ここで聴かせてくれるの?

ああ。ここはよく裕貴と真帆と三人で曲作りをした場所なんだ

そ、そうなんだ……元カノさん?

ちげーよ、真帆っつーのは俺らのボーカルだった奴な

そっか

しかし、真帆が死んでから初めてギターに触るから上手く弾けるかなー

え?

ん? 前に言っただろ? 真帆は去年亡くなったんだ

亡く……なった?

 ああそうか、真帆が死んだ話になったのは、校舎裏の願いを叶えてくれって時だったか。
 忘れてくれてって言ったんだった。
 こいつ本当に忘れてるのかな。

めちゃめちゃ歌うまかったんだけどな。体が弱かったんだ……

そうだ、All Around Meって曲を弾いてやるよ。これが良い曲なんだぜ

うそ……

おーい。聞いてんのか杏月

 チョップをかます俺。

……

 今更そんな悲しい顔しなくてもいいだろ。

良い曲だからよく聴いとけよ。お前のためにだけ弾くんだからな

 そして俺はバンドでよく弾いていた曲を杏月に聴かせた。

 真帆がやりたいって言って始めた曲でもある。

 ライブも沢山やって、想い出深い曲だ。

 そう考えると哀しくなるな。

 あいつの死は突然だったから。

~♪

 やべえ。
 なんか弾いてて泣きそうになってきた。

 もうあんな悲しい想いはしたくない。
 だからバンドは止めたんだっけ。

 だから誰とも付き合わないって決めたんだっけ。

 ん?
 今思えば、付き合うとかは関係ないんじゃないか。

 俺には今、杏月がいる。
 真帆の死を忘れるわけじゃないが、杏月が見たいって言うなら、またバンド始めてもいいかもな。

どうだ? 良い曲だろ?

ごめん……なさい

は?

ごめん……なさい

 ハンカチを俺に渡す杏月。

え?

 鼻の奥がじーんと痛む。

 気が付くと俺の目からは涙が零れていた。

私の……せいだ

 杏月は身を震わせて泣き出した。

なんで? お前は関係ないだろ

うっ……ううっ……

 ぽろぽろと零れ落ちる涙を、必死に袖で拭う杏月。

ごめん……なさいっ!!

 そう言って杏月は駆け出した。

おいっ! 待てよ!

 俺は涙の意味も分からず、ただただ立ち尽くしていた……。

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