大粒の涙を流しながら、崩れ落ちるようにむせび泣く杏月。
うっ……うっ……うあぁぁぁん……っ!!
大粒の涙を流しながら、崩れ落ちるようにむせび泣く杏月。
……
悲しい気持ちが、胸に込み上げてくる。
なぜだ、なぜ付き合えたのに幸せでないのだ
私は幸せにはなれない……
人間なんてすぐ死ぬではないか、たかがそんなことで……
そんなことが……大事なの……
我には……我には理解できぬ……
ごめんね……ウリエル……
何を言っておる! それならなぜ我を……攻めないのだ!?
消すように勧めたのは我ではないか……!
ううん、私がそう願ったの……
私は幸せに……なってはいけない人間だった……
そんな……馬鹿な……
そんなことがあって堪るものか……!
消した歴史は二度と戻せない。
そして杏月は、学校に行かなくなった。
杏月……
君は……歴史を戻したいか……?
え……?
彼に……死んだ彼女との想い出を戻したいのかと聞いておるのだ
それが……出来るなら……!
戻して欲しい……!!
例え今まで消した、全ての歴史と記憶が戻るとしてもか?
私はどうなっても構わない……
わからぬ……。
我はやはり黒い思考……なのか?
悲しい思い出なんかいらないものではないのか?
この世にいない者に何を求める?
……だが、一つ理解できることがある。
杏月の想い、これが……慈しみというものであろう。
我を責めるでもなく、他人を想い、無償の愛を注ぐのか。
これが我に欠けているものなのだろうか……。
地獄の管理で、いらないものを簡単に消してきた。
我は破壊天使ウリエル……懺悔の天使、裁きの天使。
そこで慈悲の心なども失ってしまったのだろうか。
我はやはり……
天使失格なのであろう。
わかった……
杏月には言ってなかったが、歴史を戻す方法が一つだけある。
それはただ、
『今まで消したことを無かったことにして欲しい』
と願うだけだ。
ただしそれは……
我の存在自体を否定することである。
つまり、我自身を箱の中に封印するということ。
そうすると我は、封印された箱の中で一生彷徨い続けることになるだろう。
堕天でもない。
天国でもない。
『無』だけの世界だ。
……それでもいい。
神の言う通り、我の存在は黒すぎる。
もう杏月を……
人間を、悲しませたくない。
杏月……
……今まで消したことを無かったことにして欲しいと、願うがよい
我が我を裁く時だ。
消えてなくなろう……。
え……それだけでいいの……?
消したこと全てが戻ってしまうがな。そして、これが最後の願いとなるだろう
最後……ウリエルは? ウリエルはどうなるの?
我は……問題ないのだよ。君から見えなくなるだけだ
……また違う人間の願いを叶えて宿題を終わらせるだけだ、心配するでない
気付かせてくれた君に、感謝する。
もう、会えなくなるの……?
そんな悲しい顔をしないでくれたまえ。君と出会えて良かったぞ
ウリエル……
もう、泣かんでくれ……
杏月の頬に伝う涙を、指でそっと拭う。
力になれなくて、ごめんね……
幸せにしてやれなくて、すまない……
ひっく……また……また天国で……会えるよね……?
さあ、早く、願い賜え……
さよなら……ウリエル……
そして杏月は瞳に涙を浮かべながら、手を合わせて願った。
今まで消したことを……
全て無かったことにしてください……!
さよならだ……。
その黒歴史、消して進ぜよう
西岡杏月……すまないことをした……
ああ、神よ……。
どうか、この娘が、幸せになれるよう……。
我の命を懸けて願い賜おう……。
ウリエル……!?
達者でな……
ありがとう……