やっぱりお前は・・・
狸だったか

あれ、もうばれちゃいましたか

変装が下手なんだよ

下手!?
私の変装が!?

大丈夫だ。
あいつは気づいてねえよ

そう、まあいいや
行かないの?

狐はドアの前で立ち止まって
一向に中に入ろうとしない。

中?

あれは・・・

兎ですか

兎が一匹、きょろきょろと辺りを見回し
何かを警戒しているかのような素振りだ。

なんだ、あいつかよ

知り合いなんですか?

俺の店の常連

兎が、ですか?

おとぎの世界にいちゃ
つまらないだろ。

いいじゃないですか、
一度は西洋の世界に
行ってみたいですよ

兎は追いかけられて
ばっかりだろ

例のアリス様ですか

やっぱり話を聞いていたのか

ある件のせいで、俺の店の客は半分以上減少した。

すみません、子供に
化けていただけなので

だよなあ

どうします?
兎さんは逃げ足が速そうですし

出禁にでもするぞ、とでも
言えば戻ってくる。

うむ、それは困りますな

いつの間にか後ろに兎は居て、
話を聞いていたようだ。

足音も何もしなかったため
背後に全く気付かなかった。

戻らなくていいのか?

戻った方がいいんでしょうけど

戻ったら戻ったで
ヤジが飛ぶだけです。
僕の無力さに嘆くばかりです

戻らなかったら世界は壊れる。

もしかしたら
なくなるかもしれない。

・・・管理人として
それは避けたいんだよ

管理人として、ですか。
あなたの仕事の妨害をする訳にも
行きませんですしね。

一瞬、間を置いて言葉を躊躇った。

ゆっくり息を吸うと、彼女は眉を顰めた。

それならばアリス様を
見つけていただきたい。

最悪の場合、誘拐されている
場合がある。

誘拐?

可能性があるだけです。
兎に角、僕は先を急ぎます。

順序を追って説明しておきます
でも、女王様はお怒りでしょうな

チッ・・・。
わざと狙って言ってるだろ

営業妨害はしませんよ

毎回、気絶するまでも
やってるくせに

今回はそれだけじゃあ、
済まない気がしますけどね

ほれよ、必ず返せよ

兎に渡したのは時計だった。
勿論、ただの時計ではない。

凄い威力を持ち、取り扱い方には要注意だ。

シンデレラのところに時計が
入ってしまった時は
どうしようかと思いましたよ

それは禁句だ。
下手に声に出すんじゃねえ

おっと・・・
そうでしたね。

にっこりと狐を見て微笑むと
今度は狸を見て、にっこり笑った。

あなたは・・・?

それは、お互いのために
やめません?

そうですねえ・・・
名前も知られてはならないですしね

そうねえ、物騒な世の中ですから

・・・それ以上話したら
初対面でも手加減しないよ?

ごめんね?
不快な思いをさせるつもりは
なかったんだよ?

じゃあね、狸さん・・・

なんで・・・!

お互いのために
やめておきましょう?

彼女らはお互いに睨み合い、
兎は社まで向かうようだ。

兎ねえ・・・

狸は静かに嘲笑した。

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