト』とでも
名乗っておこうかな

『アオト』……

少なくとも『森子』より断然いい……

遅れてすみません!
約束通り友人を引っ張ってきました

ほら、観念して挨拶しなよ

はあ……
美味しい食べ物があるっていうから
わざわざ地上に来たのに
…今日は厄日だ

もう……そんなこと言わないの!
騙したのは悪かったけど
…その、ごめん

よくやった
『継ぎ接ぎゾンビ』
仲間を連れてきたことに感謝する

…………

継ぎ接ぎじゃない
友人には『ネロ』っていう名前がちゃんとある

む…それはすまない
失礼した

あああ…あの
会合の打ち合わせの時に
ちゃんと名乗っていなかったから
ボクにも非がある…

あ そうなんだ
まあいいや
細かいことを考えるのは面倒

私はプロフィール上の名前では『魔族の少女』
一応、『ヨトリ』と名乗っている
あなたは?

仮名ならある
ついさっき決定したばかりだが
『森の王子』こと『森子』だよ

それは違うっ

すまない、まだ決めていないんだ
恥ずかしながらいい案が思い浮かばなくて

あ…謝る必要なんてないよ
これからゆっくり考えていけばいいんだし
何かあれば相談に乗るよ!

うんうん…そうだ
『フォレスト・スーパーウーマン』なんてどうかな

………却下だ

流石にないと思うよ……

うーん
いい案だと思ったのになあ

あー…
名前決めは結構なことだが
そろそろ議題を進めるべきじゃないか

む…そうだな
名前は後から決めればいいか

いや駄目でしょ
今決めるべきだよ

まあまあ…
急かすこともないって

あの…
『青い人』さんは呼び名とかあるの?

ああ
『アオト』だ
よろしく ネロ

『青人』か
随分と安直な名前だな

こちらこそ
改めて宜しくお願いします!
アオトさんとえっと…眠りの森の美女の

……森子でいい

え……でも

仮名だ
今は正式な名を思いつくまで
そう名乗っておく

はいぃっ
わ、わかりました

あんさん
眉間にしわ寄せ過ぎ
ネロが怖がっているよ

す、すまない

もっと肩の力抜きなよ
その方が楽だよ

ヨトリはもう少し力入れた方が
いいと思うよ






そんなこんなで時間はあっという間に過ぎていった。
勿論、議題は何も全く進まず
雑談に花を咲かせる里の住人達。

けれど初めての顔合わせで絆が少し深まったようだ。

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